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25.意外と芽生えた!
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転倒して号泣するカステラにハンカチを貸してくれた女子生徒の名は、アマミ コザクラというものだった。それはエトシリカ王国内では珍しい名前だ。だが、それにも理由がある。というのも、彼女はエトシリカ王国出身ではないのだ。今は鳥組に所属しているコザクラだが、生まれたのはここよりずっと東にある国らしい。ちなみに、彼女がエトシリカ王国領内にあるガーベラ学院に入学した理由は、エトシリカ王国が父親の生まれ育った国だったからだそう。つまり、コザクラは、東国の民の母親とエトシリカ王国民の父親を持つハーフなのである。
「彼女はね、フレアちゃんっていうのよ。この国の王女様なの」
積極的に関わり何とか仲良くなってきたミルフィが、コザクラにフレアを紹介する。
「王女様、ですか……! それは凄い」
大人しく声も決して大きくはないコザクラ。しかしながら、慣れてくると案外まともに会話はできる人だった。単に静かな性格なだけで、心を閉ざしているわけではないようだ。
「フレアです! よろしくお願いします!」
「あ、はい。……こちらこそ、よろしくお願いします」
フレアが明るく元気に挨拶すると、コザクラはほんの僅かに頬を赤らめて挨拶を返す。
「もし良かったら普通に話したいのだけど、良いかしら!」
「そうですね。はい。問題ありません」
「じゃあ、これからは普通に話すわね! よろしくね、コザクラ」
「クラスは違いますが……よろしくお願いします。仲良くして下さい」
コザクラと話すことができて、フレアは嬉しそう。
そのうちに秋の恵みパーティーが始まる。
秋の恵み、と付いているだけあって、色々な食べ物が用意されていた。もちろん、秋ならではの食材を使った料理が多い。すべてではないが、半分以上が、秋特有の具材を使った料理だ。
「コザクラちゃん、食べ物は何が好き? 良ければあたしが取ってくるわよ?」
フレアは既に数種類の料理を取ってきている。
彼女は、王女という身分ゆえに立食パーティーには慣れているので、そこまで迷いはなかったのだ。
「……そんな。申し訳ないです」
「いいのいいの! 気にしないでちょうだい。可愛い女の子のためなら、あたしは何だってできるわ」
「では……キノコ料理が良いです」
「オッケー。キノコ料理を取ってくるわね!」
「ありがとうございます……」
ミルフィが料理を取りに行くと、フレアはコザクラと二人になる。
「あの方……ミルフィさん、とても、優しい方ですね」
「えぇ! ミルフィは優しいわ」
フレアは既に取ってきていた料理を少しずつ口にしながらコザクラと話す。
「男の人には妙に厳しいけどね」
「……そうなのですか?」
「男の人は苦手みたい。その代わり女子には凄く親切よ」
「……そう、なのですね」
フレアの近くに立っていたリカルドは、眉間にしわを寄せながら「王女、食いながら話すな」と注意する。が、フレアはまったくもって聞いていない。
楽しい『秋の恵みパーティー』は無事終了した。
そのイベントはフレアにとって非常に良いものとなったーー新たな友人を手に入れられたのだ。
生まれはエトシリカ王国ではなく、完全なエトシリカ人でもない女子生徒コザクラ。彼女との出会いは、フレアにとって特別なものだった。
もちろん、ミルフィとの出会いもカステラやアダルベルトなどクラスメイトたちとの出会いも、平凡で退屈なものだったわけではない。
ただ、どことなく異国の香りを漂わせる少女との交流は、フレアに良い意味の刺激を与えた。
パーティーで仲良くなったフレアとコザクラは、パーティー以降も、時折会って話すようになった。友人になれたからだ。クラスは違うので共に授業を受けることはできないけれど、でも、そんなことは小さなことであって。二人の間の友情を断ち切るほどの刃ではない。
これはフレアは後に知ったことなのだが、コザクラは鳥組内では一人になることが多かったそうだ。というのも、本好きで大人しいコザクラは皆に交じりづらかったようなのである。つまり、この出会いはコザクラにとっても良いものだった、ということだ。
パーティーから一週間ほどが経った、ある朝。
フレアとミルフィが図書館の前を通りかかると、図書館の入り口の辺りに何やら人が集まっているのが見えた。
集まっているのは、生徒もいれば教師もいる。子どもと大人が交じって集まっていた。
最初は授業の一環か何かだろうと思ったフレア。だが、穏やかな思考は一瞬で消え去ることとなる——意識を喪失した少女が運び出されてきたからである。
「コザクラ……!」
比較的大柄な男子生徒と男性教師によって担がれ運び出されてきた少女を、フレアは知っていた。
フレアは思わず駆け出す、人混みの方へと。隣にいたミルフィは、驚いた顔をしつつも、フレアを追うように足を動かし始めた。離れたところにいた二人が人混みの方へ近づいていく形となる。
「あの、彼女、一体何があったの?」
コザクラは運ばれていってしまった。その場には野次馬的な生徒たちだけが残される。そのうちの一人にフレアは問いかけた。
「あぁ。何かさ、図書館で倒れてたんだってよ」
「体調不良ということ?」
「……いや、よく分かんねぇんだってよ。謎ってこった」
直後、近くにいた女子生徒が話に入ってくる。
「アマミさんね、不思議な子だったの。自殺未遂じゃないかって、噂になってるわ」
そう教えてくれたのは、知らない少女だった。
フレアは「コザクラのクラスメイトだろうか」と考えつつも言葉を返す。
「自殺未遂……どうしてそんな風に言われているの?」
「発見された時、首に痣があったらしいのよ。だから、首吊りでもしようとしたんじゃないかって」
女子生徒はさらりと言ってのけるが、フレアには自殺未遂だとは思えなかった。なぜなら、コザクラは生きることに悲観的になっているような人間ではないと知っているから。そもそも、昨日話した時でさえ自死を試みそうな様子はなかった。
「まさか……。コザクラはそんなことする人じゃないわ……!」
フレアは思わず本心を述べてしまう。
すると、女子生徒は不思議そうな顔をする。
「コザクラ? コザクラって、アマミさんのこと?」
「えぇ」
「貴女、鳥組じゃないわよね。どうしてあの子のことコザクラなんて呼んでるの?」
「この前のパーティーの時に仲良くなったのよ」
女子生徒はそこで黙った。フレアは「何か悪いことを言ってしまっただろうか」と不安になりながらも、返答を待つ。その数秒後、女子生徒の表情が冷ややかなものに変わった。
「……もしかして、貴女が犯人とか?」
突然犯人扱いされたフレアは、つい、「え! わ、私!?」と大きな声を発してしまう。
「私は偶々通りかかっただけよ」
「でもさ、犯人は現場に戻ってくるって、言うよね……?」
怪しむような目を向けられることに耐えられなくなったフレアは、堪えきれず、鋭く「なんてこと! いきなり犯人扱いなんて酷いわ!」と言い放ってしまう。
「なーんて、ね。冗談だよ」
「今このタイミングだと冗談とは思えなかったわ……」
「彼女はね、フレアちゃんっていうのよ。この国の王女様なの」
積極的に関わり何とか仲良くなってきたミルフィが、コザクラにフレアを紹介する。
「王女様、ですか……! それは凄い」
大人しく声も決して大きくはないコザクラ。しかしながら、慣れてくると案外まともに会話はできる人だった。単に静かな性格なだけで、心を閉ざしているわけではないようだ。
「フレアです! よろしくお願いします!」
「あ、はい。……こちらこそ、よろしくお願いします」
フレアが明るく元気に挨拶すると、コザクラはほんの僅かに頬を赤らめて挨拶を返す。
「もし良かったら普通に話したいのだけど、良いかしら!」
「そうですね。はい。問題ありません」
「じゃあ、これからは普通に話すわね! よろしくね、コザクラ」
「クラスは違いますが……よろしくお願いします。仲良くして下さい」
コザクラと話すことができて、フレアは嬉しそう。
そのうちに秋の恵みパーティーが始まる。
秋の恵み、と付いているだけあって、色々な食べ物が用意されていた。もちろん、秋ならではの食材を使った料理が多い。すべてではないが、半分以上が、秋特有の具材を使った料理だ。
「コザクラちゃん、食べ物は何が好き? 良ければあたしが取ってくるわよ?」
フレアは既に数種類の料理を取ってきている。
彼女は、王女という身分ゆえに立食パーティーには慣れているので、そこまで迷いはなかったのだ。
「……そんな。申し訳ないです」
「いいのいいの! 気にしないでちょうだい。可愛い女の子のためなら、あたしは何だってできるわ」
「では……キノコ料理が良いです」
「オッケー。キノコ料理を取ってくるわね!」
「ありがとうございます……」
ミルフィが料理を取りに行くと、フレアはコザクラと二人になる。
「あの方……ミルフィさん、とても、優しい方ですね」
「えぇ! ミルフィは優しいわ」
フレアは既に取ってきていた料理を少しずつ口にしながらコザクラと話す。
「男の人には妙に厳しいけどね」
「……そうなのですか?」
「男の人は苦手みたい。その代わり女子には凄く親切よ」
「……そう、なのですね」
フレアの近くに立っていたリカルドは、眉間にしわを寄せながら「王女、食いながら話すな」と注意する。が、フレアはまったくもって聞いていない。
楽しい『秋の恵みパーティー』は無事終了した。
そのイベントはフレアにとって非常に良いものとなったーー新たな友人を手に入れられたのだ。
生まれはエトシリカ王国ではなく、完全なエトシリカ人でもない女子生徒コザクラ。彼女との出会いは、フレアにとって特別なものだった。
もちろん、ミルフィとの出会いもカステラやアダルベルトなどクラスメイトたちとの出会いも、平凡で退屈なものだったわけではない。
ただ、どことなく異国の香りを漂わせる少女との交流は、フレアに良い意味の刺激を与えた。
パーティーで仲良くなったフレアとコザクラは、パーティー以降も、時折会って話すようになった。友人になれたからだ。クラスは違うので共に授業を受けることはできないけれど、でも、そんなことは小さなことであって。二人の間の友情を断ち切るほどの刃ではない。
これはフレアは後に知ったことなのだが、コザクラは鳥組内では一人になることが多かったそうだ。というのも、本好きで大人しいコザクラは皆に交じりづらかったようなのである。つまり、この出会いはコザクラにとっても良いものだった、ということだ。
パーティーから一週間ほどが経った、ある朝。
フレアとミルフィが図書館の前を通りかかると、図書館の入り口の辺りに何やら人が集まっているのが見えた。
集まっているのは、生徒もいれば教師もいる。子どもと大人が交じって集まっていた。
最初は授業の一環か何かだろうと思ったフレア。だが、穏やかな思考は一瞬で消え去ることとなる——意識を喪失した少女が運び出されてきたからである。
「コザクラ……!」
比較的大柄な男子生徒と男性教師によって担がれ運び出されてきた少女を、フレアは知っていた。
フレアは思わず駆け出す、人混みの方へと。隣にいたミルフィは、驚いた顔をしつつも、フレアを追うように足を動かし始めた。離れたところにいた二人が人混みの方へ近づいていく形となる。
「あの、彼女、一体何があったの?」
コザクラは運ばれていってしまった。その場には野次馬的な生徒たちだけが残される。そのうちの一人にフレアは問いかけた。
「あぁ。何かさ、図書館で倒れてたんだってよ」
「体調不良ということ?」
「……いや、よく分かんねぇんだってよ。謎ってこった」
直後、近くにいた女子生徒が話に入ってくる。
「アマミさんね、不思議な子だったの。自殺未遂じゃないかって、噂になってるわ」
そう教えてくれたのは、知らない少女だった。
フレアは「コザクラのクラスメイトだろうか」と考えつつも言葉を返す。
「自殺未遂……どうしてそんな風に言われているの?」
「発見された時、首に痣があったらしいのよ。だから、首吊りでもしようとしたんじゃないかって」
女子生徒はさらりと言ってのけるが、フレアには自殺未遂だとは思えなかった。なぜなら、コザクラは生きることに悲観的になっているような人間ではないと知っているから。そもそも、昨日話した時でさえ自死を試みそうな様子はなかった。
「まさか……。コザクラはそんなことする人じゃないわ……!」
フレアは思わず本心を述べてしまう。
すると、女子生徒は不思議そうな顔をする。
「コザクラ? コザクラって、アマミさんのこと?」
「えぇ」
「貴女、鳥組じゃないわよね。どうしてあの子のことコザクラなんて呼んでるの?」
「この前のパーティーの時に仲良くなったのよ」
女子生徒はそこで黙った。フレアは「何か悪いことを言ってしまっただろうか」と不安になりながらも、返答を待つ。その数秒後、女子生徒の表情が冷ややかなものに変わった。
「……もしかして、貴女が犯人とか?」
突然犯人扱いされたフレアは、つい、「え! わ、私!?」と大きな声を発してしまう。
「私は偶々通りかかっただけよ」
「でもさ、犯人は現場に戻ってくるって、言うよね……?」
怪しむような目を向けられることに耐えられなくなったフレアは、堪えきれず、鋭く「なんてこと! いきなり犯人扱いなんて酷いわ!」と言い放ってしまう。
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