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30.球技大会の日が来た!
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球技大会は朝から行われる。
すべてのクラスが参加する、『秋の恵みパーティー』と同程度の規模のイベントだ。
皆、実技の際に着る動きやすい服を着て、ホールへ集まる。そこで説明を受け、それぞれの競技を行う方向で移動する。元よりスポーツが得意でないフレアは、あまり気が進まなかったので、一番楽そうなコロガシボールに参加することにした。
やがて競技が始まる。
コロガシボールは、その名の通り、ボールを転がす競技だ。地味ながら案外奥が深く、いざ取り組んでみるとかなり盛り上がる。フレアも少し参加したが、それなりに楽しい競技だなと感じた。
けれども、フレアはいつまでも競技を楽しんでいるわけにはいかない。
というのも、彼女の脳内にはある作戦があったのだ。
悪質な置き手紙のイタズラや花組生徒が襲われる数回の事件、その犯人がリカルドではないと証明するための作戦。
「君はあちらへ転がしてくれ!」
「うむ」
「負けちゃ駄目よ! 次で決めて!」
「おっす!」
皆がコロガシボールに夢中になっている隙を見計らい、フレアはホールから立ち去る。
途中ミルフィにばったり遭遇してしまい「どうしたの?」と問われたフレアは「気分が悪くなった」と答える。するとミルフィは心配そうに「一緒に保健室に行く?」と声をかけてくれたが、フレアはそれを断った。
ホールから去る理由がもし本当に「気分が悪くなったから」だったとしたら、フレアも同行を願ったことだろう。けれど、現実はそうではなかった。フレアが発した答えはあくまで偽りのもの。不自然さを感じさせないための偽物の答えだ。それゆえ、フレアとしては、今だけはミルフィに同行されては困るのである。
フレアは一人歩いていく。
向かうのは、この時間には誰もいないであろう裏庭。
裏庭はフレアの予想通りの状態だった。いつもならまばらに存在している生徒の姿も、今はない。寂しい場所になってしまっている。が、そういう状態になっている方がフレアとしてはありがたいのだ。一人にならなければ目的は達成されない。
一連の事件においては、皆、一人になったところを狙われていた。
だからフレアも一人になるのだ。
彼女は緊張していた。わざと狙われるような行動を取ることなんて、日頃はまったくないからだ。わざと危険に飛び込んでいくという経験は少ないので、いざという時どう動けば良いかが掴めず、緊張してしまうのである。
ただ、それでも犯人をはっきりさせたかった。
リカルドは何も悪くないのだと、犯人は別に存在していたのだと、証明したくて。
「さすがに……この時間だと人はいないわね」
フレアは周囲の様子を確認してから、一人裏庭に佇む。
裏庭で待機し始めて十分ほどが経過した頃、フレアは、突如背後から迫ってくる気配を感じた。
ついにこの時が来た、と、恐怖と喜びが混じった感情を抱きつつ、振り返る。
「……先生!」
だが、背後にいたのは刺客ではなく——担任のカッタルだった。
「驚かせてしまったならすまない」
「え……あ、いえ。大丈夫です。何かご用ですか?」
意図的に一人でいたら、刺客ではなく担任が現れた。フレアは複雑な心境になる。ひとまず危険な目に遭わずに済んだのは良いことなのだが、カッタルと話していたことで刺客が撤退してしまったら、フレアの考えていた作戦が台無しになってしまう。
「こんなところに一人で佇んで、何をしていた?」
カッタルは右手を差し出すような動作をしつつ問いかける。
「少し休憩したくて。その、勝手な行動をしてしまってすみません」
誰かが話しかけてくることを想定していなかったフレアは、どのように対応するべきか即座には判断できず、曖昧な返ししかできない。
「……いや、責めようと思って話しかけたわけではないんだ。だが、一人でいるところを狙われた例が多々あっただろう。だから気をつけるようにと、そう言いたくてな」
