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12話「心からの想いを」
しおりを挟む突如窓から現れた謎の小男はふんふんふ~んと何の曲でもない鼻歌を歌いながら部屋に入ってきた。
さもそれが当たり前であるかのように。
「勝手に入らないでください、不法侵入ですよ」
ウェネスはそう言ってけん制するけれど。
「ぅうぇ~いっ? 出入りくらいじゆっうぅ~ん!」
小男はそんな意味不明な言葉を返すだけ。
それから彼は右手を僅かに持ち上げる――上向きになった手のひらの近くでばちばちと火花が散った。
「オレッタお嬢様ぁ~ん、今日ここが墓場になるんでちよぉ~?」
挑発的な顔をする小男。
ウェネスは現れた敵を警戒しつつ「下がってください」と言ってきた。私はその指示に従い後退、ウェネスに隠れるような位置につく。
全開になった窓から風が吹き込んで、室内がぐっと冷えた気がした。
「彼女を狙う刺客、ですか」
「うっふぅ~ん! そ! てか、あんた誰なんでっすぅ~かぁ~?」
「彼女を殺させはしません」
「はぁ~? な~ま~い~きぃ~」
語尾を持ち上げるようなくせのある喋り方をする小男はしわの多い面に不気味な笑みを滲ませ、それから急に右手の手のひらをこちらへとかざした。
――電撃が飛んでくる。
対するウェネスは咄嗟に片腕を前へ出してそれを防いだ。
……腕で。
どうやら魔法を使う敵のようだ。
今のは高威力ではなかった、恐らく様子見程度の感覚で放ったものだったのだろう。
殺すための一撃ではなかったのだろう、と推測。
とはいえ油断はできない。
小男はまだ本気を出していないはずだ、本当はもっと高い威力の魔法を使ってくるに違いない。
つまり、まだ何も始まっていないのだ。
「腕で防ぐなんってぇ~! かっくぉい~うぃ!」
直後、小男はナイフを取り出した。銀に煌めく刃が見る者に自然と恐怖を植え付けるような武器。彼はその武器に電撃をまとわせた。刃の表面で電気が跳ねる、それこそ他者を威嚇するかのように。
そして駆け出した。
接近してくる小男。
「ウェネスさん!」
「下がっていてください!」
どこか嬉しげな興奮に満ちた目つきでウェネスに斬りかかる小男。しかしウェネスは冷静に対応する。相手の武器が身を傷つけるほどに迫ったタイミングで魔法を発動し、小男の武器をその片腕ごと木の根のようなもので拘束する。そしてウェネスは武器を小男の片腕ごともぎ取った。
「ぎゃあああああああ!!」
片腕を失った小男は叫ぶ。
「まだやりますか。やるというのなら遠慮はしません」
ウェネスが睨めば、小男は恐れたような目をした。
「ぐ……ぅ、いの、ちは……賭けられ、ない……ここは逃げるゥッ!!」
フラッシュを放つ。
そして小男はその場から消えた。
「き、消えた……?」
思わずそんな声がこぼれて。
「そのようですね」
こちらへ視線を向けたウェネスと目が合った。
「やっぱり強いです、ウェネスさん」
氷が溶けるように徐々に緊張が解けてゆく。
「やはり二人暮らしにして正解でしたね」
「……はい」
「これからも何かあるかもしれませんが、もしそうだとしても、きっと護ってみせます」
今はもう「ごめんなさい」ばかりは言わない。
「本当に、ありがとうございます」
謝ることも時には大事だ。
でも人生とはそれだけではない。
だから今は、感謝、それを告げよう。
心からの想いを。
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