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後編

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「母さん、ごめん。ちょっとびっくりさせてしまうかも……」
「何? どうしたの、喧嘩?」
「……婚約、破棄された」

 恐る恐る言えば「えええ!!」と大声を発される。

 しかし少しして母は冷静さを取り戻し「どういうことなの?」と尋ねてくる。

 仕方ないので私はモルツから言われたままのことを言って説明した。

「……心変わりした、ということね」
「そうみたい」
「婚約者がいる身だっていうのに他の女に目を向けているだなんて……」
「仕方ないけど」
「そういう問題じゃないでしょ!? 恋人じゃないんだから」
「ごめん母さん」
「貴女は悪くないわ。悪いのはそんな滅茶苦茶なことを言い出したあちらよ」


 ◆


 あれから数年。

 私は今、研究者となっている。
 といってもまだまだ新人だが。
 婚約破棄された後、何かすることを求めて入学した学校にてハーブティーの研究にはまり、そのまま研究所に入所した――そして今に至っている。

 最初は軽い気持ちだったのだけれど、今ではハーブティーの研究が日常の一部となっている。

「おはようございます!」
「あ、おはよう。今日も早いわねぇ」
「着替えたのですが何をすれば良いでしょうか」
「ああ、じゃあ、そっちの記録を頼むわ」
「はい!」
「ふふ、いつもやる気に満ちているわね」

 今はここが私の居場所。
 愛とか、恋とか、そういったものはなくても――それでもここに我が幸福は存在している。

「あっ、おはようでっす!」
「記録に来ました」
「はぁーい! じゃあよろしくーっす!」
「はいっ、任せてください」
「いやぁ頼もしいですわぁ、今日もよろしくっす」

 ちなみにモルツはというと、あの後言っていた女性と恋人になるも結婚する際に親から反対を受け、順調には話が進まなくなってしまったそうだ。

 それでも彼は「彼女を愛している!」と言って女性を諦められず。
 しまいには親と縁を切ることを選んだ――そのくらいモルツは女性を想っていた。

 しかし、モルツの親が勝手に女性に対してあれこれ余計なことを言ったために、モルツは女性から捨てられてしまったそうで。

 親と縁を切るところまでしたモルツだったが結果的には女性を失うこととなり、そのショックで毎日寝込むようになってしまったそうだ。

 健康だったかつてのモルツはもうこの世には存在しない。


◆終わり◆
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