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31.待ち望んだ危機!
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背後で剣を持っていたのは、布で顔の半分ほどを隠した男性。ベージュの布で目もと以外のほぼすべての部分を覆っている。だが、それでも、フレアにはその者の正体が分かった。
「……かわした、か」
「先生!?」
カッタルだと、気づいたのだ。
目だけしか見えないが、漂う甘い香りで分かった。
けれども、フレアにぼんやりしている暇はない。命を狙われているのだから。フレアは犯人の判明に動揺しながらも、ホールの方に向かって全力疾走する。幸い今日は球技大会開催中だ、ホールの方へ行けば人がいる。そこへたどり着けば、刺客の魔の手から逃れられる可能性は高い。
走り続けることしばらく。
フレアはホール付近に一人の生徒が佇んでいることに気づく。
ハイン・バ・カ・バカラーバ・ビキニスだ。
水着本が好きな彼は、穏やかな日光を浴びながら、一人水着本を熟読していた。どうやら球技大会への参加をサボっているようだ。
「ハイン!!」
刺客の剣技を間一髪のところで避けるといったことを繰り返しつつホールに向かっていたフレアは、出せる限り大きな声を発する。
「なぬ?」
「お願い! 力を貸して!!」
顔を上げた瞬間は戸惑ったような顔をしていたハインだが、数秒の間に状況を飲み込み、立ち上がる。それから、持っていた水着本を投げた。本は刺客の顔面に命中。想定外の反撃に刺客が戸惑っているうちに、フレアとハインは走る。
「あ! リカルド!」
偶然出会ったハインと共に走り続けること十数秒、フレアを探していたリカルドに遭遇する。
「王女! 探したんだぞ。ったく、どこに行って……」
「刺客が追ってきてるの! 助けて!」
「何を言ってる……? って、そういうことかよ!」
恐ろしい速度で突っ込んでくる刺客を目にして、リカルドはすべてを悟った。
リカルドは、フレアたちに「逃げとけ!」と言ってから、素早く剣を抜く。
それからリカルドと刺客の戦闘があったようだが、フレアはその様子を目にすることはできなかった。なぜなら、ハインと共に逃げたから。
そして、次の日。
担任のカッタルは教室に現れなかった。
花組の担任であるカッタルは欠席。ということで、その日の朝の会は別の教師が行うこととなった。教室内には今日もまた何とも言えないような空気が蔓延している。
「リカルド。あの刺客って……」
フレアは隣の席のリカルドに話しかける。
「カッタル、だろうな」
「やっぱり……!」
リカルドは昨日、刺客と直接やり合った。その彼が言うのだから間違いではない、とフレアは確信する。自身の考えていたことに根拠ができた形だ。
「でも……どうして先生が……」
「どうした、王女。嬉しくなさそうだな」
フレアは襲われる直前にもカッタルと話した。カッタルの優しさに触れ、彼を見直したばかりだったのだ。だから、刺客が彼だったという衝撃は大きい。気にかけてくれていた親切な彼がなぜ、と思わずにはいられなくて。
「相談にも乗ってくれたのに……」
肩を落とすフレアを見て、リカルドは怪訝な顔をする。
「何だ? 相談?」
カッタルに相談した、という事実を、リカルドはまだ知らなかったのである。
「えぇ。リカルドが疑われてることに関して話したの」
「……おいおい、俺を巻き込むな」
「何よ! その言い方! ……リカルドが犯人にされたらって、本気で心配してたのに」
冷ややかな言い方をされたフレアは憤慨する。眉尻をつり上げ頬を膨らませるという、非常に分かりやすい顔をしながら。
「あらあら、今日も仲良しねぇ」
フレアが不機嫌になりかけたタイミングで口を挟んできたのはミルフィ。
彼女はなぜかニヤニヤしている。
リカルドがフレアの機嫌を損ねてしまったところを見て、愉快に思ったのかもしれない。
「……何だ、いきなり」
「あーら? 貴方には何も言ってませんけど?」
