23 / 51
23.お化粧してもらった!
しおりを挟む
不穏さもある中でフレアは日々勉学に勤しみ、そのうちに夏も遠ざかってゆく。肌が焼けるほど強かった日差しは徐々に落ち着き、吹き抜ける風の温度も心なしか下がって。そんな中、十月を迎える。
「今月は『秋の恵みパーティー』が開かれる。よって、準備日である七日と当日の八日は、授業はない。勘違いしないよう気をつけてくれ」
十月に入ったある日、朝の会で担任のカッタルが告げた。
フレアは知らなかったが、ガーベラ学院の『秋の恵みパーティー』というのはそこそこ有名なイベントらしい。いろいろな食べ物の収穫の季節である秋に、実りを祝う会。当日は食事が提供されるとか。
噂によれば、そのパーティーで知り合った生徒同士が結婚することもあるらしい。
無論、それはロマンチストな女子生徒が好きそうな噂話に過ぎない。
だが完全な嘘というわけでもないようだ。
ガーベラ学院の長い歴史の中には、そういった例も、確かに存在しているようで。
「当日は全クラス合同だ。この学院で過ごす時間はもうそれほど長くないだろうが、ぜひ、ゆったり交流を楽しんでくれ」
カッタルの話が終わると、その日の朝の会は終了した。
朝の会終了後、一番に口を開いたのはカステラ。彼女は、合わせた両手を胸の前の高さに置き、うっとりしながら「パーティーで運命の人との出会い……憧れますぅ……」と述べる。ただし、それは誰に対してでもない発言。いわば独り言のようなものである。
「あらあら。カステラちゃんったら、乙女ねぇ」
テーブルに片肘をつきながら、ミルフィは柔らかく笑う。
「ふぇ!?」
「運命の人との出会いに憧れるなんて、本当に可愛いわ」
「へ、変ですかーっ!?」
「まさか。変なんて言ってないわよ。そういうところが素敵だって、そう言っているのよ。ふふ」
一限目の開始まではまだ時間がある。たった数分ではあるのだが、それは、教室内で待機していると案外長い時間なのだ。
「褒めてくれているんですかーっ!?」
「そうそう。その通りよ」
「ほっ……それなら安心しましたー……」
ミルフィの発言の意図を勘違いしてしまっていたカステラは、褒められていたのだと知って安堵の表情を浮かべる。
授業終了後。
フレアはミルフィと共に、一旦、寮内の自室に戻る。
部屋に入るや否や、ミルフィが素早く自身のベッドの方へと向かう。フレアはそれを「どうしたのかな?」と思いつつ見ていた。すると、ミルフィは布製のポーチを取り出してくる。紺色のやや厚みのありそうなポーチだ。
「ねぇねぇ。フレアちゃんはお化粧したことある?」
「あまりないわ」
ミルフィの問いに、フレアは正直に答えた。
「一回試してみなーい?」
彼女が出してきたポーチは化粧道具が入っているポーチだったようだ。上側のチャックを開けると、棒状のものや真四角のものなどが覗いた。
「……え。私? どうして?」
「ふふ。あたし、フレアちゃんはもっと綺麗になると思うのよねぇ」
ミルフィはフレアを室内唯一の椅子に座らせる。
そこはミルフィがいつも化粧の研究をしている場所。いつでも顔全体鏡が見られるよう、机には鏡が置いてある。
「一度試してみても良いかしら」
「べつに良いけど……」
「決まりね! じゃ、始めましょ」
フレアはまだ少女なので、化粧にはあまり詳しくない。王女として人前に出る時に薄い化粧を施してもらうことはあったけれど。でも、そこまで興味がなかったので、いつも専門家に任せきりにしていた。
「ふっふふ。可愛い娘をもーっと可愛くできるあたしは幸せねぇ」
ミルフィの手つきは慣れたものだった。鼻歌を歌いながら、軽やかに道具を操り、フレアの顔に華を添えてゆく。その技術は、まるでプロのようだ。
とはいえ、フレアは、最初は内心どうでもいいと思っていた。それに、化粧してもしなくても大差ないだろう、と思っている部分もあった。だが、ミルフィ製のメイクが進んでいくにつれ、フレアは驚く。己の顔面の変貌に。
「か、変わり過ぎじゃない……?」
「変わるのよ、女はね! あまり濃くなり過ぎないようにするわ。だから安心してちょうだい」
十数分でフレアのメイクは完成した。
ミルフィに「できたわよ!」と言われて鏡を覗いた時、フレアは絶句する。
今やフレアは大人びた顔になっている。品はあり、しかしながらどことなく色気もある——そんな顔が出来上がっていた。
「凄い……」
唇、肌、目もと。そのすべてが、ミルフィの化粧の腕によって、日頃より美しいものに変わっている。フレアは、自分のことだからこそ、その変化をより一層大きく感じていた。
「でしょでしょ? 可愛いでしょ?」
「私じゃないみたい……!」
始めこそ乗り気でなかったフレアだが、今は嬉しそうな顔をしている。
「フレアちゃんは元からとっても可愛いのよ。でも、こうして少しお化粧するだけで、もーっと魅力的になったはずだわ」
ミルフィは小さな頃からお化粧というものに強い興味を抱いていた。男性のことは好きでないので、男性に良いイメージを持ってもらうためではなかったけれど。でも、なぜか強い関心があったのだ。ミルフィは、そもそも整っていて華やかな顔立ちなので、すっぴんでも一般人より美人ではある。しかし、それでも、顔をより一層華やかにするメイクが好きで長年研究を重ねてきた。それゆえ、腕前はかなりのものだろう。
「ありがとう、ミルフィ! 何だか新鮮な体験だわ」
「いいのよ。またいつでも言って。フレアちゃんになら、いつでもどこでもお化粧してあげる」
その後、フレアは化粧を施してもらった状態のままで、食堂に夕飯を食べに行った。そこでばったり出会ったアダルベルトは、数秒、フレアがフレアであることに気がつかなかった。それほどいつもと違っていた、ということなのだろう。
結局フレアは、その日の晩入浴する際に化粧を落とした。
けれど、ミルフィに華を添えてもらったことは、フレアにとって大きな思い出の一つとなったのだった。
私でも頑張れば大人っぽくなれる。
そう思えたことは、特に大きかったことだろう。
「今月は『秋の恵みパーティー』が開かれる。よって、準備日である七日と当日の八日は、授業はない。勘違いしないよう気をつけてくれ」
十月に入ったある日、朝の会で担任のカッタルが告げた。
フレアは知らなかったが、ガーベラ学院の『秋の恵みパーティー』というのはそこそこ有名なイベントらしい。いろいろな食べ物の収穫の季節である秋に、実りを祝う会。当日は食事が提供されるとか。
噂によれば、そのパーティーで知り合った生徒同士が結婚することもあるらしい。
無論、それはロマンチストな女子生徒が好きそうな噂話に過ぎない。
だが完全な嘘というわけでもないようだ。
ガーベラ学院の長い歴史の中には、そういった例も、確かに存在しているようで。
「当日は全クラス合同だ。この学院で過ごす時間はもうそれほど長くないだろうが、ぜひ、ゆったり交流を楽しんでくれ」
カッタルの話が終わると、その日の朝の会は終了した。
朝の会終了後、一番に口を開いたのはカステラ。彼女は、合わせた両手を胸の前の高さに置き、うっとりしながら「パーティーで運命の人との出会い……憧れますぅ……」と述べる。ただし、それは誰に対してでもない発言。いわば独り言のようなものである。
「あらあら。カステラちゃんったら、乙女ねぇ」
テーブルに片肘をつきながら、ミルフィは柔らかく笑う。
「ふぇ!?」
「運命の人との出会いに憧れるなんて、本当に可愛いわ」
「へ、変ですかーっ!?」
「まさか。変なんて言ってないわよ。そういうところが素敵だって、そう言っているのよ。ふふ」
一限目の開始まではまだ時間がある。たった数分ではあるのだが、それは、教室内で待機していると案外長い時間なのだ。
「褒めてくれているんですかーっ!?」
「そうそう。その通りよ」
「ほっ……それなら安心しましたー……」
ミルフィの発言の意図を勘違いしてしまっていたカステラは、褒められていたのだと知って安堵の表情を浮かべる。
授業終了後。
フレアはミルフィと共に、一旦、寮内の自室に戻る。
部屋に入るや否や、ミルフィが素早く自身のベッドの方へと向かう。フレアはそれを「どうしたのかな?」と思いつつ見ていた。すると、ミルフィは布製のポーチを取り出してくる。紺色のやや厚みのありそうなポーチだ。
「ねぇねぇ。フレアちゃんはお化粧したことある?」
「あまりないわ」
ミルフィの問いに、フレアは正直に答えた。
「一回試してみなーい?」
彼女が出してきたポーチは化粧道具が入っているポーチだったようだ。上側のチャックを開けると、棒状のものや真四角のものなどが覗いた。
「……え。私? どうして?」
「ふふ。あたし、フレアちゃんはもっと綺麗になると思うのよねぇ」
ミルフィはフレアを室内唯一の椅子に座らせる。
そこはミルフィがいつも化粧の研究をしている場所。いつでも顔全体鏡が見られるよう、机には鏡が置いてある。
「一度試してみても良いかしら」
「べつに良いけど……」
「決まりね! じゃ、始めましょ」
フレアはまだ少女なので、化粧にはあまり詳しくない。王女として人前に出る時に薄い化粧を施してもらうことはあったけれど。でも、そこまで興味がなかったので、いつも専門家に任せきりにしていた。
「ふっふふ。可愛い娘をもーっと可愛くできるあたしは幸せねぇ」
ミルフィの手つきは慣れたものだった。鼻歌を歌いながら、軽やかに道具を操り、フレアの顔に華を添えてゆく。その技術は、まるでプロのようだ。
とはいえ、フレアは、最初は内心どうでもいいと思っていた。それに、化粧してもしなくても大差ないだろう、と思っている部分もあった。だが、ミルフィ製のメイクが進んでいくにつれ、フレアは驚く。己の顔面の変貌に。
「か、変わり過ぎじゃない……?」
「変わるのよ、女はね! あまり濃くなり過ぎないようにするわ。だから安心してちょうだい」
十数分でフレアのメイクは完成した。
ミルフィに「できたわよ!」と言われて鏡を覗いた時、フレアは絶句する。
今やフレアは大人びた顔になっている。品はあり、しかしながらどことなく色気もある——そんな顔が出来上がっていた。
「凄い……」
唇、肌、目もと。そのすべてが、ミルフィの化粧の腕によって、日頃より美しいものに変わっている。フレアは、自分のことだからこそ、その変化をより一層大きく感じていた。
「でしょでしょ? 可愛いでしょ?」
「私じゃないみたい……!」
始めこそ乗り気でなかったフレアだが、今は嬉しそうな顔をしている。
「フレアちゃんは元からとっても可愛いのよ。でも、こうして少しお化粧するだけで、もーっと魅力的になったはずだわ」
ミルフィは小さな頃からお化粧というものに強い興味を抱いていた。男性のことは好きでないので、男性に良いイメージを持ってもらうためではなかったけれど。でも、なぜか強い関心があったのだ。ミルフィは、そもそも整っていて華やかな顔立ちなので、すっぴんでも一般人より美人ではある。しかし、それでも、顔をより一層華やかにするメイクが好きで長年研究を重ねてきた。それゆえ、腕前はかなりのものだろう。
「ありがとう、ミルフィ! 何だか新鮮な体験だわ」
「いいのよ。またいつでも言って。フレアちゃんになら、いつでもどこでもお化粧してあげる」
その後、フレアは化粧を施してもらった状態のままで、食堂に夕飯を食べに行った。そこでばったり出会ったアダルベルトは、数秒、フレアがフレアであることに気がつかなかった。それほどいつもと違っていた、ということなのだろう。
結局フレアは、その日の晩入浴する際に化粧を落とした。
けれど、ミルフィに華を添えてもらったことは、フレアにとって大きな思い出の一つとなったのだった。
私でも頑張れば大人っぽくなれる。
そう思えたことは、特に大きかったことだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる