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21.明るくも元気にもなれない!
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普通に夜を過ごし、普通に寝て、普通に朝を迎える。今日も、皆にとっては何の特別感もない日だ。空には雲はあるが、それも全体を覆い尽くすほどの量ではない。ほどよい晴れの日である。
だが、フレアにとっては、いつになく憂鬱な日だった。
昨日の謎の紙のことがあるからである。
命を狙う、というような書き置きをされて平気で過ごせる人間などどこにも存在しない。
フレアだって人間だ、怪しい手紙に動揺もする。
「ねぇ、フレアちゃん。何だか様子がおかしくない?」
「…………」
教室に向かう最中、いつものような感覚でミルフィは、フレアに無視されて目を見開く。フレアが話しかけられて無視するところなんて見たことがなかったから、衝撃を受けたのだろう。
「もしもーし。ねぇねぇ? フレアちゃーん?」
「…………」
「フレアちゃんったら!」
堪らなくなり、ミルフィはついにフレアの肩を叩いた。
するとフレアはようやく反応する。
「……あ。ご、ごめん。何だった?」
「話しかけてたのよ? 聞こえてなかったの?」
「ごめんなさい。考え事をしていたわ。それで、話って何かしら」
ミルフィは不思議そうな顔をしつつ、「今日の授業のことについて話そうと思ったのよ」と述べ、それからは通常通りの会話が始まった。
授業の合間の休憩時間。
花組の生徒は、半分ほどは教室内に残っているが、それ以外の半分くらいは教室の外にいる。
「ねぇ、フレアちゃん。ノート借りても良いかしら?」
「…………」
授業時間は怠惰に過ごしていたミルフィがフレアに声をかけるが、フレアはペンを握ったままじっとしている。彼女の時だけが止まっているかのよう。視線は宙で固定されている。
「フレアちゃんフレアちゃん? またぼんやりしているの?」
「…………」
ミルフィは諦めずに声をかけることを継続。だがフレアは反応しない。その状況に違和感を覚えたリカルドが、フレアに向かって「王女、話しかけられてるぞ」と教えた。その数秒後だ、フレアが正気を取り戻したのは。
「……はっ。話しかけられてた?」
「さっきからずっとな」
リカルドに教えられ気がついたフレアは、すぐさまミルフィの方へと視線を向ける。
「ごめん!」
正気を取り戻したフレアを見て、ミルフィは安堵したような顔をした。
「怒ってないわよ。でも、何だかぼんやりしてるわね? 大丈夫?」
「え、ええ! 平気! 大丈夫!」
「……今朝から様子が変よ? 何かあったのかしら」
ミルフィに問われどきりとしたフレアは、頭が飛んでいきそうな勢いで首を左右に振る。
「な、なななない! ないわ!」
フレアは「何でもない」と言おうとしていたのだろうが、その振る舞いの不審さを見れば誰だって「本当は何かあったのだな」と察したことだろう。ミルフィも例外ではなかった。
「変ねぇ。慌てちゃって」
「あ、あああ慌ててる!? ない! ないわよ、そんなこと!」
「……落ち着いて、フレアちゃん」
隣で様子を見ていたリカルドも、話し相手であるミルフィも、フレアのおかしさに既に気がついていることだろう。
「あたしはね、ノートを借りようと思って声をかけたのよ?」
「そ、そう! 貸すわ」
フレアは自身のノートを素早くミルフィに差し出す。
「良かった。ありがとう、本当に助かるわ」
ミルフィは、フレアの挙動不審さについて、それ以上は聞かなかった。
夜、寮の部屋に帰って二人きりになるや否や、ミルフィがフレアに話しかけた。
「ねぇフレアちゃん。今日少し様子がおかしかったけど、本当に何もなかったの?」
自分用のベッドに寝転がりぼんやり天井を見上げていたフレアは、いきなりの問いに、ドキッとしたような顔をする。手の指はシーツを掴み、顔の筋肉は強張る。
「どうして……?」
フレアは勢いをつけて体を縦にし、少し細めた目でミルフィを見る。
「だってほら、明らかにおかしかったじゃなーい」
「……な、何でもない」
「それならいいけど、何かあったなら話してちょうだいね? あたし、いつでも力になるわよ」
ミルフィに優しい言葉をかけてもらったフレアは、暫し考え込むような顔をしていたが、やがて決心したように一人頷く。そして、ベッドから降りると、鞄を漁り始めた。急に活発に動き出したフレアを、ミルフィは不思議そうに見つめている。だがフレアは見られていることには気づいていなかった。
「……実は、これ」
やがてフレアは鞄から一枚の紙をとりだした。
そう、あの紙である。
フレアは『次はお前だ、王女』と書かれた紙をミルフィに見せた。
「あら! 何これ、どこで手に入れたの!?」
白い紙に黒いペンで書かれている、殺伐とした言葉。それを初めて目にしたミルフィは愕然とする。想定外のことだったのだろう。
「……昨日、部屋に戻ったら、ベッドに置かれていたの」
フレアは両手を合わせて俯きながら、紙を入手した経緯を短く説明した。
するとミルフィは憤慨する。
「悪質ないたずらね! こんなこと誰がやったのかしら!」
ミルフィは長く大きな溜め息をつく。それから腕を組み、眉頭を寄せて「とにかく、誰かに相談する必要がありそうね」と漏らした。フレアは「不気味な紙を貰って怖くて……」と自分の話を続けているが、ミルフィは思考に入ってしまっていてあまり聞いていない。ただ、フレアは心の苦しさを吐き出せるだけで良いらしく、しっかり聞いてもらえていないということを気にしてはいないようだった。
「ねぇミルフィ、どうしたらいいと思う……?」
不安の種を打ち明け、少し落ち着いたフレアは、ミルフィに意見を求めた。
「そうねぇ……。まずは誰かに相談してみたら良いんじゃないかしら」
「う、うん。じゃあ、リカルドとか? 担任とか?」
「そうね。その二人には話しておいた方が良さそうだわ」
ミルフィの言葉にフレアは数回頷く。ミルフィの意見には賛成しているようだ。
だが、フレアにとっては、いつになく憂鬱な日だった。
昨日の謎の紙のことがあるからである。
命を狙う、というような書き置きをされて平気で過ごせる人間などどこにも存在しない。
フレアだって人間だ、怪しい手紙に動揺もする。
「ねぇ、フレアちゃん。何だか様子がおかしくない?」
「…………」
教室に向かう最中、いつものような感覚でミルフィは、フレアに無視されて目を見開く。フレアが話しかけられて無視するところなんて見たことがなかったから、衝撃を受けたのだろう。
「もしもーし。ねぇねぇ? フレアちゃーん?」
「…………」
「フレアちゃんったら!」
堪らなくなり、ミルフィはついにフレアの肩を叩いた。
するとフレアはようやく反応する。
「……あ。ご、ごめん。何だった?」
「話しかけてたのよ? 聞こえてなかったの?」
「ごめんなさい。考え事をしていたわ。それで、話って何かしら」
ミルフィは不思議そうな顔をしつつ、「今日の授業のことについて話そうと思ったのよ」と述べ、それからは通常通りの会話が始まった。
授業の合間の休憩時間。
花組の生徒は、半分ほどは教室内に残っているが、それ以外の半分くらいは教室の外にいる。
「ねぇ、フレアちゃん。ノート借りても良いかしら?」
「…………」
授業時間は怠惰に過ごしていたミルフィがフレアに声をかけるが、フレアはペンを握ったままじっとしている。彼女の時だけが止まっているかのよう。視線は宙で固定されている。
「フレアちゃんフレアちゃん? またぼんやりしているの?」
「…………」
ミルフィは諦めずに声をかけることを継続。だがフレアは反応しない。その状況に違和感を覚えたリカルドが、フレアに向かって「王女、話しかけられてるぞ」と教えた。その数秒後だ、フレアが正気を取り戻したのは。
「……はっ。話しかけられてた?」
「さっきからずっとな」
リカルドに教えられ気がついたフレアは、すぐさまミルフィの方へと視線を向ける。
「ごめん!」
正気を取り戻したフレアを見て、ミルフィは安堵したような顔をした。
「怒ってないわよ。でも、何だかぼんやりしてるわね? 大丈夫?」
「え、ええ! 平気! 大丈夫!」
「……今朝から様子が変よ? 何かあったのかしら」
ミルフィに問われどきりとしたフレアは、頭が飛んでいきそうな勢いで首を左右に振る。
「な、なななない! ないわ!」
フレアは「何でもない」と言おうとしていたのだろうが、その振る舞いの不審さを見れば誰だって「本当は何かあったのだな」と察したことだろう。ミルフィも例外ではなかった。
「変ねぇ。慌てちゃって」
「あ、あああ慌ててる!? ない! ないわよ、そんなこと!」
「……落ち着いて、フレアちゃん」
隣で様子を見ていたリカルドも、話し相手であるミルフィも、フレアのおかしさに既に気がついていることだろう。
「あたしはね、ノートを借りようと思って声をかけたのよ?」
「そ、そう! 貸すわ」
フレアは自身のノートを素早くミルフィに差し出す。
「良かった。ありがとう、本当に助かるわ」
ミルフィは、フレアの挙動不審さについて、それ以上は聞かなかった。
夜、寮の部屋に帰って二人きりになるや否や、ミルフィがフレアに話しかけた。
「ねぇフレアちゃん。今日少し様子がおかしかったけど、本当に何もなかったの?」
自分用のベッドに寝転がりぼんやり天井を見上げていたフレアは、いきなりの問いに、ドキッとしたような顔をする。手の指はシーツを掴み、顔の筋肉は強張る。
「どうして……?」
フレアは勢いをつけて体を縦にし、少し細めた目でミルフィを見る。
「だってほら、明らかにおかしかったじゃなーい」
「……な、何でもない」
「それならいいけど、何かあったなら話してちょうだいね? あたし、いつでも力になるわよ」
ミルフィに優しい言葉をかけてもらったフレアは、暫し考え込むような顔をしていたが、やがて決心したように一人頷く。そして、ベッドから降りると、鞄を漁り始めた。急に活発に動き出したフレアを、ミルフィは不思議そうに見つめている。だがフレアは見られていることには気づいていなかった。
「……実は、これ」
やがてフレアは鞄から一枚の紙をとりだした。
そう、あの紙である。
フレアは『次はお前だ、王女』と書かれた紙をミルフィに見せた。
「あら! 何これ、どこで手に入れたの!?」
白い紙に黒いペンで書かれている、殺伐とした言葉。それを初めて目にしたミルフィは愕然とする。想定外のことだったのだろう。
「……昨日、部屋に戻ったら、ベッドに置かれていたの」
フレアは両手を合わせて俯きながら、紙を入手した経緯を短く説明した。
するとミルフィは憤慨する。
「悪質ないたずらね! こんなこと誰がやったのかしら!」
ミルフィは長く大きな溜め息をつく。それから腕を組み、眉頭を寄せて「とにかく、誰かに相談する必要がありそうね」と漏らした。フレアは「不気味な紙を貰って怖くて……」と自分の話を続けているが、ミルフィは思考に入ってしまっていてあまり聞いていない。ただ、フレアは心の苦しさを吐き出せるだけで良いらしく、しっかり聞いてもらえていないということを気にしてはいないようだった。
「ねぇミルフィ、どうしたらいいと思う……?」
不安の種を打ち明け、少し落ち着いたフレアは、ミルフィに意見を求めた。
「そうねぇ……。まずは誰かに相談してみたら良いんじゃないかしら」
「う、うん。じゃあ、リカルドとか? 担任とか?」
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