「うぜぇ」
「失礼な男ねぇ、嫌だわホント」
リカルドとミルフィの間に友情が芽生えることはない。否、もしかしたら既に芽生えているのかもしれないが。いずれにせよ、二人が純粋な意味で仲良しになることはない。時が経ち、多少親しくなっても、弾き合うような関係のままだ。
「それで。刺客の正体が担任だって話は本当なの?」
ミルフィは静かに問う。
「……聞いてたのかよ」
リカルドは渋い物を食べたかのような顔をする。眉間に深いシワが寄っていた。
「えーえ! 聞いてましたよ? 何か問題でも?」
「いちいちうぜぇ」
「ごちゃごちゃ言わなくて良いので、さっと答えてくれます?」
意図的に大袈裟な溜め息をつくリカルド。対するミルフィは、リカルドが溜め息を漏らすのを楽しんでいるかのように笑みを浮かべている。
「……ったく、しょうがねぇな。刺客の正体が担任ってのはまだおおっぴらには言われてないことだ」
リカルドは渋々問いに答える。
「事実なんですか? それともただの噂話かしら」
「交戦して気づいたことだ」
「ふーん。そうなんですねぇ」
数日後の放課後、花組の生徒は突然教室に集められた。
招集をかけたのは学院長のタルタル。
生徒全員が集まったことを確認すると、タルタルは話し出す。
「今から、花組担任のことについて話すヨゥ」
その後タルタルの口から話されたのは、カッタルのことについてだった。
カッタルはあの日以降失踪し、連絡が取れていないそうだ。死んではいないのだろうが、本人から話を聞ける状態ではないとのことである。
学院の調査によると、カッタルは、エトシリカ国王の前妃の派閥の者に雇われた刺客だったそうだ。エトシリカ国王の前妃の派閥、そのリーダー格は、城でフレアを虐めていた者。得られた情報が少ないため、まだ確定はしていないのだろうが、今のところ「フレアを消すことが目的だったのだろう」という結論に至っているみたいだ。
「ふ、ふえぇ……。そんなことがあるのですねー……」
話を聞いたカステラは涙目になっていた。よほど驚いたのだろう。
「リカルドじゃないって、ようやく証明できたわね! ね! リカルド」
「……いずれ証明できたことだろ」
「もー。またそんな言い方! 嬉しいくせに」
「……かわした、か」
「先生!?」
カッタルだと、気づいたのだ。
目だけしか見えないが、漂う甘い香りで分かった。
けれども、フレアにぼんやりしている暇はない。命を狙われているのだから。フレアは犯人の判明に動揺しながらも、ホールの方に向かって全力疾走する。幸い今日は球技大会開催中だ、ホールの方へ行けば人がいる。そこへたどり着けば、刺客の魔の手から逃れられる可能性は高い。
走り続けることしばらく。
フレアはホール付近に一人の生徒が佇んでいることに気づく。
ハイン・バ・カ・バカラーバ・ビキニスだ。
水着本が好きな彼は、穏やかな日光を浴びながら、一人水着本を熟読していた。どうやら球技大会への参加をサボっているようだ。
「ハイン!!」
刺客の剣技を間一髪のところで避けるといったことを繰り返しつつホールに向かっていたフレアは、出せる限り大きな声を発する。
「なぬ?」
「お願い! 力を貸して!!」
顔を上げた瞬間は戸惑ったような顔をしていたハインだが、数秒の間に状況を飲み込み、立ち上がる。それから、持っていた水着本を投げた。本は刺客の顔面に命中。想定外の反撃に刺客が戸惑っているうちに、フレアとハインは走る。
「あ! リカルド!」
偶然出会ったハインと共に走り続けること十数秒、フレアを探していたリカルドに遭遇する。
「王女! 探したんだぞ。ったく、どこに行って……」
「刺客が追ってきてるの! 助けて!」
「何を言ってる……? って、そういうことかよ!」
恐ろしい速度で突っ込んでくる刺客を目にして、リカルドはすべてを悟った。
リカルドは、フレアたちに「逃げとけ!」と言ってから、素早く剣を抜く。
それからリカルドと刺客の戦闘があったようだが、フレアはその様子を目にすることはできなかった。なぜなら、ハインと共に逃げたから。
