かつて私たちは愛し合っていた。それは確かなことだった、が、ある時彼が女といちゃついているところを見てしまい――。

四季

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後編

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「ああ可愛い可愛いよ、愛おしい、誰よりも……」
「でもいいのかしらぁ? 婚約してるんでしょお? あなた……怒られたりしないのかしら」

 やがて唇までも重ね始めるルーメンと女性。
 喧噪の狭間にリップ音が小さく響く。

「いいんだ、彼女はこういうのには疎い娘だから」
「気づかれない、ってことぉ?」
「そうそう、そういうこと。だから大丈夫。今のところ一度も疑われていないし」

 そんな風に語る調子に乗ったルーメンを見ていたら腹が立ってくる。

 舐められていたのだ。
 私は疎いのだと。
 愛されていると思っていたけれど、そうではなくて、実際には馬鹿にされていたのだ。

 もう我慢できない――!

「ルーメン、何しているの? こんなところで」

 私は彼らの前に出ていった。

「なっ……!?」

 よほど私の登場を想定していなかったようで一気に青い顔になるルーメン。

「呆れたわ。貴方、愛を囁いておきながら裏ではこんなことをしていたのね」
「あ、や、いやっ……ちっ、ちが、違っ……」
「もういいわ。何も言わなくていい。言ってほしくないし聞きたくもないわ。でもこれだけは言わせて」

 もう容赦はしない。

 無理よ、許すなんて。

「ルーメン、貴方との婚約――本日をもって破棄とします」

 こうして私たちの関係は終わった。

 私は二人から慰謝料を取った。
 そしてそれをもって関係は終わりとなる。

 金が欲しいわけではないが少額でも金を貰えた方が少しは救いになるというものだ。

 その後私たちは対照的な道を歩むこととなった。

 私はお見合いで出会った歴史ある貴族の家の子息と結婚。彼には大層良くしてもらい、夫婦となった今も日々大事にしてもらえている。彼はいつも優しく接してくれるしどこまでも深い愛を注いでくれる。そんな彼と過ごす日々はとても楽しくて、たまに泣きそうになってしまうほどに嬉しいことが多い。

 一方ルーメンはというと、あの女性の親から「うちの娘を巻き込んで! 最低だな! せめて責任はとれ!」と言われ強制的に結婚させられてしまったそうだ。ルーメンはそこまでは考えていなかったようだが、その時になって拒否することもできず、彼はそのまま人生を決められてしまったらしい。また、結婚後は彼女の親と同居することとなり、彼らに虐げられながら生きなくてはならないこととなってしまったようだ。

 ま、それもまた彼の人生であり、彼の行動が定めた道なのだが。

 それゆえ可哀想だなんて思う必要はないのだが。


◆終わり◆
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