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episode.4 アイスクリーム食べたい!

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「ふぅん、ここがキミの家か」

 あの後夜が明けて帰宅が許されることとなり、私はまたのこの狭い部屋へと帰ってきた。

 そして、何となくノワールも連れてきてしまった。

「悪くないね」
「狭いですよね!?」
「べつに」
「ええっ!? どんな狭いところで暮らしていたのですか!? ――って、ああすみません、私何だか失礼なことを」

 ますます謎が深まる。
 貧しい出とは思えないような服装なのに。

「いいよ。で、ここに住んでるんだよね、一人?」
「はい」

 二階の一室、幸い今回は被害はなかったけれど――何回見てもこの部屋は狭い。

 もっと広い部屋に住みたいなぁ、とたまには思うのだけれど、女一人で住まわせてもらえる部屋となるとなかなかないのだ。それに、当然、広ければ広いほど支払わなくてはならないお金も高額になる。だからもうずっとここで妥協している。いや、正直、このくらいでさほど問題ないのだ。後は気持ちの問題だけで。一人で住むところなんて、最低限の条件すら満たしていれば十分だ。

「でも、本当にいいわけ? こんな勝手に男を連れ込んで」
「それは多分大丈夫です、ここの大家さん超絶男好きなので」
「ええー……」
「女性が増えるより男性が増える方が受け入れていただけると思います」
「嫌な予感しかしないんだけど……」
「大丈夫ですよ! 大家さんはがちむち系の方がお好きですから!」
「そう……」

 ノワールには特に行くあてはなかったようだったので、ここへ連れてきてみた。

 姿見の前まで行って髪をほどく。一つ結びはずっとそのままにしていると緊張感がとれないから。結わえていた紐を外せば、金髪の長く伸びた髪が重力に添うようにはらりと下へ落ちる。

 少し爽やかな気持ち。

 ノワールは壁にもたれるようにして腕組みしながら立っていた。
 姿見に映り込んでいるので分かる。

「でも、縁起悪い女ーってのはあながち間違ってはないみたいだね」

 彼は突然ぽつりとそんなことを言った。

「魔の者によく出会うんでしょ?」
「……はい」
「じゃあこういうのはどう? ボクはキミを護る、代わりに、キミはボクを回復する」

 驚きやら何やらで感情が昂り、思わず勢いよく立ち上がってしまう。

「え……それって……、まだ一緒にいてくれるってことですか!?」

 凄く喜んでいる人みたいで少々情けない気もする――でも、嬉しいことは事実だ。

「ま、そうなるね」
「やった! 嬉しいです! これで、話し相手を得られました!」
「……念のため言っておくけど」
「はい!」
「べつに、キミを護りたいからってわけじゃないから」

 彼は急にそっぽを向いてそっけない調子で言ってきた。

 可愛いなぁ~もう~、などと冗談めかして言ってみたいところだが、彼に私を護る理由がないことは明らかなので彼の言っていることは正解なのだと思う。

「はい! はい、そうですよね! でも嬉しいですっ」
「ああもう……騒がしいな……」
「あ、はい。では静かにしますね」

 こうして二人での暮らしが始まってゆくのだった。


 ◆


 今日はノワールと街へお出掛け。
 こんな風にして穏やかに散歩をするのはいつ以来だろう。

 お気に入りの赤茶のワンピースで街を歩く、それだけでも心は弾むものだ。けれども今日は一人でない、二人だ。こんなことはいつ以来だろう、一人で街を歩くのとはまた少し違った楽しさがある。

「西の筋の一番端にアイスクリーム屋さんがあるんです! そこのお店、もうすっごくいろんな味があって、びっくりするんですよ! でも一人で行っている人って珍しくって……これまではなかなか行きづらかったんです。でも今日は二人だから行けそうだなぁって思ってて。よかったら一緒に行きませんか? きっと気に入りますよ、アイスクリーム!」

 ついたくさん喋ってしまって、冷めた表情で溜め息をつかれてしまった。

「そんなに行きたいの? アイスクリーム屋」
「はい! ……あ、もしかして苦手でしたか? アイスとか」
「いやべつに」
「なら良かったです! 甘くて冷たいのって美味しいですよね」

 今日の主な用事は買い出しだ。
 しかし実は隠れた重要な任務がある――それこそが、アイスクリーム屋へ行く、というものなのである。

 ま、私がこっそり考えていただけだけれど。

「……ない」
「すみません今何て」
「ない。食べたこと……」
「えええッ!!」

 思わず大声が出てしまった。

「そん、な……アイスを……食べたことがないなんて……」
「そんなに珍しい?」
「珍しいですよ!? だって、子どもに大人気じゃないですか!? アイスクリームですよ!?」
「知らないよ、もう。鬱陶しいな……」

 それからおおよその買い出しを済ませて、そこからアイスクリーム屋へと向かう。
 ノワールはあまり嬉しそうでなかったけれど、でも、そんな顔をしながらでもついてきてくれていた。

 そして私はついにアイスを食べることに成功!

 ちなみに私はイチゴとバニラが混ざった味のものを注文したのだが、彼はまさかの抹茶を注文していた。

 何となくの流れで指差したところにあったのがそれだったのだ。

「ノワールさん、本当にそれで良かったんですか? 抹茶」
「どのみち味とか興味ないし……」
「もー! そんなこと言って!」
「どれも同じじゃない? 全部冷たいわけだし」
「違いますよーっ!」

 ノワールは手に取っているコーンにちょこんと乗せられたグリーンのアイスをじっと見つめ、それから、少しだけ舌を出して舐めた。途端に目が開かれる。燃えているような色をした瞳が静かに煌めく。

「美味しい……!」

 彼は感動しているようだった。

「美味しかったですか? 抹茶」
「……うん、結構好き」

 アイスクリームに関して、彼は自分の心に正直だった。

「そっちも早く食べなよ、溶ける」
「あっ、そうでした!」

 それからアイスを食べたのだけれど、一人で食べるよりもずっと美味しく感じられて、とても幸せだった。

 ――この日、私は、何も考えずあまりにもうかれすぎていた。
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