34 / 51
34.聖夜祭が始まる!
しおりを挟む
「楽しみね! 聖夜祭」
ある日、授業がすべて終わったタイミングで、フレアはリカルドに話を振った。
いきなり聖夜祭に関する話を振られたリカルドは戸惑いを露わにする。が、少しして「……正直どうでもいい」と言葉を返した。話を振られてから言葉を返すまでの時間は、そんなに長くはなかった。
「リカルドは楽しみじゃないの?」
花組の教室内には、既に、生徒はほとんどいなくなっている。残っているのは、フレアとリカルド、そしてフレアを待つミルフィ。その三人だけだ。
「王女は楽しみなのか」
「もちろんよ! そういうイベントは結構好き!」
ミルフィが待っているのは、フレアと共に寮へ帰るためだ。
「……そんなことだろうと思ったぜ」
「もう! 馬鹿にしてるの!?」
「してねぇよ、べつに。馬鹿に、とかじゃねぇ」
「ホントに?」
フレアは首を動かしてリカルドの方をじっと見つめながら、目をぱちぱちさせる。
「あぁ。嘘はつかない」
リカルドははっきりと述べた。
その発言に迷いなんてものは少しもない。
「ふふっ。良かったぁ」
刹那、フレアの体から一気に力が抜けた。また、それと同時に、顔面には安堵の色が浮かぶ。フレアは全身から、ホッとしているということを伝えているようだった。無論、無意識なのだろうが。
「まったく、分かりやすいな」
「もう! 何なの? その言い方っ」
フレアとリカルドの会話はいつもこんな感じだ。だがそれは昔からのこと。それゆえ、両者共に、その関わり方に疑問を抱くことはない。仲良しなような、仲良しでないような、そんな関わり方が、二人にとっては一番良い関わり方なのだ。
そして、聖夜祭の日がやって来る。
その日は朝から、いつもとは少々違った空気が流れていた。ガーベラ学院の敷地内で動き回る者たちは、皆、どことなく浮かれていたのだ。
フレアがミルフィやリカルドと共にホールへたどり着いた時、既に幾人もの生徒がその場所に集まっていた。女子生徒は女子生徒で、男子生徒は男子生徒で、群れを作っている。不機嫌そうな者はほとんどいない。多くの生徒が、これから始まる催しを心待ちにしているようだった。
「みーんな、浮かれてるわねぇ」
ホールに入って数秒も経たぬうちに、ミルフィがそんな感想を述べた。
フレアはそれに頷く。
「皆楽しみにしてるみたいね!」
ミルフィが見ている世界とフレアが見ている世界は、ほとんど同じもの。フレアはミルフィの発言に共感することができた。
「ふふ、そうね。フレアちゃんはどうなの?」
「楽しみよっ」
「あら可愛い。素直で良いわね」
「ありがとう」
フレアとミルフィが話している間、リカルドは、つまらないと叫びたそうな顔で周囲の様子を確認していた。じっくりと辺りを見回している。犯人であったカッタルはとうに去ったが、それでも、周囲への警戒を怠る気はないようだ。
そんな時、一人の青年がフレアたちのところへ足を進めてきた。
「やぁ! フレア王女!」
元気に挨拶した青年、その正体はアダルベルトだった。
「……アダルベルト。どうしたの? 何か用事?」
フレアはクラスメイトのいきなりの登場に戸惑いつつも、無視はせず、きちんと言葉を返す。
「どうもしない! ただ見つけたから来ただけだよ!」
「そ、そう……」
アダルベルトが妙にハキハキした物言いをするのは珍しいことではない。彼はいつもそんな感じ。だから、これも、驚くほどのことではない。
とはいえ、いきなり力強い声をかけられたら、困惑せずにはいられないというもの。
今のフレアも例外ではない。
「会いに来てくれたってこと?」
「あぁ! そんな感じだね」
「ありがとう。今日は楽しめると良いわね」
ガーベラ学院に遠い昔から伝わる催しである、聖夜祭。
多くの生徒たちが一年で一番ロマンチックな夜を過ごしてきた日だという。
「お、おい! 王女様だぞ! 行けよ!」
「む、むぅりぃ……!」
柱の陰からフレアをやたら見つめてくる男子生徒が二人。顔を赤く染めながら、興奮したように、互いに何やら言い合っている。勢いは感じられるが度胸はない、というような二人だ。
フレアは対応に困ってしまう。
振り返るべきか否か、はっきりしないからだ。
直接声をかけられたなら、普通に言葉を返すことができる。そうすれば、自然とコミュニケーションが始まるというものだ。しかし二人の男子生徒は声をかけてはこない。そのため、自分に話しかけようとしているのだと判断できるようなことを言っているのが聞こえていても、話に入っていきづらい。そこが困るところだ。
「早く行けって! 順番取られるぞ!」
「う、うぅー……む、むぅりぃ……」
「何言ってんだ!」
「メンタル勝負で……負けるぅ……!」
コミカルなやり取りが聞こえてくるが、フレアは仕方なく気づかないふりをしておく。
本当は話しかけてみたいのだけれど。
「フレア王女! 今は暇なのかい?」
またしてもアダルベルトが近づいてきた。
嫌というわけではない。が、フレアは今男子生徒二人組のことが気になっているので、正直アダルベルトのことはどうでもいい。
「えぇ、暇よ。どうしたの?」
「あちらに物凄く美味しいスイーツがあったのだよ!」
スイーツて。
そんな風に思って、フレアは笑う。
「何それ。女児に話しかける不審者みたいね」
「んな!? 何だね、その言い方は!?」
「ごめんなさい。失礼よね。冗談だから気にしないで」
「あ、あぁ……」
その後、フレアはアダルベルトからスイーツについて聞いた。何でも、魅力的なスイーツが大量に出てきているとの話で。少しばかり興味が湧いたフレアは、アダルベルトについていくことにした。フレアは極端にスイーツ好きというわけではないが、甘い物は嫌いではない。
「ところで。スイーツって、何があったの?」
フレアはアダルベルトと体を並べて歩く。フレアに話しかけたかった男子生徒たちは、機会を逃したことを悔しがって密かに歯ぎしりしていた。
「ケーキや焼き菓子だよ! 食堂の女性たちが作ってくれたものだそうだ」
「へぇー。それは良いわね。美味しそう」
「女子生徒たちが集まって騒いでいたのでね、美味しいはずだよ」
「ふぅん。でも、私が行ったら迷惑にならないかしら」
フレアの発言に、アダルベルトは驚いた顔をする。
「な!? ……なぜそのようなことを?」
「深い意味はないわ。ただ、王女がいきなり入っていったら迷惑じゃないかって思って」
ある日、授業がすべて終わったタイミングで、フレアはリカルドに話を振った。
いきなり聖夜祭に関する話を振られたリカルドは戸惑いを露わにする。が、少しして「……正直どうでもいい」と言葉を返した。話を振られてから言葉を返すまでの時間は、そんなに長くはなかった。
「リカルドは楽しみじゃないの?」
花組の教室内には、既に、生徒はほとんどいなくなっている。残っているのは、フレアとリカルド、そしてフレアを待つミルフィ。その三人だけだ。
「王女は楽しみなのか」
「もちろんよ! そういうイベントは結構好き!」
ミルフィが待っているのは、フレアと共に寮へ帰るためだ。
「……そんなことだろうと思ったぜ」
「もう! 馬鹿にしてるの!?」
「してねぇよ、べつに。馬鹿に、とかじゃねぇ」
「ホントに?」
フレアは首を動かしてリカルドの方をじっと見つめながら、目をぱちぱちさせる。
「あぁ。嘘はつかない」
リカルドははっきりと述べた。
その発言に迷いなんてものは少しもない。
「ふふっ。良かったぁ」
刹那、フレアの体から一気に力が抜けた。また、それと同時に、顔面には安堵の色が浮かぶ。フレアは全身から、ホッとしているということを伝えているようだった。無論、無意識なのだろうが。
「まったく、分かりやすいな」
「もう! 何なの? その言い方っ」
フレアとリカルドの会話はいつもこんな感じだ。だがそれは昔からのこと。それゆえ、両者共に、その関わり方に疑問を抱くことはない。仲良しなような、仲良しでないような、そんな関わり方が、二人にとっては一番良い関わり方なのだ。
そして、聖夜祭の日がやって来る。
その日は朝から、いつもとは少々違った空気が流れていた。ガーベラ学院の敷地内で動き回る者たちは、皆、どことなく浮かれていたのだ。
フレアがミルフィやリカルドと共にホールへたどり着いた時、既に幾人もの生徒がその場所に集まっていた。女子生徒は女子生徒で、男子生徒は男子生徒で、群れを作っている。不機嫌そうな者はほとんどいない。多くの生徒が、これから始まる催しを心待ちにしているようだった。
「みーんな、浮かれてるわねぇ」
ホールに入って数秒も経たぬうちに、ミルフィがそんな感想を述べた。
フレアはそれに頷く。
「皆楽しみにしてるみたいね!」
ミルフィが見ている世界とフレアが見ている世界は、ほとんど同じもの。フレアはミルフィの発言に共感することができた。
「ふふ、そうね。フレアちゃんはどうなの?」
「楽しみよっ」
「あら可愛い。素直で良いわね」
「ありがとう」
フレアとミルフィが話している間、リカルドは、つまらないと叫びたそうな顔で周囲の様子を確認していた。じっくりと辺りを見回している。犯人であったカッタルはとうに去ったが、それでも、周囲への警戒を怠る気はないようだ。
そんな時、一人の青年がフレアたちのところへ足を進めてきた。
「やぁ! フレア王女!」
元気に挨拶した青年、その正体はアダルベルトだった。
「……アダルベルト。どうしたの? 何か用事?」
フレアはクラスメイトのいきなりの登場に戸惑いつつも、無視はせず、きちんと言葉を返す。
「どうもしない! ただ見つけたから来ただけだよ!」
「そ、そう……」
アダルベルトが妙にハキハキした物言いをするのは珍しいことではない。彼はいつもそんな感じ。だから、これも、驚くほどのことではない。
とはいえ、いきなり力強い声をかけられたら、困惑せずにはいられないというもの。
今のフレアも例外ではない。
「会いに来てくれたってこと?」
「あぁ! そんな感じだね」
「ありがとう。今日は楽しめると良いわね」
ガーベラ学院に遠い昔から伝わる催しである、聖夜祭。
多くの生徒たちが一年で一番ロマンチックな夜を過ごしてきた日だという。
「お、おい! 王女様だぞ! 行けよ!」
「む、むぅりぃ……!」
柱の陰からフレアをやたら見つめてくる男子生徒が二人。顔を赤く染めながら、興奮したように、互いに何やら言い合っている。勢いは感じられるが度胸はない、というような二人だ。
フレアは対応に困ってしまう。
振り返るべきか否か、はっきりしないからだ。
直接声をかけられたなら、普通に言葉を返すことができる。そうすれば、自然とコミュニケーションが始まるというものだ。しかし二人の男子生徒は声をかけてはこない。そのため、自分に話しかけようとしているのだと判断できるようなことを言っているのが聞こえていても、話に入っていきづらい。そこが困るところだ。
「早く行けって! 順番取られるぞ!」
「う、うぅー……む、むぅりぃ……」
「何言ってんだ!」
「メンタル勝負で……負けるぅ……!」
コミカルなやり取りが聞こえてくるが、フレアは仕方なく気づかないふりをしておく。
本当は話しかけてみたいのだけれど。
「フレア王女! 今は暇なのかい?」
またしてもアダルベルトが近づいてきた。
嫌というわけではない。が、フレアは今男子生徒二人組のことが気になっているので、正直アダルベルトのことはどうでもいい。
「えぇ、暇よ。どうしたの?」
「あちらに物凄く美味しいスイーツがあったのだよ!」
スイーツて。
そんな風に思って、フレアは笑う。
「何それ。女児に話しかける不審者みたいね」
「んな!? 何だね、その言い方は!?」
「ごめんなさい。失礼よね。冗談だから気にしないで」
「あ、あぁ……」
その後、フレアはアダルベルトからスイーツについて聞いた。何でも、魅力的なスイーツが大量に出てきているとの話で。少しばかり興味が湧いたフレアは、アダルベルトについていくことにした。フレアは極端にスイーツ好きというわけではないが、甘い物は嫌いではない。
「ところで。スイーツって、何があったの?」
フレアはアダルベルトと体を並べて歩く。フレアに話しかけたかった男子生徒たちは、機会を逃したことを悔しがって密かに歯ぎしりしていた。
「ケーキや焼き菓子だよ! 食堂の女性たちが作ってくれたものだそうだ」
「へぇー。それは良いわね。美味しそう」
「女子生徒たちが集まって騒いでいたのでね、美味しいはずだよ」
「ふぅん。でも、私が行ったら迷惑にならないかしら」
フレアの発言に、アダルベルトは驚いた顔をする。
「な!? ……なぜそのようなことを?」
「深い意味はないわ。ただ、王女がいきなり入っていったら迷惑じゃないかって思って」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる