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episode.5「逆転のこの作戦」
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今回の作戦は二班に分かれて活動することになった。一つはリボソ国軍の戦艦が待機所へ向けて出航したところを狙って攻撃する班。もう一つは既に攻撃を仕掛けてきている戦艦を爆撃する班。エアハルトは前者に、ナスカやトーレたちは後者に含まれた。ジレル中尉も同じだ。安全度は後者の方が明らかに高いので、新しいメンバーはそちらにまとめられた。
ナスカはまたトーレが同じでどこか安堵していた。弱気な彼が、もしもの時に自分を助けてくれるとは期待できないが、それでも、知り合いがいるのといないのでは安心感が違う気がする。
ナスカはいつもと変わらず自機に乗り込む。黒い機体を含む数機が先に滑走路を経由して空へ飛び立つのを窓から見た。きっと上手くいく、と彼女は口の中で小さく呟き、指示に従い発進する。あとは成功のために最善を尽くすだけだ。
予定通りナスカは高度を一気に落とし、リボソ国の戦艦にレーザーミサイルを撃ち込む。予想外の奇襲に一時は狼狽えた敵だったが、直ぐに冷静を取り戻し、周囲を飛び回る赤い機体に対空砲の照準を合わせようとする。時間を稼ぐため、ナスカは時折レーザーミサイルで牽制しながらひたすら高速飛行した。その隙を狙ったジレル中尉の数発のミサイルが戦艦に突き刺さる。ナスカは爆発に巻き込まれないようにその場を素早く離れた。黒い煙に包まれ沈みかけの戦艦に強烈なとどめの一撃を加えたのはトーレであった。
『僕がやったよ! 見たっ!?』
無線越しに成功を喜ぶ明るい声が聞こえてくる。
「最高だったわ、トーレ」
ナスカは前を見据えたままそう返した。ナスカは敵を引き付ける役目をひたすら果たす。できる限り早く、一つ残らず沈ませなければならない。だが余裕だ。心のどこかではそんな風に考えていた。
次々と沈没させる事に成功し、目標は残り一つの戦艦に絞られる。
『残り一つだねっ! あっ、でももう沈みそうかな』
こんな時に分かりきったことをわざわざ教えてくれるのが愛らしいと思った、その数秒後。
前方を飛んでいたトーレの機体が突如爆音と共に煙に包まれる。ナスカは何が起きたのか分からず、取り敢えずそこから離れる。機体は煙に取り巻かれながら垂直に落下していく。
『む、ナスカ、どうしよ……』
無線からトーレの泣きそうな声が伝わってくる。
「何なの!?何が起こったの!」
ナスカには意味が分からなかった。一体急に何が起きたのか。
『し、死にたくないよ、僕は、まだ……』
トーレはひきつった声で答えになっていない発言をする。その頃にようやく理解した。沈みかけの最後の戦艦の大砲が、トーレの乗っていた戦闘機を撃ち落としたのだと。そのまま落下した機体は戦艦に激突して砕けた。しかし辛うじてコックピットのある前方は原形を保っている。奇跡だ。
『こ、怖い……よ……』
無線は生きているらしくまだ掠れた声が伝わってきている。ナスカは助けてあげたいが下手に動くわけにもいかず、無力さを感じながらただ傍観するしかない。
『死にたくない。まだ死にたくない。でも、苦しくて、死にたい。……よく分からない。ナスカ……どこ……?』
トーレは完全に動転していて荒い息と共に意味不明な事をうわ言の様に繰り返す。
『このまま死ぬかな……火に……怖い怖い怖い』
気味悪く繰り返し呟かれる呪文のような言葉を、淡々としたジレル中尉の声が遮った。
『仕事は終わった、撤退せよ。新米の救出は私がする』
彼の搭乗機は高度を落としトーレがいる戦艦の上部の辺りへ接近すると扉を開き、何とか這いずり出てきていたトーレに対して「乗り込め」と指示する。しかしトーレは怖い怖いと繰り返すだけで全く進展が無い。少々苛立ったジレル中尉は「お前はまだ死なない! 帰るんだ!」と怒鳴った。
いつも無口な男の怒声にハッとしたトーレは少しだけだが正気を取り戻して手を伸ばす。力いっぱい伸ばした。しかし空振りばかり。ジレル中尉はほとんど機体から乗り出す様な体勢で腕を伸ばした。やがて手と手が繋がる。ジレル中尉が腕を一気に引き上げるとトーレは空中へ持ち上がった。
「よし、離すな」
機体が進行方向を変える時、片翼が戦艦の端に接触してしまう。それでバランスを崩した機体は落下する様な勢いで待機所へ向かってくる。様子を見ていたナスカらは慌てて離れた。金属が擦れる大きな音が響き、ナスカは思わず目を閉じる。
——そして沈黙が訪れる。
やがて誰かが口を開いた。
「出てきた! 生きてるぞ!」
ナスカはその声を聞いてから恐る恐る目を開く。するとトーレを抱えてジレル中尉が降りてきているのが見えた。安堵したと同時に彼の方へ駆け寄る。その途中で、ナスカは違和感を感じた。
「ジレル中尉……左腕は?」
トーレを抱える右腕に視線が向かいがちだが、左腕が見当たらない。ジレル中尉は左を見下ろしてから真顔で言う。
「うむ、無いな」
沈黙が二人を包む。
「いやいや! 無いなじゃないでしょうっ!!」
つい出てしまったナスカの突っ込みにもジレル中尉は動じない。
「それよりこの新米を持ってくれないか? 重いのだが」
「重いとか言ってる場合じゃないと思うけど……」
ナスカは意識を失っているトーレを抱き抱える。脱力しているので意外と重かった。ジレル中尉が空いた右手で左肩の傷口に触れようとしているのに気付いたナスカは「触っては駄目です」と制止する。
「不思議なもので、気付いてしまうと妙に気になるんだ」
冷静な表情とは裏腹に傷口からは血液が流れ出て衣服が生々しい赤に染まっている。こんな事をしている場合ではないと思い、遠巻きに様子を見ている男性に救護班を呼んでくれと頼んだ。男性は走って建物の方へ走っていく。その間も傷口を気にしてそわそわしているジレル中尉だったが、さすがに顔の血色が悪い気がする。普段から血の通っていないような色白だが、今は特に肌に艶が無い。
救護班の数名が到着すると、まずナスカが支えていたトーレを担架に乗せて建物へ引き返した。その時間は僅か一分にも満たない程だった。慣れていて素早い。
残っていた救護班に所属する四十代ぐらいの優しそうなおばさんは、ジレル中尉の腕を持とうとして唾を飲んだ。
「大変! 貴方の方が重傷じゃないですか。早く手当てしないといけません!」
遅れて建物から出てきた男性二人におばさんが状況を説明する。
「大丈夫ですか? 歩けますか」
片方の男性が慌てず落ち着いて声をかける。それに対してジレル中尉は「問題ない」と強気な発言をして歩き出そうとしたが、急にバランスを崩して膝を地面に着いた。
「担架で運びます。無理しないで下さい。大人しくしていないと取り返しのつかない大事になりますよ」
トーレを乗せていった担架が戻ってくると、男二人がかりで脱力したジレル中尉を持ち上げて担架へ横たわらせた。瑞々しさのない肌には冷や汗が浮かび、虚ろな視点の定まらない目で周囲を見回している。腕の傷口に当てていた白タオルがじわりと鮮血で染まる。
またその場に残ったおばさんはナスカに「もう大丈夫です、戻りましょう」と優しく声をかけた。ナスカは頷きはしたが、改めて自分の無力さを突き付けられたような気がして、心が沈んでいた。
ナスカはその日、夕食を食べる気にはならなかった。否、なれなかった。だからパン一つをつまんだだけで食べるのを止めた。
トーレが助かったのは何よりも良かったのだが、どうしても明るい気分にはなれない。そんな心理状態でぼんやりしていたナスカの背後から、真っ青な顔をしたマリアムが突進するように走ってきた。
「ナスカ! どうしようっ、ナスカ!」
慌てた声に驚きナスカは振り返る。
「アードラーさんの、搭乗機がエンジンの不調で……どうしよう、どうしよう。どうすれば良いのっ!?」
焦りで何のこっちゃら分からないので、ナスカはとにかく彼女を落ち着かせようと試みる。
「落ち着いて下さい。ゆっくり話してくれませんか?」
マリアムの目には涙の粒が浮かんでいる。いつもは常に笑顔な人だけに、涙目になっていると、大事だとよく伝わる。
「そう、そうだよね。……うん。落ち着かなくちゃ。落ち着いて、……説明するね」
それからマリアムは途切れ途切れに話し始めた。
飛行中にエアハルトの機体のエンジンが故障し、何とか無事着陸したらしいが、リボソ国の領土に着陸してしまい帰ってこない、という話だった。
「もし捕虜にされて……あたしのせいで、アードラーさんが辛い目にあったりなんかしたら、あたし……生きていけないよ」
どうやら責任を感じているらしい。いつも喧嘩してばかりだが、本当はエアハルトのことを大切に思っているんだな、とナスカは感心した。だが感心してばかりもいられない。
「それは大変! けど、そういうことなら、上の方がどうにかしてくださるのではありませんか?」
するとマリアムは涙目のまま激しく首を横に振る。
「上なんか信頼出来ないよ。厄介事になったらあいつらは絶対に見捨てるもの! ああいう人たちはいつも、自分たちの利益しか考えていない!」
そして悲しそうに続ける。
「でも……悔しいけど、あたしにできることは無い。それは事実なのよね……」
確かにそうだ。整備士ではどうしようもない。それに、一人二人が動いたところで、上が動かなければ意味がない。
「嘘か本当か分からないけど、リボソ国のそっち系は残酷だとか。心配ばっかりだよ。それに最悪、拷問に屈したアードラーさんが敵になるってこともあるかも」
ナスカは表面上は慰めていたが、頭では今回の作戦が本当に必要だったのかという疑問を考えていた。ジレル中尉の片腕にエアハルト、作戦の成功のために払ったものは大きすぎたのではないか?
「エアハルトさんのことですから上手くやってると思いますよ。あの人、外見の割に精神強いですし……ちょっとやそっとで従ったりはしないかと」
できる限り和ませようとナスカは全力を尽くした。
それからしばらくして、緊急で行われたテレビ集会にてその話題が持ち出されると、辺りの空気が一気に重苦しくなる。ナスカは一人寂しくテレビの映像を見ていた。マリアムは自分の部屋へ帰ったらしく、来なかった。
ナスカはまたトーレが同じでどこか安堵していた。弱気な彼が、もしもの時に自分を助けてくれるとは期待できないが、それでも、知り合いがいるのといないのでは安心感が違う気がする。
ナスカはいつもと変わらず自機に乗り込む。黒い機体を含む数機が先に滑走路を経由して空へ飛び立つのを窓から見た。きっと上手くいく、と彼女は口の中で小さく呟き、指示に従い発進する。あとは成功のために最善を尽くすだけだ。
予定通りナスカは高度を一気に落とし、リボソ国の戦艦にレーザーミサイルを撃ち込む。予想外の奇襲に一時は狼狽えた敵だったが、直ぐに冷静を取り戻し、周囲を飛び回る赤い機体に対空砲の照準を合わせようとする。時間を稼ぐため、ナスカは時折レーザーミサイルで牽制しながらひたすら高速飛行した。その隙を狙ったジレル中尉の数発のミサイルが戦艦に突き刺さる。ナスカは爆発に巻き込まれないようにその場を素早く離れた。黒い煙に包まれ沈みかけの戦艦に強烈なとどめの一撃を加えたのはトーレであった。
『僕がやったよ! 見たっ!?』
無線越しに成功を喜ぶ明るい声が聞こえてくる。
「最高だったわ、トーレ」
ナスカは前を見据えたままそう返した。ナスカは敵を引き付ける役目をひたすら果たす。できる限り早く、一つ残らず沈ませなければならない。だが余裕だ。心のどこかではそんな風に考えていた。
次々と沈没させる事に成功し、目標は残り一つの戦艦に絞られる。
『残り一つだねっ! あっ、でももう沈みそうかな』
こんな時に分かりきったことをわざわざ教えてくれるのが愛らしいと思った、その数秒後。
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『む、ナスカ、どうしよ……』
無線からトーレの泣きそうな声が伝わってくる。
「何なの!?何が起こったの!」
ナスカには意味が分からなかった。一体急に何が起きたのか。
『し、死にたくないよ、僕は、まだ……』
トーレはひきつった声で答えになっていない発言をする。その頃にようやく理解した。沈みかけの最後の戦艦の大砲が、トーレの乗っていた戦闘機を撃ち落としたのだと。そのまま落下した機体は戦艦に激突して砕けた。しかし辛うじてコックピットのある前方は原形を保っている。奇跡だ。
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『死にたくない。まだ死にたくない。でも、苦しくて、死にたい。……よく分からない。ナスカ……どこ……?』
トーレは完全に動転していて荒い息と共に意味不明な事をうわ言の様に繰り返す。
『このまま死ぬかな……火に……怖い怖い怖い』
気味悪く繰り返し呟かれる呪文のような言葉を、淡々としたジレル中尉の声が遮った。
『仕事は終わった、撤退せよ。新米の救出は私がする』
彼の搭乗機は高度を落としトーレがいる戦艦の上部の辺りへ接近すると扉を開き、何とか這いずり出てきていたトーレに対して「乗り込め」と指示する。しかしトーレは怖い怖いと繰り返すだけで全く進展が無い。少々苛立ったジレル中尉は「お前はまだ死なない! 帰るんだ!」と怒鳴った。
いつも無口な男の怒声にハッとしたトーレは少しだけだが正気を取り戻して手を伸ばす。力いっぱい伸ばした。しかし空振りばかり。ジレル中尉はほとんど機体から乗り出す様な体勢で腕を伸ばした。やがて手と手が繋がる。ジレル中尉が腕を一気に引き上げるとトーレは空中へ持ち上がった。
「よし、離すな」
機体が進行方向を変える時、片翼が戦艦の端に接触してしまう。それでバランスを崩した機体は落下する様な勢いで待機所へ向かってくる。様子を見ていたナスカらは慌てて離れた。金属が擦れる大きな音が響き、ナスカは思わず目を閉じる。
——そして沈黙が訪れる。
やがて誰かが口を開いた。
「出てきた! 生きてるぞ!」
ナスカはその声を聞いてから恐る恐る目を開く。するとトーレを抱えてジレル中尉が降りてきているのが見えた。安堵したと同時に彼の方へ駆け寄る。その途中で、ナスカは違和感を感じた。
「ジレル中尉……左腕は?」
トーレを抱える右腕に視線が向かいがちだが、左腕が見当たらない。ジレル中尉は左を見下ろしてから真顔で言う。
「うむ、無いな」
沈黙が二人を包む。
「いやいや! 無いなじゃないでしょうっ!!」
つい出てしまったナスカの突っ込みにもジレル中尉は動じない。
「それよりこの新米を持ってくれないか? 重いのだが」
「重いとか言ってる場合じゃないと思うけど……」
ナスカは意識を失っているトーレを抱き抱える。脱力しているので意外と重かった。ジレル中尉が空いた右手で左肩の傷口に触れようとしているのに気付いたナスカは「触っては駄目です」と制止する。
「不思議なもので、気付いてしまうと妙に気になるんだ」
冷静な表情とは裏腹に傷口からは血液が流れ出て衣服が生々しい赤に染まっている。こんな事をしている場合ではないと思い、遠巻きに様子を見ている男性に救護班を呼んでくれと頼んだ。男性は走って建物の方へ走っていく。その間も傷口を気にしてそわそわしているジレル中尉だったが、さすがに顔の血色が悪い気がする。普段から血の通っていないような色白だが、今は特に肌に艶が無い。
救護班の数名が到着すると、まずナスカが支えていたトーレを担架に乗せて建物へ引き返した。その時間は僅か一分にも満たない程だった。慣れていて素早い。
残っていた救護班に所属する四十代ぐらいの優しそうなおばさんは、ジレル中尉の腕を持とうとして唾を飲んだ。
「大変! 貴方の方が重傷じゃないですか。早く手当てしないといけません!」
遅れて建物から出てきた男性二人におばさんが状況を説明する。
「大丈夫ですか? 歩けますか」
片方の男性が慌てず落ち着いて声をかける。それに対してジレル中尉は「問題ない」と強気な発言をして歩き出そうとしたが、急にバランスを崩して膝を地面に着いた。
「担架で運びます。無理しないで下さい。大人しくしていないと取り返しのつかない大事になりますよ」
トーレを乗せていった担架が戻ってくると、男二人がかりで脱力したジレル中尉を持ち上げて担架へ横たわらせた。瑞々しさのない肌には冷や汗が浮かび、虚ろな視点の定まらない目で周囲を見回している。腕の傷口に当てていた白タオルがじわりと鮮血で染まる。
またその場に残ったおばさんはナスカに「もう大丈夫です、戻りましょう」と優しく声をかけた。ナスカは頷きはしたが、改めて自分の無力さを突き付けられたような気がして、心が沈んでいた。
ナスカはその日、夕食を食べる気にはならなかった。否、なれなかった。だからパン一つをつまんだだけで食べるのを止めた。
トーレが助かったのは何よりも良かったのだが、どうしても明るい気分にはなれない。そんな心理状態でぼんやりしていたナスカの背後から、真っ青な顔をしたマリアムが突進するように走ってきた。
「ナスカ! どうしようっ、ナスカ!」
慌てた声に驚きナスカは振り返る。
「アードラーさんの、搭乗機がエンジンの不調で……どうしよう、どうしよう。どうすれば良いのっ!?」
焦りで何のこっちゃら分からないので、ナスカはとにかく彼女を落ち着かせようと試みる。
「落ち着いて下さい。ゆっくり話してくれませんか?」
マリアムの目には涙の粒が浮かんでいる。いつもは常に笑顔な人だけに、涙目になっていると、大事だとよく伝わる。
「そう、そうだよね。……うん。落ち着かなくちゃ。落ち着いて、……説明するね」
それからマリアムは途切れ途切れに話し始めた。
飛行中にエアハルトの機体のエンジンが故障し、何とか無事着陸したらしいが、リボソ国の領土に着陸してしまい帰ってこない、という話だった。
「もし捕虜にされて……あたしのせいで、アードラーさんが辛い目にあったりなんかしたら、あたし……生きていけないよ」
どうやら責任を感じているらしい。いつも喧嘩してばかりだが、本当はエアハルトのことを大切に思っているんだな、とナスカは感心した。だが感心してばかりもいられない。
「それは大変! けど、そういうことなら、上の方がどうにかしてくださるのではありませんか?」
するとマリアムは涙目のまま激しく首を横に振る。
「上なんか信頼出来ないよ。厄介事になったらあいつらは絶対に見捨てるもの! ああいう人たちはいつも、自分たちの利益しか考えていない!」
そして悲しそうに続ける。
「でも……悔しいけど、あたしにできることは無い。それは事実なのよね……」
確かにそうだ。整備士ではどうしようもない。それに、一人二人が動いたところで、上が動かなければ意味がない。
「嘘か本当か分からないけど、リボソ国のそっち系は残酷だとか。心配ばっかりだよ。それに最悪、拷問に屈したアードラーさんが敵になるってこともあるかも」
ナスカは表面上は慰めていたが、頭では今回の作戦が本当に必要だったのかという疑問を考えていた。ジレル中尉の片腕にエアハルト、作戦の成功のために払ったものは大きすぎたのではないか?
「エアハルトさんのことですから上手くやってると思いますよ。あの人、外見の割に精神強いですし……ちょっとやそっとで従ったりはしないかと」
できる限り和ませようとナスカは全力を尽くした。
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