33 / 51
33.冬が迫る!
しおりを挟む
十二月、ガーベラ学院がある辺りにも冬の色が滲んできた。
澄んだ空気は冷たく、吸い込むと体の奥まで冷えきりそう。雪は降りはしないものの、厚めの服を着なくては寒くて仕方がないくらいまで温度は下がってきている。
植物が生い茂る季節は終わった。
つい一ヶ月ほど前までは根強く残っていた緑も、今はもうほとんど枯れた。
氷のように冷たい空気の中、授業は行われ続けている。
担任のカッタルが逃走したため、今はタルタルが担任のような役目を果たしている。学院長が担任になったので、皆、最初は驚いていた。だが、気さくなタルタルはすぐに花組に馴染み、今ではそこまで遠巻きに見られてはいない。
「怪我人の治療の際に気をつけなくてはならないこトゥ! 下手に動かさない、まずは意識を確認するトカ! ……それが書かれているのが二行目から四行目。どうだイ?」
座学の時間はだらけている生徒も多い。
最近は特に、慣れもあってか、ややだれた空気が流れがちだ。
ただ、勉学に励むことに関しては真面目なフレアは、タルタルの話すことをきちんと聞いて学習に取り組んでいる。それは今でも変わらない事実だ。彼女の授業態度の良さは、ガーベラ学院内でも有名なくらい。
しかし、すべての生徒がそのような良い態度で授業を受けているわけではない。
ミルフィはやたらと居眠り。リカルドは着席したまま剣の手入れ。カステラは別の勉強。ハインは一生懸命水着の美女漁り。
座学の時間、花組は実に奇妙なことになってしまっている。
そんなクラスの様子を見る時、フレアは少しばかり不安になる。全員卒業できるのか、と考えると、もはや心配しかないのだ。
フレアとて優等生ではない。勉強が非常に良くできるというわけでもない。ただ、だからこそ取り組みくらいはきちんとしようと考え、授業を受けるよう心がけている。そんなフレアからすれば、周囲の不真面目さには戸惑いしかない。
「オゥ!? ……き、聞いてるカイ? そこの水着本見てるボーイとか、ヤバいヨゥ!?」
特に、ハインの水着本熟読には、タルタルもさすがに注意していた。
フレアもそれには「同感だ」と思う。言いたいくらいだったが、口にはしなかった。ただ、タルタルと同じ心境であることは間違いない。
「いくらナイスバディでも没収するヨゥ!?」
変に純粋なところのあるフレアは、男子が女性の水着の本をがっつり読んでいることへの嫌悪感はたいして抱いていない。可愛い水着もあるし、おしゃれな水着もあるから、そういったものを見ることは悪いことではないと思っている。
だが、授業中に熟読はさすがにまずいだろう、とは思うこともある。
「ちょーいちょイ! 聞いてルゥ!?」
「……水着とは、神である」
「ンァ!? ちょ、それは何!? 本気で言ってるとしたら、かなりヤバいヨゥ!!」
放課後、フレアはミルフィに話しかけられる。
「フレアちゃーん! ノート貸してもらえないかしら?」
妙に明るい声で話しかけてきたと思ったらこれだ。フレアもさすがに呆れずにはいられない。とはいえ、ミルフィがノートを借りようとするのはこれが初めてのことではない。それゆえ、フレアはそんなに驚かない。ただ、呆れることは呆れる。何回目でも、呆れることに変わりはない。
「良いわよ。写すのね」
「うふふ。フレアちゃんたら、よく分かってるわね!」
フレアは時折呆れる時がある。だが断ることはしない。ミルフィは大切な友人だからだ。ノートを貸すくらいお安い御用、といった感じである。
「それで、どれを貸せば良いの?」
「治療学習、国語、古代文、歴史、戦争史」
「多っ!」
「駄目だったかしら……」
「う、ううん! 駄目じゃない! ちょっとびっくりしただけ!」
十二月も半ばに近づいてきた頃、朝の会でタルタルが『聖夜祭』について述べた。
その『聖夜祭』なるイベントは、ガーベラ学院では毎年行われている催し物の一つだそうだ。秋の恵みパーティーや球技大会などの仲間のようなものなのだろう。元々は宗教行事だった聖夜を祝うという行為をパーティー風に変えたものが、この『聖夜祭』らしい。