フレアはふと思う。彼と二人で直接話すことはあまりなかったな、と。
「お気遣いありがとうございます」
「最近は少々物騒だが、特に悩みはないか? もしあれば聞くが」
カッタルは淡白な人物だと思っていた。それゆえ、こんな風に歩み寄ろうとしてくれていると、違和感を覚えずにはいられない。優しさに戸惑う、ということも、時にはあるものだ。
「えっと……その、私自身は特に何もありません」
「そうなのか?」
「……ただ、リカルドが犯人みたく言われるのが嫌、ということだけはあります」
フレアは小さな声で発する。
「リカルドのことは、昔から知っています。だから分かるんです、彼はそんなことしないって。でも、クラスの中には彼が犯人だと考えている人もいるみたいで。……それが複雑です」
人の気配のない裏庭で、フレアは始めて心を打ち明ける。
吹き抜ける風は冷たい。けれども、ほんわりとした日差しは、浴びる者の心を落ち着かせてくれる。
「なるほど。それが悩みだったか」
「悩みと言うと大層過ぎるかもしれませんけど……」
いざカッタルと向かい合って話すとなると、上手く言葉が出てこない。彼と話すことに慣れていないからなのか、また別の理由があるのか、その辺りは不明だが。ただ、とにかくフレアは、気持ちを言葉にして表すことの難しさを改めて感じていた。
「いや、そんなことはないと思うが。何せ、悩みというのはその者の問題だからな。大層などと周囲が言うのは間違いだろう」
「……ありがとう、ございます」
十数分にわたってカッタルと話し、フレアは彼と別れる。
ようやく一人に戻ることができた。
穏やかな日差しの下、フレアはほんの少し心が軽くなったのを感じる。もやもやしていたことを聞いてもらえたからだろうか、と思いつつ、彼女はもうしばらくその場に滞在することを選んだ。
けれども、結局襲われることはなかった。
わざとらしく一人になっていたため、怪しまれ、警戒されたのかもしれない。そう考え、皆のところへ戻ろうと歩き出した——刹那。
「……っ!」
背後に動くものを感じ、フレアは大きく一歩前へ出る。
驚いて振り返ると、布で顔を隠した不審な人物が剣を振り下ろしていたのが見えた。
すべてのクラスが参加する、『秋の恵みパーティー』と同程度の規模のイベントだ。
皆、実技の際に着る動きやすい服を着て、ホールへ集まる。そこで説明を受け、それぞれの競技を行う方向で移動する。元よりスポーツが得意でないフレアは、あまり気が進まなかったので、一番楽そうなコロガシボールに参加することにした。
やがて競技が始まる。
コロガシボールは、その名の通り、ボールを転がす競技だ。地味ながら案外奥が深く、いざ取り組んでみるとかなり盛り上がる。フレアも少し参加したが、それなりに楽しい競技だなと感じた。
けれども、フレアはいつまでも競技を楽しんでいるわけにはいかない。
というのも、彼女の脳内にはある作戦があったのだ。
悪質な置き手紙のイタズラや花組生徒が襲われる数回の事件、その犯人がリカルドではないと証明するための作戦。
「君はあちらへ転がしてくれ!」
「うむ」
「負けちゃ駄目よ! 次で決めて!」
「おっす!」
皆がコロガシボールに夢中になっている隙を見計らい、フレアはホールから立ち去る。
途中ミルフィにばったり遭遇してしまい「どうしたの?」と問われたフレアは「気分が悪くなった」と答える。するとミルフィは心配そうに「一緒に保健室に行く?」と声をかけてくれたが、フレアはそれを断った。
ホールから去る理由がもし本当に「気分が悪くなったから」だったとしたら、フレアも同行を願ったことだろう。けれど、現実はそうではなかった。フレアが発した答えはあくまで偽りのもの。不自然さを感じさせないための偽物の答えだ。それゆえ、フレアとしては、今だけはミルフィに同行されては困るのである。
フレアは一人歩いていく。
向かうのは、この時間には誰もいないであろう裏庭。
裏庭はフレアの予想通りの状態だった。いつもならまばらに存在している生徒の姿も、今はない。寂しい場所になってしまっている。が、そういう状態になっている方がフレアとしてはありがたいのだ。一人にならなければ目的は達成されない。
一連の事件においては、皆、一人になったところを狙われていた。
だからフレアも一人になるのだ。
彼女は緊張していた。わざと狙われるような行動を取ることなんて、日頃はまったくないからだ。わざと危険に飛び込んでいくという経験は少ないので、いざという時どう動けば良いかが掴めず、緊張してしまうのである。
ただ、それでも犯人をはっきりさせたかった。
リカルドは何も悪くないのだと、犯人は別に存在していたのだと、証明したくて。
「さすがに……この時間だと人はいないわね」
フレアは周囲の様子を確認してから、一人裏庭に佇む。
裏庭で待機し始めて十分ほどが経過した頃、フレアは、突如背後から迫ってくる気配を感じた。
ついにこの時が来た、と、恐怖と喜びが混じった感情を抱きつつ、振り返る。
「……先生!」
だが、背後にいたのは刺客ではなく——担任のカッタルだった。
「驚かせてしまったならすまない」
「え……あ、いえ。大丈夫です。何かご用ですか?」
意図的に一人でいたら、刺客ではなく担任が現れた。フレアは複雑な心境になる。ひとまず危険な目に遭わずに済んだのは良いことなのだが、カッタルと話していたことで刺客が撤退してしまったら、フレアの考えていた作戦が台無しになってしまう。
「こんなところに一人で佇んで、何をしていた?」
カッタルは右手を差し出すような動作をしつつ問いかける。
「少し休憩したくて。その、勝手な行動をしてしまってすみません」
誰かが話しかけてくることを想定していなかったフレアは、どのように対応するべきか即座には判断できず、曖昧な返ししかできない。
「……いや、責めようと思って話しかけたわけではないんだ。だが、一人でいるところを狙われた例が多々あっただろう。だから気をつけるようにと、そう言いたくてな」
フレアはふと思う。彼と二人で直接話すことはあまりなかったな、と。
「お気遣いありがとうございます」
「最近は少々物騒だが、特に悩みはないか? もしあれば聞くが」
カッタルは淡白な人物だと思っていた。それゆえ、こんな風に歩み寄ろうとしてくれていると、違和感を覚えずにはいられない。優しさに戸惑う、ということも、時にはあるものだ。
「えっと……その、私自身は特に何もありません」
「そうなのか?」
「……ただ、リカルドが犯人みたく言われるのが嫌、ということだけはあります」
フレアは小さな声で発する。
「リカルドのことは、昔から知っています。だから分かるんです、彼はそんなことしないって。でも、クラスの中には彼が犯人だと考えている人もいるみたいで。……それが複雑です」
人の気配のない裏庭で、フレアは始めて心を打ち明ける。
吹き抜ける風は冷たい。けれども、ほんわりとした日差しは、浴びる者の心を落ち着かせてくれる。
「なるほど。それが悩みだったか」
「悩みと言うと大層過ぎるかもしれませんけど……」
いざカッタルと向かい合って話すとなると、上手く言葉が出てこない。彼と話すことに慣れていないからなのか、また別の理由があるのか、その辺りは不明だが。ただ、とにかくフレアは、気持ちを言葉にして表すことの難しさを改めて感じていた。
「いや、そんなことはないと思うが。何せ、悩みというのはその者の問題だからな。大層などと周囲が言うのは間違いだろう」
「……ありがとう、ございます」
十数分にわたってカッタルと話し、フレアは彼と別れる。
ようやく一人に戻ることができた。
穏やかな日差しの下、フレアはほんの少し心が軽くなったのを感じる。もやもやしていたことを聞いてもらえたからだろうか、と思いつつ、彼女はもうしばらくその場に滞在することを選んだ。
けれども、結局襲われることはなかった。
わざとらしく一人になっていたため、怪しまれ、警戒されたのかもしれない。そう考え、皆のところへ戻ろうと歩き出した——刹那。
「……っ!」
背後に動くものを感じ、フレアは大きく一歩前へ出る。
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