そして、次の日。
担任のカッタルは教室に現れなかった。
花組の担任であるカッタルは欠席。ということで、その日の朝の会は別の教師が行うこととなった。教室内には今日もまた何とも言えないような空気が蔓延している。
「リカルド。あの刺客って……」
フレアは隣の席のリカルドに話しかける。
「カッタル、だろうな」
「やっぱり……!」
リカルドは昨日、刺客と直接やり合った。その彼が言うのだから間違いではない、とフレアは確信する。自身の考えていたことに根拠ができた形だ。
「でも……どうして先生が……」
「どうした、王女。嬉しくなさそうだな」
フレアは襲われる直前にもカッタルと話した。カッタルの優しさに触れ、彼を見直したばかりだったのだ。だから、刺客が彼だったという衝撃は大きい。気にかけてくれていた親切な彼がなぜ、と思わずにはいられなくて。
「相談にも乗ってくれたのに……」
肩を落とすフレアを見て、リカルドは怪訝な顔をする。
「何だ? 相談?」
カッタルに相談した、という事実を、リカルドはまだ知らなかったのである。
「えぇ。リカルドが疑われてることに関して話したの」
「……おいおい、俺を巻き込むな」
「何よ! その言い方! ……リカルドが犯人にされたらって、本気で心配してたのに」
冷ややかな言い方をされたフレアは憤慨する。眉尻をつり上げ頬を膨らませるという、非常に分かりやすい顔をしながら。
「あらあら、今日も仲良しねぇ」
フレアが不機嫌になりかけたタイミングで口を挟んできたのはミルフィ。
彼女はなぜかニヤニヤしている。
リカルドがフレアの機嫌を損ねてしまったところを見て、愉快に思ったのかもしれない。
「……何だ、いきなり」
「あーら? 貴方には何も言ってませんけど?」
「うぜぇ」
「失礼な男ねぇ、嫌だわホント」
リカルドとミルフィの間に友情が芽生えることはない。否、もしかしたら既に芽生えているのかもしれないが。いずれにせよ、二人が純粋な意味で仲良しになることはない。時が経ち、多少親しくなっても、弾き合うような関係のままだ。
「それで。刺客の正体が担任だって話は本当なの?」
ミルフィは静かに問う。
「……聞いてたのかよ」
リカルドは渋い物を食べたかのような顔をする。眉間に深いシワが寄っていた。
「えーえ! 聞いてましたよ? 何か問題でも?」
「いちいちうぜぇ」
「ごちゃごちゃ言わなくて良いので、さっと答えてくれます?」
意図的に大袈裟な溜め息をつくリカルド。対するミルフィは、リカルドが溜め息を漏らすのを楽しんでいるかのように笑みを浮かべている。
「……ったく、しょうがねぇな。刺客の正体が担任ってのはまだおおっぴらには言われてないことだ」
リカルドは渋々問いに答える。
「事実なんですか? それともただの噂話かしら」
「交戦して気づいたことだ」
「ふーん。そうなんですねぇ」
数日後の放課後、花組の生徒は突然教室に集められた。
招集をかけたのは学院長のタルタル。
生徒全員が集まったことを確認すると、タルタルは話し出す。
「今から、花組担任のことについて話すヨゥ」
その後タルタルの口から話されたのは、カッタルのことについてだった。
カッタルはあの日以降失踪し、連絡が取れていないそうだ。死んではいないのだろうが、本人から話を聞ける状態ではないとのことである。
学院の調査によると、カッタルは、エトシリカ国王の前妃の派閥の者に雇われた刺客だったそうだ。エトシリカ国王の前妃の派閥、そのリーダー格は、城でフレアを虐めていた者。得られた情報が少ないため、まだ確定はしていないのだろうが、今のところ「フレアを消すことが目的だったのだろう」という結論に至っているみたいだ。
「ふ、ふえぇ……。そんなことがあるのですねー……」
話を聞いたカステラは涙目になっていた。よほど驚いたのだろう。
「リカルドじゃないって、ようやく証明できたわね! ね! リカルド」
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