「その日も授業はないヨゥ! その代わり、パーティーは全員出席すること! 決まってルゥ!」
聖夜祭はあくまで楽しむためのイベントである。交流のための場であって、厳密には学習の場ではない。そのため、欠席しても許されそうなものなのだが、ガーベラ学院では原則全員参加が義務付けられている。皆が参加することに意味がある、ということでの決まりだ。
「ロマンチックですぅー」
普段通り魔術関連の本を読んでいたカステラは、聖夜祭の話を聞くと、急にうっとりし始めた。片手の手のひらを丸い頬に当て、遠くを眺めるような目つきをする。
「うふふ。ロマンチックに憧れるカステラちゃんったら、可愛いわねぇ」
うっとりした顔をするカステラを見て、ミルフィは感想を述べた。
「ミルフィさん……! 言わないで下さいっ……!」
カステラは、ミルフィに発言されたことで正気を取り戻したようだ。
顔を赤くして恥じらっている。
「あら、どうして? あたし、何か悪いこと言ったかしら。あたしはただ、可愛いと褒めただけよ?」
「で、でもでもっ……。恥ずかしいですよぅーっ」
「いいじゃない、カステラちゃん。褒められているのだから喜んでちょうだい?」
「うぅー……」
聖夜祭の話だけでこんなに話が広がるなんて、と、フレアは少々感心する。
「ちなみヌィ! ……ここだけの話、聖夜祭の時は告白とかが多いヨゥ」
タルタルは、いきなり、思春期の者が好きそうな話をぶち込んできた。
教室内の空気が一気に変わる。
「ま、若さだから良いけどネ。過激になりすぎないよう気をつけてネ!」
刹那、アダルベルトが口を開く。
「先生!」
はきはきした声をかけられたタルタルは一瞬戸惑ったような顔。しかしアダルベルトは、タルタルの様子は微塵も視野に入れない。躊躇いなく問いを放つ。
「過激に、とは、具体的にどのような内容でしょうか!?」
ミルフィは「うえー」とでも言いたげに顔をしかめる。
「……それを聞くなヨゥ」
「具体的を挙げていただいた方が理解しやすいのですが!」
「取り敢えず落ち着いてくれィ」
澄んだ空気は冷たく、吸い込むと体の奥まで冷えきりそう。雪は降りはしないものの、厚めの服を着なくては寒くて仕方がないくらいまで温度は下がってきている。
植物が生い茂る季節は終わった。
つい一ヶ月ほど前までは根強く残っていた緑も、今はもうほとんど枯れた。
氷のように冷たい空気の中、授業は行われ続けている。
担任のカッタルが逃走したため、今はタルタルが担任のような役目を果たしている。学院長が担任になったので、皆、最初は驚いていた。だが、気さくなタルタルはすぐに花組に馴染み、今ではそこまで遠巻きに見られてはいない。
「怪我人の治療の際に気をつけなくてはならないこトゥ! 下手に動かさない、まずは意識を確認するトカ! ……それが書かれているのが二行目から四行目。どうだイ?」
座学の時間はだらけている生徒も多い。
最近は特に、慣れもあってか、ややだれた空気が流れがちだ。
ただ、勉学に励むことに関しては真面目なフレアは、タルタルの話すことをきちんと聞いて学習に取り組んでいる。それは今でも変わらない事実だ。彼女の授業態度の良さは、ガーベラ学院内でも有名なくらい。
しかし、すべての生徒がそのような良い態度で授業を受けているわけではない。
ミルフィはやたらと居眠り。リカルドは着席したまま剣の手入れ。カステラは別の勉強。ハインは一生懸命水着の美女漁り。
座学の時間、花組は実に奇妙なことになってしまっている。
そんなクラスの様子を見る時、フレアは少しばかり不安になる。全員卒業できるのか、と考えると、もはや心配しかないのだ。
フレアとて優等生ではない。勉強が非常に良くできるというわけでもない。ただ、だからこそ取り組みくらいはきちんとしようと考え、授業を受けるよう心がけている。そんなフレアからすれば、周囲の不真面目さには戸惑いしかない。
「オゥ!? ……き、聞いてるカイ? そこの水着本見てるボーイとか、ヤバいヨゥ!?」
特に、ハインの水着本熟読には、タルタルもさすがに注意していた。
フレアもそれには「同感だ」と思う。言いたいくらいだったが、口にはしなかった。ただ、タルタルと同じ心境であることは間違いない。
「いくらナイスバディでも没収するヨゥ!?」
変に純粋なところのあるフレアは、男子が女性の水着の本をがっつり読んでいることへの嫌悪感はたいして抱いていない。可愛い水着もあるし、おしゃれな水着もあるから、そういったものを見ることは悪いことではないと思っている。
だが、授業中に熟読はさすがにまずいだろう、とは思うこともある。
「ちょーいちょイ! 聞いてルゥ!?」
「……水着とは、神である」
「ンァ!? ちょ、それは何!? 本気で言ってるとしたら、かなりヤバいヨゥ!!」
放課後、フレアはミルフィに話しかけられる。
「フレアちゃーん! ノート貸してもらえないかしら?」
妙に明るい声で話しかけてきたと思ったらこれだ。フレアもさすがに呆れずにはいられない。とはいえ、ミルフィがノートを借りようとするのはこれが初めてのことではない。それゆえ、フレアはそんなに驚かない。ただ、呆れることは呆れる。何回目でも、呆れることに変わりはない。
「良いわよ。写すのね」
「うふふ。フレアちゃんたら、よく分かってるわね!」
フレアは時折呆れる時がある。だが断ることはしない。ミルフィは大切な友人だからだ。ノートを貸すくらいお安い御用、といった感じである。
「それで、どれを貸せば良いの?」
「治療学習、国語、古代文、歴史、戦争史」
「多っ!」
「駄目だったかしら……」
「う、ううん! 駄目じゃない! ちょっとびっくりしただけ!」
十二月も半ばに近づいてきた頃、朝の会でタルタルが『聖夜祭』について述べた。
その『聖夜祭』なるイベントは、ガーベラ学院では毎年行われている催し物の一つだそうだ。秋の恵みパーティーや球技大会などの仲間のようなものなのだろう。元々は宗教行事だった聖夜を祝うという行為をパーティー風に変えたものが、この『聖夜祭』らしい。
「その日も授業はないヨゥ! その代わり、パーティーは全員出席すること! 決まってルゥ!」
聖夜祭はあくまで楽しむためのイベントである。交流のための場であって、厳密には学習の場ではない。そのため、欠席しても許されそうなものなのだが、ガーベラ学院では原則全員参加が義務付けられている。皆が参加することに意味がある、ということでの決まりだ。
「ロマンチックですぅー」
普段通り魔術関連の本を読んでいたカステラは、聖夜祭の話を聞くと、急にうっとりし始めた。片手の手のひらを丸い頬に当て、遠くを眺めるような目つきをする。
「うふふ。ロマンチックに憧れるカステラちゃんったら、可愛いわねぇ」
うっとりした顔をするカステラを見て、ミルフィは感想を述べた。
「ミルフィさん……! 言わないで下さいっ……!」
カステラは、ミルフィに発言されたことで正気を取り戻したようだ。
顔を赤くして恥じらっている。
「あら、どうして? あたし、何か悪いこと言ったかしら。あたしはただ、可愛いと褒めただけよ?」
「で、でもでもっ……。恥ずかしいですよぅーっ」
「いいじゃない、カステラちゃん。褒められているのだから喜んでちょうだい?」
「うぅー……」
聖夜祭の話だけでこんなに話が広がるなんて、と、フレアは少々感心する。
「ちなみヌィ! ……ここだけの話、聖夜祭の時は告白とかが多いヨゥ」
タルタルは、いきなり、思春期の者が好きそうな話をぶち込んできた。
教室内の空気が一気に変わる。
「ま、若さだから良いけどネ。過激になりすぎないよう気をつけてネ!」
刹那、アダルベルトが口を開く。
「先生!」
はきはきした声をかけられたタルタルは一瞬戸惑ったような顔。しかしアダルベルトは、タルタルの様子は微塵も視野に入れない。躊躇いなく問いを放つ。
「過激に、とは、具体的にどのような内容でしょうか!?」
ミルフィは「うえー」とでも言いたげに顔をしかめる。
「……それを聞くなヨゥ」
「具体的を挙げていただいた方が理解しやすいのですが!」
「取り敢えず落ち着いてくれィ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる