35 / 46
35.混乱?
しおりを挟む
翌朝、シュヴェーアと隣り合って椅子に座る。
シュヴェーアは、当たり前だが何も考えおらず、ぼんやり宙を眺めていた。
「シュヴェーアさん」
今日想いを伝えようと心を決めた。しかし、いざ彼と対面すると勇気が出ない。けれども、一度決めたことを違えるわけにはいかない。不安を越えて、強く一歩を踏み出さなくては、人生はいつまでも今のまま。何一つとして進まないのだ。
「……どうした」
シュヴェーアはゆっくりと首を捻り、こちらへ視線を向けてくる。
意外にもすぐに視線が重なった。
言え! 言うんだ! 言わなくちゃ! と思うけれど、私はすぐには言えない。何から言えば良いのか、どう伝えれば良いのか、色々分からなくて。決意したつもりでいたけれど、いざその時になったら、前へ進む勇気が足りない。
「……何を、黙っている?」
「あ……そ、その……ごめんなさい」
意味が分からない、というように、シュヴェーアは首を傾げる。
「……いや、謝ることは……べつにないが。しかし……様子が、妙だ……」
私が何を考えているのか、そこまでは彼は知らないはず。しかし、私の心を知らずとも、私の様子がおかしいことには気がついているようだ。だがそれも、当然といえば当然。今の私の言動は明らかに不審だろうから。
でも、もはや退けない状態になったのは、ある意味幸運だったと言えるかもしれない。
踏み出すことを選べたから。
「ねぇ、私たち結婚しない?」
緊張やら何やらで、思考力は既に消え去っていた。その結果、そんな言い方になってしまった。
そして、沈黙が訪れる。
何を言い出すのか、と思われただろうか? 気味が悪いと幻滅されただろうか?
覚悟は決めたはずなのだが、不安は消滅しきってくれない。
「……あぁ」
長い沈黙の果て、シュヴェーアは静かに口を開いた。
「……そうだな」
「ありがとう、理解してくれて——って、え!?」
二三秒経過してから、私は彼の返答のおかしさに気づく。
「待って!? 本当に結婚してくれるの!?」
雷に打たれたような。鈍器で頭を殴られたような。凄まじい衝撃が全身を駆け抜けていく。
「……あぁ。構わんが」
「そうなの!?」
シュヴェーアは真顔のまま頷いた。
「え、ちょっと待って……。り、理解できない……。頭の整理が……」
衝撃が大きすぎたせいか、クラクラしてきた。手を額に当てて何とか耐えようとするが、眩暈は止まらない。最初はそんな気がしているだけかと思ったが、徐々に。気のせいではないような気がしてくる。眩暈は確かなものだった。
「……セリナ、どうした」
「ごめんなさい、ちょっと、眩暈が」
「眩暈……?」
ついていない、こんな時に眩暈だなんて。
まだ話は終わっていない。しなくてはならない話がまだある。それなのに、話を継続できそうにない。世界が回って。
——そこで、意識は途切れた。
◆
気づけば寝床にいた。
私は仰向けに横になって眠っていたみたいだ。見下ろしているシュヴェーアが視界に入る。
「……目覚めた、か」
彼は、瞼を開けた私を見るや否や、そんなことを呟いた。
「……調子は、どうだ」
「へ、平気。私……一体、どうなって……?」
眩暈になって世界が回って、そこまでは覚えている。しかし、その後のことはまったくもって記憶にない。欠片ほども脳内に残っていなかった。
「……倒れた、ゆえ……ここへ、運んだ」
「シュヴェーアさんが?」
「……あぁ」
「そうだったの。ありがとう」
感謝の気持ちは大きい。けれど純粋に喜べるような気分にはなれない。彼に手間と迷惑をかけてしまったから。
「……で、だが」
シュヴェーアはこちらをじっと見つめたまま、口を動かす。
「……結婚の、話は」
それを聞いた瞬間、眩暈に襲われる前のことを思い出した。
宇宙を駆ける星のように、記憶が脳に流れ込んでくる。
「そうだった! 忘れてた!」
私は即座に上半身を起こす。
「その話をしていたのよね!」
「……あぁ」
シュヴェーアはそっと頷く。しかし、その表情はどことなく暗い。どう見ても、喜んではいない人間の表情だ。
