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24.秋の恵みパーティーが始まる!
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秋の恵みパーティー当日。
生徒たちはクラス関係なく一斉にホールに集まった。
「き、綺麗……!」
天井は非常に高く、上の方にはステンドグラスの部分もある、厳かな雰囲気のホール。そこはまるで教会のよう。その厳かさに、フレアは感心しきりだ。
「そういえば、フレアちゃんはここへ来るのは初めてなんじゃない? 入学式の時はいなかったし」
「入学式はここで行われたの?」
「そうよ。綺麗なところでしょう」
「へぇ、それは素敵ね」
色々な兼ね合いがあったせいで、フレアは、皆が入学する四月には入学できなかった。一ヶ月遅れでの入学だったので、入学式には参加していない。そのため、ホールに来る機会があまりなく、今に至っている。
「素敵なところよね! リカルド!」
フレアはくるりと体を回転させて向きを変えた。
そして、一メートルほど後ろにいたリカルドに、躊躇いなく話しかける。
「……まぁ広々とはしてるな」
リカルドはこういったイベントは好きでない。交流にも食事にもそこまで興味がないので、本当なら参加しなかったかもしれないくらいだ。彼が仕方なく参加しているのは、フレアのことを見張っていなくてはならないから。つまり、彼がパーティーに参加している理由は、フレアのためだけなのである。
「何だか楽しくなさそうね、リカルド」
「……こんな会、興味ねぇ」
「もう! どうしてそういうことを言うの!」
「……そもそも俺は学生になる気はなかった」
「まったく……リカルドったら……」
フレアは楽しむ気満々だが、リカルドは全身から「早く帰りたい」というような空気を放出させている。二人の精神状態は真逆だ。
「ふったりっともーっ!」
刹那、何者かが叫んできた。
カステラが凄い勢いで走ってきていたのだった。
フレアが「待って! そんなに走ったら危な……」まで言った瞬間、カステラの体は正面に向かって倒れ始める。足は既に絡んでいた。カステラはそのまま真正面に転ける。鈍く重苦しい音がホールに響く。周囲にいた他クラスの生徒は、驚いたような顔でカステラを見ていた。
「あらあら……。カステラちゃん、大丈夫なの?」
ミルフィが駆け寄り、カステラに手を差し出す。
だがカステラはすぐには起き上がることができない。
「ふえぇぇぇ! 痛いですーぅっ!」
カステラの目から滝のように涙が溢れる。
咄嗟に床に手を付いていたため、顔面を打つということは何とか避けられたようだ。しかし、転んでしまったことは事実である。どこも打たなかったわけではないので、痛みはあるようだ。
「落ち着いて。落ち着いてちょうだい」
「ふぉわあぁぁぁん!」
「カステラちゃん、泣かないで」
座り込んだまま泣いているカステラに、ミルフィは寄り添う。
「う、う、うう……痛いですよぅ……」
「痛かったわね。大丈夫よ、泣かないで」
転んでしまい号泣しているカステラと彼女を励ますミルフィは、異様に目立ってしまっている。
二人を見る周囲の目はどことなく冷たい雰囲気をはらんでいた。
パーティーが始まる前から走ったり転んだりと騒いでいるのだから仕方のないことなのかもしれないが、もう少し温かく接してくれれば良いのに——フレアはそんな風に思った。
「どうしたんだい!? 何か事件かい!?」
騒ぎを聞きつけて飛んできたのはアダルベルト。
花組の生徒が集まってきた。
「あー……暑苦しいのが来た……」
駆けつけてきたアダルベルトを見て、ミルフィは渋い物を食べたかのような顔をする。眉間にはしわができ、口角は下がり、とにかく不快感に満ちた顔つきになっている。
「んなっ!? 失礼だね、いきなり!」
「ま、いいわ。カステラちゃんが転んじゃったのよ。それで、泣いちゃって」
「あ、あぁ……なるほど、そうか……それは大変だね」
途中から普通に話されたアダルベルトは、逆に戸惑ってしまっていた。
そんな時だ。
「……あの」
音もなく近づいてきていた一人の女子生徒が、小指の爪のような大きさの声でアダルベルトの背に声をかける。
「ん? 何だい?」
「良ければ、これ、使って下さい」
うなじのところで黒髪を一つに束ねた女子生徒。その手には、レースの白いハンカチが握られていた。ハンカチを差し出しているということは、使ってほしいと考えているということなのだろう。
「涙を、拭くのに」
「おお! 感謝するよ!」
その時、フレアはふと思い出す。
ハンカチをアダルベルトに渡した少女が、かつて一度見かけた少女であることを。
あれは確か、九月に授業が始まって最初の月曜日。教室へ向かっている最中に、図書館で本を読んでいた美しい少女がいた。その彼女に見惚れ、ミルフィと彼女について話したことを、フレアは覚えている。
「君、これで涙を拭くといいよ」
女子生徒から受け取ったレースのハンカチを、アダルベルトはカステラに渡す。
「アダルさん……」
「そこの優しい女性が貸してくれたものだよ」
こういう時、まるで自分が貸したかのように振る舞う少々ずる賢い人間というのもこの世には多く存在する。だが、アダルベルトはそういった類の人間ではなかった。正直過ぎるほど正直で、少女が貸してくれたと明言していた。
「ふぇぇ……ありがとうございますぅ……」
カステラは誰に対してでもなく感謝の意を述べていた。
「ではこれで……」
ハンカチを貸してくれた女子生徒は場から立ち去ろうとする。
だがそれをミルフィが止めた。
「あら。もう戻っちゃうの?」
「……え」
ミルフィと黒髪の女子生徒は知り合いではない。
「ねぇ、もし良かったらなんだけど。パーティー、一緒に楽しまない?」
ナンパのような声を一切躊躇わずにかけていくミルフィ。
「取り敢えず、名前を聞いても構わないかしら」
「……い、いえ。名乗るほどの者では……ありません」
「あら? 名乗るほどの者かどうかなんて関係ないわよ? あたしはただ、貴女のことをもっと知りたいの。駄目かしら?」
女子生徒はミルフィから激しい声掛けを受け戸惑っているようだったが、暫しの思考の後、「コザクラ……です」と名を答えた。
生徒たちはクラス関係なく一斉にホールに集まった。
「き、綺麗……!」
天井は非常に高く、上の方にはステンドグラスの部分もある、厳かな雰囲気のホール。そこはまるで教会のよう。その厳かさに、フレアは感心しきりだ。
「そういえば、フレアちゃんはここへ来るのは初めてなんじゃない? 入学式の時はいなかったし」
「入学式はここで行われたの?」
「そうよ。綺麗なところでしょう」
「へぇ、それは素敵ね」
色々な兼ね合いがあったせいで、フレアは、皆が入学する四月には入学できなかった。一ヶ月遅れでの入学だったので、入学式には参加していない。そのため、ホールに来る機会があまりなく、今に至っている。
「素敵なところよね! リカルド!」
フレアはくるりと体を回転させて向きを変えた。
そして、一メートルほど後ろにいたリカルドに、躊躇いなく話しかける。
「……まぁ広々とはしてるな」
リカルドはこういったイベントは好きでない。交流にも食事にもそこまで興味がないので、本当なら参加しなかったかもしれないくらいだ。彼が仕方なく参加しているのは、フレアのことを見張っていなくてはならないから。つまり、彼がパーティーに参加している理由は、フレアのためだけなのである。
「何だか楽しくなさそうね、リカルド」
「……こんな会、興味ねぇ」
「もう! どうしてそういうことを言うの!」
「……そもそも俺は学生になる気はなかった」
「まったく……リカルドったら……」
フレアは楽しむ気満々だが、リカルドは全身から「早く帰りたい」というような空気を放出させている。二人の精神状態は真逆だ。
「ふったりっともーっ!」
刹那、何者かが叫んできた。
カステラが凄い勢いで走ってきていたのだった。
フレアが「待って! そんなに走ったら危な……」まで言った瞬間、カステラの体は正面に向かって倒れ始める。足は既に絡んでいた。カステラはそのまま真正面に転ける。鈍く重苦しい音がホールに響く。周囲にいた他クラスの生徒は、驚いたような顔でカステラを見ていた。
「あらあら……。カステラちゃん、大丈夫なの?」
ミルフィが駆け寄り、カステラに手を差し出す。
だがカステラはすぐには起き上がることができない。
「ふえぇぇぇ! 痛いですーぅっ!」
カステラの目から滝のように涙が溢れる。
咄嗟に床に手を付いていたため、顔面を打つということは何とか避けられたようだ。しかし、転んでしまったことは事実である。どこも打たなかったわけではないので、痛みはあるようだ。
「落ち着いて。落ち着いてちょうだい」
「ふぉわあぁぁぁん!」
「カステラちゃん、泣かないで」
座り込んだまま泣いているカステラに、ミルフィは寄り添う。
「う、う、うう……痛いですよぅ……」
「痛かったわね。大丈夫よ、泣かないで」
転んでしまい号泣しているカステラと彼女を励ますミルフィは、異様に目立ってしまっている。
二人を見る周囲の目はどことなく冷たい雰囲気をはらんでいた。
パーティーが始まる前から走ったり転んだりと騒いでいるのだから仕方のないことなのかもしれないが、もう少し温かく接してくれれば良いのに——フレアはそんな風に思った。
「どうしたんだい!? 何か事件かい!?」
騒ぎを聞きつけて飛んできたのはアダルベルト。
花組の生徒が集まってきた。
「あー……暑苦しいのが来た……」
駆けつけてきたアダルベルトを見て、ミルフィは渋い物を食べたかのような顔をする。眉間にはしわができ、口角は下がり、とにかく不快感に満ちた顔つきになっている。
「んなっ!? 失礼だね、いきなり!」
「ま、いいわ。カステラちゃんが転んじゃったのよ。それで、泣いちゃって」
「あ、あぁ……なるほど、そうか……それは大変だね」
途中から普通に話されたアダルベルトは、逆に戸惑ってしまっていた。
そんな時だ。
「……あの」
音もなく近づいてきていた一人の女子生徒が、小指の爪のような大きさの声でアダルベルトの背に声をかける。
「ん? 何だい?」
「良ければ、これ、使って下さい」
うなじのところで黒髪を一つに束ねた女子生徒。その手には、レースの白いハンカチが握られていた。ハンカチを差し出しているということは、使ってほしいと考えているということなのだろう。
「涙を、拭くのに」
「おお! 感謝するよ!」
その時、フレアはふと思い出す。
ハンカチをアダルベルトに渡した少女が、かつて一度見かけた少女であることを。
あれは確か、九月に授業が始まって最初の月曜日。教室へ向かっている最中に、図書館で本を読んでいた美しい少女がいた。その彼女に見惚れ、ミルフィと彼女について話したことを、フレアは覚えている。
「君、これで涙を拭くといいよ」
女子生徒から受け取ったレースのハンカチを、アダルベルトはカステラに渡す。
「アダルさん……」
「そこの優しい女性が貸してくれたものだよ」
こういう時、まるで自分が貸したかのように振る舞う少々ずる賢い人間というのもこの世には多く存在する。だが、アダルベルトはそういった類の人間ではなかった。正直過ぎるほど正直で、少女が貸してくれたと明言していた。
「ふぇぇ……ありがとうございますぅ……」
カステラは誰に対してでもなく感謝の意を述べていた。
「ではこれで……」
ハンカチを貸してくれた女子生徒は場から立ち去ろうとする。
だがそれをミルフィが止めた。
「あら。もう戻っちゃうの?」
「……え」
ミルフィと黒髪の女子生徒は知り合いではない。
「ねぇ、もし良かったらなんだけど。パーティー、一緒に楽しまない?」
ナンパのような声を一切躊躇わずにかけていくミルフィ。
「取り敢えず、名前を聞いても構わないかしら」
「……い、いえ。名乗るほどの者では……ありません」
「あら? 名乗るほどの者かどうかなんて関係ないわよ? あたしはただ、貴女のことをもっと知りたいの。駄目かしら?」
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