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前編
しおりを挟む「お前なんて価値のない女だ! よって、婚約は破棄する!」
婚約者だった彼アドモルからそう言い放たれたのは昨夜のことだ。
そして今は夕暮れ時。
私が何をしているかというと、一人自室にこもり、意味もなくただひたすらに円を描いている――我が発明品であるコンパスを使って。
黙々と紙に円を描く。
一見馬鹿みたいな行為かもしれない。
しかしこれが意外と精神に良い影響を与えてくれる行動なのだ。
嫌なことがあった時、辛いことがあった時、人はついそのことばかりに目を向けていつまでもあれこれ考えてしまう。もうどうしようもないのに、だ。そう分かっていてもなお負のことにばかり目を向けてしまうというのがよくあること。でもいつまでもそんなことを繰り返していては心が枯れてしまうばかりだ。
そんな時にこそ、この行為が役に立つ!
ただ円を描くだけだ、でもそれが大きな救いとなる。
実際、今私は、この行為を続けることによってアドモルからの心ない言葉から救われている――そんな気がしている。
そうなってしまったものは仕方ない。
でも一つの出来事で心折れて絶望するのはもったいない。
可能性なんて無限にあるのだから。
前を向いて生きていけばきっと良いことだって起こるはず。
今はまだ信じられなくてもいい。それでも脳の片隅に前向きの欠片をそっと置いて、いつかその時が来たら思い出せるように準備しておこう。
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