彼ははっきり拒否する言葉は投げてこなかったけれど、もしかしたら、少し嫌だったのかもしれない——だとしたら、無理に強要するのは問題。
「シュヴェーアさん、嫌なら無理しなくて良いのよ! 私、断られても、気にしないから!」
「……なぜに?」
「何となく言っただけなの! 試しにね。だから、深く考えず、嫌ならサラッと断って!」
断って良いのだと分かれば、彼も断りやすいはず。そう考えて、私は明るい調子でそんなことを言ってみた。彼の方にも拒否権はあるのだと、そう伝えたくて。
だが、シュヴェーアの表情が明るくなることはなかった。
それどころか、むしろますます暗い顔つきになってしまった。
「……何となく、か」
「え?」
「そう……だろうな。分かっていた……」
シュヴェーアは残念そうな顔で弱々しく呟く。
私が想像していた反応と違う。
「……セリナが、私に……本気になる、わけがない……」
「え?」
「……本気で、あのようなこと……言う、わけが、なかった……」
シュヴェーアはなぜか落ち込んでいる。
実際に「落ち込んでいる」と述べたわけではないけれど、非常に分かりやすい表情でがっかりしている。それゆえ、彼が落ち込んでいるのは誰の目にも明らかだ。
「待って! 待って待って? 何だか話がおかしいわよ?」
慌てて彼のマイナス思考発言を止める。
「私、本気よ? シュヴェーアさんのこと、嫌いじゃないもの!」
「……だが、『何となく言っただけ』と……」
言われて気づいた。私の言い方が悪かったのだと。
私はただ、彼にも拒否権はあるのだと気づいてほしくて、それであんなことを言ってしまった。言い訳するわけではないが、彼のために敢えてそんなことを言ったのであって。本当に『何となく』で結婚話を出したわけではないのだ。
「ごめん。それは嘘」
「……そうなの、か!?」
シュヴェーアは目を二倍に近いくらいまで開き、瞳を震わせている。
らしくなく、かなり動揺しているようだ。
「嘘ついてごめんなさい。つい勢いであんなことを言って、ごめんなさい」
「……そう、なのか?」
何とも言えない気まずい空気になってしまう。
シュヴェーアは怒ってはいないようだが、ご機嫌というわけでもない。
「いきなり結婚はさすがに調子に乗り過ぎかもしれないけれど……でも、その……」
「……そう、だな。いきなり、は……準備が、間に合わない……」
とにかく気まずい。
ひたすら、どこまでも、気まずい時が流れていく。
シュヴェーアは、当たり前だが何も考えおらず、ぼんやり宙を眺めていた。
「シュヴェーアさん」
今日想いを伝えようと心を決めた。しかし、いざ彼と対面すると勇気が出ない。けれども、一度決めたことを違えるわけにはいかない。不安を越えて、強く一歩を踏み出さなくては、人生はいつまでも今のまま。何一つとして進まないのだ。
「……どうした」
シュヴェーアはゆっくりと首を捻り、こちらへ視線を向けてくる。
意外にもすぐに視線が重なった。
言え! 言うんだ! 言わなくちゃ! と思うけれど、私はすぐには言えない。何から言えば良いのか、どう伝えれば良いのか、色々分からなくて。決意したつもりでいたけれど、いざその時になったら、前へ進む勇気が足りない。
「……何を、黙っている?」
「あ……そ、その……ごめんなさい」
意味が分からない、というように、シュヴェーアは首を傾げる。
「……いや、謝ることは……べつにないが。しかし……様子が、妙だ……」
私が何を考えているのか、そこまでは彼は知らないはず。しかし、私の心を知らずとも、私の様子がおかしいことには気がついているようだ。だがそれも、当然といえば当然。今の私の言動は明らかに不審だろうから。
でも、もはや退けない状態になったのは、ある意味幸運だったと言えるかもしれない。
踏み出すことを選べたから。
「ねぇ、私たち結婚しない?」
緊張やら何やらで、思考力は既に消え去っていた。その結果、そんな言い方になってしまった。
そして、沈黙が訪れる。
何を言い出すのか、と思われただろうか? 気味が悪いと幻滅されただろうか?
覚悟は決めたはずなのだが、不安は消滅しきってくれない。
「……あぁ」
長い沈黙の果て、シュヴェーアは静かに口を開いた。
「……そうだな」
「ありがとう、理解してくれて——って、え!?」
二三秒経過してから、私は彼の返答のおかしさに気づく。
「待って!? 本当に結婚してくれるの!?」
雷に打たれたような。鈍器で頭を殴られたような。凄まじい衝撃が全身を駆け抜けていく。
「……あぁ。構わんが」
「そうなの!?」
シュヴェーアは真顔のまま頷いた。
「え、ちょっと待って……。り、理解できない……。頭の整理が……」
衝撃が大きすぎたせいか、クラクラしてきた。手を額に当てて何とか耐えようとするが、眩暈は止まらない。最初はそんな気がしているだけかと思ったが、徐々に。気のせいではないような気がしてくる。眩暈は確かなものだった。
「……セリナ、どうした」
「ごめんなさい、ちょっと、眩暈が」
「眩暈……?」
ついていない、こんな時に眩暈だなんて。
まだ話は終わっていない。しなくてはならない話がまだある。それなのに、話を継続できそうにない。世界が回って。
——そこで、意識は途切れた。
◆
気づけば寝床にいた。
私は仰向けに横になって眠っていたみたいだ。見下ろしているシュヴェーアが視界に入る。
「……目覚めた、か」
彼は、瞼を開けた私を見るや否や、そんなことを呟いた。
「……調子は、どうだ」
「へ、平気。私……一体、どうなって……?」
眩暈になって世界が回って、そこまでは覚えている。しかし、その後のことはまったくもって記憶にない。欠片ほども脳内に残っていなかった。
「……倒れた、ゆえ……ここへ、運んだ」
「シュヴェーアさんが?」
「……あぁ」
「そうだったの。ありがとう」
感謝の気持ちは大きい。けれど純粋に喜べるような気分にはなれない。彼に手間と迷惑をかけてしまったから。
「……で、だが」
シュヴェーアはこちらをじっと見つめたまま、口を動かす。
「……結婚の、話は」
それを聞いた瞬間、眩暈に襲われる前のことを思い出した。
宇宙を駆ける星のように、記憶が脳に流れ込んでくる。
「そうだった! 忘れてた!」
私は即座に上半身を起こす。
「その話をしていたのよね!」
「……あぁ」
シュヴェーアはそっと頷く。しかし、その表情はどことなく暗い。どう見ても、喜んではいない人間の表情だ。
彼ははっきり拒否する言葉は投げてこなかったけれど、もしかしたら、少し嫌だったのかもしれない——だとしたら、無理に強要するのは問題。
「シュヴェーアさん、嫌なら無理しなくて良いのよ! 私、断られても、気にしないから!」
「……なぜに?」
「何となく言っただけなの! 試しにね。だから、深く考えず、嫌ならサラッと断って!」
断って良いのだと分かれば、彼も断りやすいはず。そう考えて、私は明るい調子でそんなことを言ってみた。彼の方にも拒否権はあるのだと、そう伝えたくて。
だが、シュヴェーアの表情が明るくなることはなかった。
それどころか、むしろますます暗い顔つきになってしまった。
「……何となく、か」
「え?」
「そう……だろうな。分かっていた……」
シュヴェーアは残念そうな顔で弱々しく呟く。
私が想像していた反応と違う。
「……セリナが、私に……本気になる、わけがない……」
「え?」
「……本気で、あのようなこと……言う、わけが、なかった……」
シュヴェーアはなぜか落ち込んでいる。
実際に「落ち込んでいる」と述べたわけではないけれど、非常に分かりやすい表情でがっかりしている。それゆえ、彼が落ち込んでいるのは誰の目にも明らかだ。
「待って! 待って待って? 何だか話がおかしいわよ?」
慌てて彼のマイナス思考発言を止める。
「私、本気よ? シュヴェーアさんのこと、嫌いじゃないもの!」
「……だが、『何となく言っただけ』と……」
言われて気づいた。私の言い方が悪かったのだと。
私はただ、彼にも拒否権はあるのだと気づいてほしくて、それであんなことを言ってしまった。言い訳するわけではないが、彼のために敢えてそんなことを言ったのであって。本当に『何となく』で結婚話を出したわけではないのだ。
「ごめん。それは嘘」
「……そうなの、か!?」
シュヴェーアは目を二倍に近いくらいまで開き、瞳を震わせている。
らしくなく、かなり動揺しているようだ。
「嘘ついてごめんなさい。つい勢いであんなことを言って、ごめんなさい」
「……そう、なのか?」
何とも言えない気まずい空気になってしまう。
シュヴェーアは怒ってはいないようだが、ご機嫌というわけでもない。
「いきなり結婚はさすがに調子に乗り過ぎかもしれないけれど……でも、その……」
「……そう、だな。いきなり、は……準備が、間に合わない……」
とにかく気まずい。
ひたすら、どこまでも、気まずい時が流れていく。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる