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28.疑われてしまった!
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アダルベルトと話をしている時、ミルフィが突如思い出したように言う。
「そうだったわ! そういえば、フレアちゃんが不気味な手紙を貰った時、彼は担任に言わない方が良いって言ってたわね」
直後、イノアが口の端を歪めて「やっぱり」と呟く。一旦ミルフィに集まっていた皆からの視線が、イノアの方へ戻った。
「ミルフィまでリカルドを疑うの!?」
フレアは思わず叫んだ。
皆がリカルドを犯人のように扱うことに驚きと戸惑いを感じ、平静を保つことができなくなってしまっている。
フレアは今でもリカルドのことを信じている。彼はそんな悪質な行為を繰り返す人間ではない、そう確信しているから。けれど、フレアの口は決して器用でない。だから、根拠を述べてリカルドが犯人ではないと証明することは、フレアにとっては難しすぎることだ。
思いを言葉にして伝える能力が高ければ。
今、フレアの胸の内には、そんな悔しさが広がっている。
「落ち着いて、フレアちゃん。あたしはただ、思い出したことがあったから言っただけよ?」
「……ごめん、ミルフィ。でも……リカルドは絶対犯人じゃないわ」
リカルドはフレアにとって特別な存在。恋仲だとか婚約者だとか、そういった意味での『特別』ではない。でも、小さい頃から知っていた友人であり、唯一迷いなく信じられる仲間なのだ。前妃の派閥の者たちに虐められていた時、味方してくれたのも、リカルドだけだった。
「そうね。そうよね。彼がフレアちゃんを傷つけるはずがない……普通は」
「リカルドは特例だって言いたいの?」
「あたし、頭は良くないわ。だから多分フレアちゃんを納得させることはできないと思う。でも、何事も可能性を排除せず考えてみることが大事だって、そう思いはするのよ。分かってちょうだい?」
そんなことはフレアとて分かっている。ありとあらゆる可能性を排除せずに考えてみることの大切さを知らないフレアではない。それでも、一番近しい人を犯人扱いされる苦しみは大きくて。黙ってはいられないのだ。
「……えぇ。分かってるわ、ミルフィ」
一連の事件を起こしたのはリカルドなのではないか?
その問いの答えが明らかになることはなかった。
リカルドは静かに「そんなくだらんことはしねぇ」と述べるだけ。それ以上何も語らなかった。
以降、フレアは複雑な心境で日々を過ごすこととなった。
同室のミルフィとはこれまでと変わらないくらい一緒に過ごしている。寝たり宿題をしたりする部屋が同じなので、生活の距離も自然と近くなるものなのだ。それゆえ、リカルドが疑われた一件からも、以前と大差ないくらい接触は多い。
ただ、他の花組生徒とフレアの間には、簡単には埋められない溝ができてしまっている。
そもそもリカルドが犯人ではないかと言い出したのはイノア。彼の発言によって、こんなことになってしまったのだ。フレアは彼を責めようとは思っていない。が、彼に対して何とも言えない思いを抱いてしまっていることは、まぎれもない事実だ。
あの一件以降、花組生徒たちは皆、リカルドに積極的に関わらないようにし始めた。その原因を作ったのはイノア。そういう意味では、どう頑張っても、フレアは彼を良くは思えない。
とはいえ、当人のリカルドは、皆から距離をおかれることをさほど気にしていなかった。
彼は淡々と仕事をこなすのみ。フレアを護るという当初の役目を果たすべく、日々、フレアの傍に控えていた。
リカルドとて、愚か者ではない。皆から少し距離をおかれていることには気づいている。ただそれは、職務に多大な影響を与えることではない。だからだろう、気にしていなかったのは。
「ねぇリカルド!」
休日の昼下がり、フレアはリカルドの部屋を訪ねた。
「王女が一人で来るのは珍しいな」
リカルドは剣の刃の部分を掃除している最中だった。やや黄色寄りの柔らかそうな布で、丁寧に、煌めく刃を拭いている。
「もー。一人じゃ何もできないみたく言わないでちょうだい」
「……まったく。騒がしいな、相変わらず」
フレアは躊躇なく室内へ足を進める。リカルドは、そのことに対しては怒らなかった。が、若干面倒臭そうな顔はしていた。作業中に色々話しかけられることが不愉快だったのだろう。
「いいの? あんな誤解されたままで」
「……何の話だ」
「犯人がリカルドじゃないかって言われてる話よ!」
「あぁ、それか」
どうでもいい、というような顔をするリカルドを見て、フレアは「あぁそれか、じゃないでしょ!?」と苛立ちを露わにする。疑いをかけられている本人のリカルドより、フレアの方が、この件に関してはずっと熱心だ。
「犯人はリカルドじゃないって証明しなくちゃ駄目よ!」
フレアは熱く訴える。しかしその訴えは、リカルドには届かない。まだ剣の手入れを継続している彼は、「……くだらねぇ。べつにどうでもいいことだろ」などと発している。
「良くない!」
「……元から馴れ合う気はなかった、べつにいい」
二人の意見は見事なまでにすれ違ってしまっている。なんだかんだで仲が良かった二人だが、今は意見を合わせることができていない。
「何を言うの! いいわけないじゃない!」
「王女が騒ぐことじゃないだろ」
「どうしてそんな言い方! ……リカルドは犯人じゃないのでしょう?」
フレアは不安げに瞳を震わせる。
「そりゃそうだろ。王女とか王女の周囲とかを狙うかよ」
「そうよね……。でも! だからこそ言わなくちゃ! 違う、って!」
「そうだったわ! そういえば、フレアちゃんが不気味な手紙を貰った時、彼は担任に言わない方が良いって言ってたわね」
直後、イノアが口の端を歪めて「やっぱり」と呟く。一旦ミルフィに集まっていた皆からの視線が、イノアの方へ戻った。
「ミルフィまでリカルドを疑うの!?」
フレアは思わず叫んだ。
皆がリカルドを犯人のように扱うことに驚きと戸惑いを感じ、平静を保つことができなくなってしまっている。
フレアは今でもリカルドのことを信じている。彼はそんな悪質な行為を繰り返す人間ではない、そう確信しているから。けれど、フレアの口は決して器用でない。だから、根拠を述べてリカルドが犯人ではないと証明することは、フレアにとっては難しすぎることだ。
思いを言葉にして伝える能力が高ければ。
今、フレアの胸の内には、そんな悔しさが広がっている。
「落ち着いて、フレアちゃん。あたしはただ、思い出したことがあったから言っただけよ?」
「……ごめん、ミルフィ。でも……リカルドは絶対犯人じゃないわ」
リカルドはフレアにとって特別な存在。恋仲だとか婚約者だとか、そういった意味での『特別』ではない。でも、小さい頃から知っていた友人であり、唯一迷いなく信じられる仲間なのだ。前妃の派閥の者たちに虐められていた時、味方してくれたのも、リカルドだけだった。
「そうね。そうよね。彼がフレアちゃんを傷つけるはずがない……普通は」
「リカルドは特例だって言いたいの?」
「あたし、頭は良くないわ。だから多分フレアちゃんを納得させることはできないと思う。でも、何事も可能性を排除せず考えてみることが大事だって、そう思いはするのよ。分かってちょうだい?」
そんなことはフレアとて分かっている。ありとあらゆる可能性を排除せずに考えてみることの大切さを知らないフレアではない。それでも、一番近しい人を犯人扱いされる苦しみは大きくて。黙ってはいられないのだ。
「……えぇ。分かってるわ、ミルフィ」
一連の事件を起こしたのはリカルドなのではないか?
その問いの答えが明らかになることはなかった。
リカルドは静かに「そんなくだらんことはしねぇ」と述べるだけ。それ以上何も語らなかった。
以降、フレアは複雑な心境で日々を過ごすこととなった。
同室のミルフィとはこれまでと変わらないくらい一緒に過ごしている。寝たり宿題をしたりする部屋が同じなので、生活の距離も自然と近くなるものなのだ。それゆえ、リカルドが疑われた一件からも、以前と大差ないくらい接触は多い。
ただ、他の花組生徒とフレアの間には、簡単には埋められない溝ができてしまっている。
そもそもリカルドが犯人ではないかと言い出したのはイノア。彼の発言によって、こんなことになってしまったのだ。フレアは彼を責めようとは思っていない。が、彼に対して何とも言えない思いを抱いてしまっていることは、まぎれもない事実だ。
あの一件以降、花組生徒たちは皆、リカルドに積極的に関わらないようにし始めた。その原因を作ったのはイノア。そういう意味では、どう頑張っても、フレアは彼を良くは思えない。
とはいえ、当人のリカルドは、皆から距離をおかれることをさほど気にしていなかった。
彼は淡々と仕事をこなすのみ。フレアを護るという当初の役目を果たすべく、日々、フレアの傍に控えていた。
リカルドとて、愚か者ではない。皆から少し距離をおかれていることには気づいている。ただそれは、職務に多大な影響を与えることではない。だからだろう、気にしていなかったのは。
「ねぇリカルド!」
休日の昼下がり、フレアはリカルドの部屋を訪ねた。
「王女が一人で来るのは珍しいな」
リカルドは剣の刃の部分を掃除している最中だった。やや黄色寄りの柔らかそうな布で、丁寧に、煌めく刃を拭いている。
「もー。一人じゃ何もできないみたく言わないでちょうだい」
「……まったく。騒がしいな、相変わらず」
フレアは躊躇なく室内へ足を進める。リカルドは、そのことに対しては怒らなかった。が、若干面倒臭そうな顔はしていた。作業中に色々話しかけられることが不愉快だったのだろう。
「いいの? あんな誤解されたままで」
「……何の話だ」
「犯人がリカルドじゃないかって言われてる話よ!」
「あぁ、それか」
どうでもいい、というような顔をするリカルドを見て、フレアは「あぁそれか、じゃないでしょ!?」と苛立ちを露わにする。疑いをかけられている本人のリカルドより、フレアの方が、この件に関してはずっと熱心だ。
「犯人はリカルドじゃないって証明しなくちゃ駄目よ!」
フレアは熱く訴える。しかしその訴えは、リカルドには届かない。まだ剣の手入れを継続している彼は、「……くだらねぇ。べつにどうでもいいことだろ」などと発している。
「良くない!」
「……元から馴れ合う気はなかった、べつにいい」
二人の意見は見事なまでにすれ違ってしまっている。なんだかんだで仲が良かった二人だが、今は意見を合わせることができていない。
「何を言うの! いいわけないじゃない!」
「王女が騒ぐことじゃないだろ」
「どうしてそんな言い方! ……リカルドは犯人じゃないのでしょう?」
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