誰もが居場所を求めてる。 ~人と魔の者の物語~

四季

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episode.3 指摘する女

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 ノワールは両親はもう死んでいるだろうと言った。そして、ゼツボーノのことを知っているからこそ分かる、とも。その意味は理解できなかったけれど、どうやら、ノワールはゼツボーノのことを知っているようだ。その点で、彼は何か私の助けとなる情報をくれそうな気がして。だからこそ、手放すべきではないと考えた。彼との縁を繋いでおきたい、そう強く感じたのだ。

「私は両親に会いに行きたい――それがずっと夢でした。この夢はきっといつか叶えてみせるんです!」

 そう話してみると。

「……馬鹿げてるね」

 ものすごくあっさりした返しが来た。

「そんなこと言わないでください!」
「感情的にならないでよ、べつにとめてるわけじゃない」
「え」
「ああ勘違いしないで、どうでもいいってことだから」
「そうですか……」

 ちょうどその時、見知らぬ女性が通路を歩いてきた。

 今この建物は一階と二階の広い範囲が繋がっている状態だ。階段部分は辛うじて使える、が、その他の広範囲が吹き抜けのようになっている。見晴らしは良いが何とも言えぬ見た目だ。破壊された眺めていてあまり嬉しいものではない。

 暗いブルーのスーツに身を包み眼鏡をかけた女性だ。
 真面目な雰囲気の人。
 ただ、その一方で、ネクタイが個性的な模様だったり頭の上のお団子が何段もあるケーキのような形だったり口紅が派手なレッドだったりと、少々個性的なところもある。

「貴女たち! こんな夜に男女で一体何をなさっているのですの?」

 女性は急に私とノワールがいる方へと歩いてくる。
 それもつかつかとせっかちな足取りで。

「すぐに離れなさい! まったく、穢れていますわ……」

 女性は右手の指で眼鏡の縁を押さえつつじりじりとノワールに近づいていく。

「あのさ、迷惑なんだけど」

 ノワールはきっぱりと言葉を返した。

「何ですって!? おこちゃまのくせに、なんて無礼な! 許せませんですわ!」
「うるさい、って言ってんの」
「はああ!? うるさいとはなんてことなんですの!? あんたみたいなおこちゃまが調子に乗って! 許せませんですわ! 反抗期こじらせるのもいい加減になさいな!!」

 女性の怒りのボルテージが徐々に上がってきた。厄介なことになりそう、と思っていると、彼女はやがてノワールの身体を突き飛ばした。その動きを読んでいたノワールはバランスを崩すようなことはなかったが、その時には既に女性の怒りはかなり高まっていて。

「きいいいいいい!! 生意気、生意気ですのよおおおおおおお! 許せませんわああああああ! きいいいいいいいいい!!」

 全体的にブルー系統の色で揃えていたその女性は、突如びっくりするような大きな声を発した。

 するとその身が強く光って。
 ほんの数秒で急激に巨大化する。

「これって、もしかして魔の者!?」
「そうみたいだね。……メンドクサ」

 ぶち抜かれた一階と二階の部分を埋め尽くすくらいの大きさの魔の者だ。

 眼鏡や髪型、真面目過ぎる雰囲気などは、人間の姿だった時とおおよそ変わりない。ただ変化しているところもある。まず足らしい足がなく、また、灰色の手首までの手が胴体部分を囲むように八つ浮かんでいる。それらの手のすべてが、人差し指にルージュがついているような状態だ。つまり、八つの手すべての人差し指に赤い色がつけられているのである。

「不潔不潔不潔不潔! もう! 不潔の極みですわ! 不潔不潔不潔不潔! もはや! 不潔でしかありませんわ!」

 魔の者はストレスを発散するかのように怒りを言葉に乗せて放ち続ける。

 夜なのに騒がないでよ。
 そう思うのだが魔の者を黙らせることなんてできやしない。

 ヒステリックな叫びが夜の空間に響き渡る。

「このワタクシの命令を聞かないなんて許せないですわ! 許せない許せない許せない! 生意気なやつは死ねッ!!」

 一斉に飛んでくる人差し指だけを立てた形の手。
 それらは意思を持っているかのようにノワールに迫る。

 しかしノワールは手でそれらを軽くはねのけた。

「夜中に騒ぐなよ……」

 彼は呆れ顔で魔の者と対峙している。

「このワタクシに、シテキ・ス・ルージュ様に、言い返すなんて生意気なのですわ!!」

 シテキ・ス・ルージュは繰り返し何度も手を飛ばしてくる。ノワールはそれを手ではねのけるばかりで。しかし徐々に面倒臭くなってきたようで表情が溜め息をついているかのようなものへと変わっていった。そしてやがて、一つの手を片足で蹴り飛ばす――するとそれは勢いよく本体の方へと飛んでゆき、シテキ・ス・ルージュの顔面と思われる部分に激突した。

「んぶべしっ」

 いきなり顔面に物をぶつけられたシテキ・ス・ルージュは変な音を出してしまっていた。

 その手があったか! と思い、私はベンチを持ち上げた。これで手を打ち返せば援護できるかも、と思って。まずは試し、ベンチを振って飛んでくる手を打ってみる。すると顔面は無理だったが胴部分に少しは掠った。

 それから少しして、シテキ・ス・ルージュは「きょ、今日のところはここまでにして差し上げることとするんですわ!」と少々癖のある言葉遣いで吐いた。

 そして、姿を消した。

「大丈夫ですか? ノワールさん」
「まーね」
「ああ良かった」

 怪我していなくて良かった。

 もっとも、もし怪我したなら私が治すだけだけれど。

「ベンチ振り回しなんてしなくて良かったのに」
「へ?」
「みっともないよ、そういうの」
「あ……。す、すみません。迷惑でしたよね、こんな……」

 落ち込みかけた私の耳に。

「ま、でも、キミにしたら頑張った方じゃない」

 飛び込んできたのは意外な優しさのある言葉。

「えっ……!」
「掠ってるだけでもまだ良い方でしょ」
「は、はい! そう思います!」
「でも刺激するから余計なことしない方がいいよ」
「ああー……確かにその通りですー……」
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