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『何かとついていない人生でした。ですが死後意外な展開が待っていて……その結果私は新たな道へと歩み出すこととなったのです。』
何かとついていない人生だった。
年頃になり、親に強制されて婚約した彼ディオは、私のことを欠片ほども愛してはくれなかった。
……いや、べつに、愛してなんてほしかったわけじゃない。
ただ普通に関わってほしかっただけ。
ただ人として見てほしかっただけ。
けれどもそれは叶わない夢で。
ディオは私ではない女性を愛していた。そしてその人のことだけをずっと見つめていた。そんな彼にとって婚約者となった私はただただ邪魔なだけの人間で。彼は私を見かけるたび冷たく睨んできていた。
そしてやがて婚約破棄を告げられる。
その日は色々酷かった。
珍しく彼の方から呼び出してきたので不審に思いつつもそこへ行ったのだけれど、するとそこにはディオが愛している女性を連れて立っていて、その場で心ない言葉を投げられたうえ婚約破棄を宣言された。
しかも彼らは切り捨てられた私を見てくすくすと笑ったのだ。
自分たちがやっておいて、惨めな私を馬鹿にする――きっとそれは彼らがはじめから考えていた展開だったのだろう。
心ない言葉をかけられて平常心を保っていられる人間なんて限られているだろうに。ショックを受けたり、驚き戸惑ったり、そういう反応をすることが通常だろうに。彼らはそんないたって普通の私の心をも玩具として扱っていた。彼らは何の躊躇いもなく傷ついた私を笑いの対象としていたのである。
そうして婚約破棄され帰宅した私は、両親から責められることとなる。
父は言った。
お前が婚約破棄されたのは品性が足りないからだ、と。
それはそうかもしれない。けれどもそうである根拠などありはしない。絶対そうでない、とは言えないけれど、そうだろう、と言える根拠もない。それなのに最初からすべてを父は決めつけていた。
母は言った。
役立たずな娘ね、と。
実の母から期待外れを見るような眼差しを向けられるというのは辛いものだ。
実際に殴られたり蹴られたりはしていなくても、これでは、心にそういうことをされているのと同じようなもの。
……ああ、そうか、結局味方はどこにもいないのか。
私はもう生きることを諦めた。
だって、この世界にいても、良いことなんて何一つないんだもの。
それなら私はここではないどこかへ行こう。
あてなんてないけれど。
それでもこの傷つけられるばかりの世界に佇んでいるよりかはずっとましなはず。
――私は勢いのままに崖から飛び降りた。
◆
死後の世界。
それを統べる女神と対面する。
『辛かったですね』
「……はい、分かってくださってありがとうございます」
『あなたは頑張ったと思いますよ』
「ありがとうございます、女神さま」
女神の瞳は黒かった。けれども恐ろしくはない。なぜならその黒い瞳には優しさが滲んでいるから。闇のようで、闇ではない。
それに、私は知っているのだ。
世界で最も恐ろしいのは悪意ある人間なのだと。
『あなたを傷つけた者たちに天罰を下しておきました』
「ええっ」
『問題でしたか?』
「い、いえ。問題ではありません。少し驚いてしまっただけで」
『そうですか、なら良かったです』
ディオは落雷によって命を落とした。
その雷は女神が直々に起こしたものだそうだ。
直撃による即死だった。
彼と共に私を馬鹿にして笑ったあの女性は、ディオの死によって心を病んだ。そして大量の酒を飲むようになる。女神は地上へ遣いを出し、酒にまみれたその女性が飲む酒に毒を混ぜた。すると女性はますます体調不良になり。そうしてやがて衰弱。あの時ディオと共に私を馬鹿にしていた女性は、苦しみ、弱り、その果てでこの世を去った。
女神は私の両親にも罰を与えてくれていた。
父は大雨の日に路上で転倒し水浸しになった畑に突っ込んでしまい、頭を打って命を落とした。
母は女神が召喚した多数のストーカーにつきまとわれ心を病んでやがて自ら命を落とすことを選んだ。
「す、すごい……これが、天罰……」
『満足していただけました?』
「あ……は、はい。とても。驚きましたけど、でも、すごいなって思いました」
『良かった。これであなたは救われますね』
「そ、それはそうです! 本当に! すっとしました!」
その後私は女神の仲間入りを果たし、一つの世界を護る任務に就くのだが――それはもう少し先のお話。
◆終わり◆
『まさかの展開で婚約破棄されてしまいました。~何がどうなったのか分からないままのさよならでした~』
「なあ、エリア」
「なに?」
私エリアにはダニエルという婚約者がいる。
「しりとりしかしねーか?」
「いいわよ」
「じゃあ始めるな。まずは……栗きんとん」
「終わったじゃない」
「おっと、失敗だ」
私と彼は小さい頃からの知り合い。いわゆる幼馴染みといったような関係。なので大抵のことは気兼ねなく話し合える仲だ。
「じゃあもう一度」
「気をつけてちょうだいよ」
「うーん、うーんと、うーんしょ、うーんーんーとー……結婚!」
「終わったわ」
「おっと」
「またなの……」
何回やるんだ、この展開。
そんなことばかり思ってしまう。
「もう一回! 頑張る! 頑張って相応しい言葉を見つける! だからちょっとだけ待ってくれ」
「分かったわ」
「よーし……成金!」
「まだやるの」
「ま、まだまだ、諦めない……優勝賞金!」
「……わざと?」
「違う! 違うんだ! うっかりを重ねてしまっただけ! それだけ!」
あまりにも何回も同じことを繰り返してくるものだから、呆れて「さすがにもういいわよ、やめましょう」と言った。
するとダニエルの表情が変わる。
一気に冷たいものになった。
今や彼は直前までとは別人であるかのような表情を面に浮かべている。
「何でそんなこと言うんだよ」
「……え」
「酷すぎるだろ! こっちが頑張ってんのに!」
「ちょ、待って。待ってちょうだい。一体何をそんなに怒っているのよ。落ち着いてちょうだいよ」
困惑していると。
「落ち着けるわけがないだろ! そんなこと不可能! 心ない言葉をかけられて黙っていろなんて酷すぎるだろ! おいおいおいおいおい! おいおいおいおいおいおい! 分かってんのか? そんな酷いこと言うなよ! 言うなよ! 最低すぎるだろ! あまりにも! な? なあ? なぁ!? 酷すぎるだろ!? 何でそんな暴言を吐くんだ! 吐くんだよ! 酷すぎる!」
ダニエルは狂犬のように叫び出す。
「落ち着けるわけがない! 落ち着けるわけがないだろ! な? 分かってんのか? 落ち着けるわけがないだろが! 馬鹿なのか!? 馬鹿なんだな!? 人の心が分からない馬鹿なんだな!? おいおいおいおい! なあ! おい! 聞いてんのか? 心ないこと言われて落ち着けるわけがない、傷つけられていて落ち着けるわけがない、心を叩き壊されて落ち着けるわけがない、なあ! 酷すぎるだろお前は! 最低すぎるだろ!」
止まらないダニエルは叫び続け。
「婚約は破棄とする!!」
やがてそこまで言い放った。
「何を言っているのよ」
「ふざけているのはそっちだろ!」
「えええー……」
「ふざけすぎなのはそっちだろが! そうだろ? そうだろ!? なあ! そうだろうが! 認めろ!! 認めろよ!!」
こうしてダニエルとの関係は終わりを迎えてしまったのだった。
◆
あれから数年、二人のその後は真逆のものとなった。
私は結婚した。
どんな時でもそっと寄り添ってくれる優しい人と結ばれることができた。
おかげで今はのびのびと生活できている。
幸福の極みである。
一方ダニエルはというと。
昔憧れていた事業に手を出したものの上手くいかず借金だけが残り、その現実に絶望して自らこの世を去ったらしい。
◆終わり◆
『婚約者である二つ年上の彼がいきなり婚約破棄を告げてきました。どうやらここまでのようです。』
その日は突然やって来た。
「おぬしとの婚約だが破棄とすることにした」
婚約者である二つ年上の彼ディヴォヴォンがそんな言葉を投げつけてきたのだ。
「わしゃもっと好きな女ができたんじゃ。よって、おぬしはもう要らぬ、わしはわしとして生きてゆく、わしの意思のままに歩むと心決めたのじゃ」
「本気で……仰っているのですか?」
「当たり前じゃろうが」
「ですが、あなたの実家の借金を代わりに返済したのは我が家なのですよ? それは私たちの結婚を上手くいかせるためでした。なのにどうして、今さらそのようなことを仰るのですか」
すると彼は急に怒り出す。
「うるしゃい! うるしゃいうるしゃいうるしゃい! うるしゃいぞ! いい加減にしぇろよ! おぬし! わしゃ、口ごたえされるんが嫌いなんじゃ! 分かっておるじゃろ? うるしゃい女は嫌いなんじゃ! うるしゃい女なんぞさっさと滅んでほしい! それが本心じゃ!」
一旦怒り出すともう止まらないディヴォヴォンである。
「うるしゃいうるしゃいうるしゃいッ!! そーゆーやつは嫌いなんじゃ! 特に女な。うるしゃい女ほど不快なもんはないわ! わしに逆らう女に価値なんぞあるわけがないじゃろうが!」
ディヴォヴォンはそれからも数時間にわたって怒りを発散していた。
意味不明過ぎる……。
無駄な時間の典型例でいろんな意味でキツイ……。
とはいえ、本心を言ってしまえば彼はさらに怒って大変なことになるので、私はぐっとこらえて本心は明かさないようにしておいた。
「おぬしとは終わりじゃッ!!」
彼は最後そう吐き捨てた。
――が、その数十分後、ディヴォヴォンはこの世を去った。
馬車に乗って家へ帰ろうとしていたそうなのだが。途中で急に胸が痛くなったそうで。そのまま倒れ、意識不明になってしまって。素早く近くの病院に運び込まれ、何とか一命は取り留めるかと思われていたのだが、結局亡くなってしまったそうだ。
ディヴォヴォンの最期は呆気ないものであった。
あんなに威張って。
あんなに大声を出して。
他者を威圧していた彼は、あっさりとこの世から去ることとなってしまったのである。
……運命とは分からないものだ。
我が家が代わりに返済していた分のお金は、ディヴォヴォンが亡くなった際に発生した保険金で返してもらうことができた。
◆
「それで、その人はどうなったんだい?」
「亡くなったのよ」
「そんなことに……なっていたとは。ご存命なものと思い込んでいたよ。その……シリアスなことを質問してしまってごめん」
あれから数年。
私は良き人と巡り会い結婚。
今は夫婦で穏やかな日常を楽しんでいる。
「いえいえ、いいの、気にしないで」
「本当?」
「ええ。大丈夫。だって私、彼のこと、好きじゃなかったもの」
もう当たり前のものとなった夫婦での暮らし。
でもこの世に当たり前なんてありはしない。
だからこそこの当たり前が消えてなくなってしまわないよう護りながら生きていかなくてはならない。
「そっか……なら良かったけど。でも、失礼だったらほんとごめん。気分を害するようなことがあったら言ってね? 遠慮しないで」
「気遣いをありがとう」
「良いことでも、悪いことでも、思ったことは言ってくれると嬉しいから」
「そうね、それは同じ気持ち」
私たちは共に歩んでゆく。
手を取り合って。
頼り合って。
行く道には山や谷があるかもしれない。それが人生というものだから。でも、もしそういったものに出くわしたとしても、それすらも共に乗り越えていく自信が今はある。
私たちは最強のパートナーだ。
◆終わり◆
何かとついていない人生だった。
年頃になり、親に強制されて婚約した彼ディオは、私のことを欠片ほども愛してはくれなかった。
……いや、べつに、愛してなんてほしかったわけじゃない。
ただ普通に関わってほしかっただけ。
ただ人として見てほしかっただけ。
けれどもそれは叶わない夢で。
ディオは私ではない女性を愛していた。そしてその人のことだけをずっと見つめていた。そんな彼にとって婚約者となった私はただただ邪魔なだけの人間で。彼は私を見かけるたび冷たく睨んできていた。
そしてやがて婚約破棄を告げられる。
その日は色々酷かった。
珍しく彼の方から呼び出してきたので不審に思いつつもそこへ行ったのだけれど、するとそこにはディオが愛している女性を連れて立っていて、その場で心ない言葉を投げられたうえ婚約破棄を宣言された。
しかも彼らは切り捨てられた私を見てくすくすと笑ったのだ。
自分たちがやっておいて、惨めな私を馬鹿にする――きっとそれは彼らがはじめから考えていた展開だったのだろう。
心ない言葉をかけられて平常心を保っていられる人間なんて限られているだろうに。ショックを受けたり、驚き戸惑ったり、そういう反応をすることが通常だろうに。彼らはそんないたって普通の私の心をも玩具として扱っていた。彼らは何の躊躇いもなく傷ついた私を笑いの対象としていたのである。
そうして婚約破棄され帰宅した私は、両親から責められることとなる。
父は言った。
お前が婚約破棄されたのは品性が足りないからだ、と。
それはそうかもしれない。けれどもそうである根拠などありはしない。絶対そうでない、とは言えないけれど、そうだろう、と言える根拠もない。それなのに最初からすべてを父は決めつけていた。
母は言った。
役立たずな娘ね、と。
実の母から期待外れを見るような眼差しを向けられるというのは辛いものだ。
実際に殴られたり蹴られたりはしていなくても、これでは、心にそういうことをされているのと同じようなもの。
……ああ、そうか、結局味方はどこにもいないのか。
私はもう生きることを諦めた。
だって、この世界にいても、良いことなんて何一つないんだもの。
それなら私はここではないどこかへ行こう。
あてなんてないけれど。
それでもこの傷つけられるばかりの世界に佇んでいるよりかはずっとましなはず。
――私は勢いのままに崖から飛び降りた。
◆
死後の世界。
それを統べる女神と対面する。
『辛かったですね』
「……はい、分かってくださってありがとうございます」
『あなたは頑張ったと思いますよ』
「ありがとうございます、女神さま」
女神の瞳は黒かった。けれども恐ろしくはない。なぜならその黒い瞳には優しさが滲んでいるから。闇のようで、闇ではない。
それに、私は知っているのだ。
世界で最も恐ろしいのは悪意ある人間なのだと。
『あなたを傷つけた者たちに天罰を下しておきました』
「ええっ」
『問題でしたか?』
「い、いえ。問題ではありません。少し驚いてしまっただけで」
『そうですか、なら良かったです』
ディオは落雷によって命を落とした。
その雷は女神が直々に起こしたものだそうだ。
直撃による即死だった。
彼と共に私を馬鹿にして笑ったあの女性は、ディオの死によって心を病んだ。そして大量の酒を飲むようになる。女神は地上へ遣いを出し、酒にまみれたその女性が飲む酒に毒を混ぜた。すると女性はますます体調不良になり。そうしてやがて衰弱。あの時ディオと共に私を馬鹿にしていた女性は、苦しみ、弱り、その果てでこの世を去った。
女神は私の両親にも罰を与えてくれていた。
父は大雨の日に路上で転倒し水浸しになった畑に突っ込んでしまい、頭を打って命を落とした。
母は女神が召喚した多数のストーカーにつきまとわれ心を病んでやがて自ら命を落とすことを選んだ。
「す、すごい……これが、天罰……」
『満足していただけました?』
「あ……は、はい。とても。驚きましたけど、でも、すごいなって思いました」
『良かった。これであなたは救われますね』
「そ、それはそうです! 本当に! すっとしました!」
その後私は女神の仲間入りを果たし、一つの世界を護る任務に就くのだが――それはもう少し先のお話。
◆終わり◆
『まさかの展開で婚約破棄されてしまいました。~何がどうなったのか分からないままのさよならでした~』
「なあ、エリア」
「なに?」
私エリアにはダニエルという婚約者がいる。
「しりとりしかしねーか?」
「いいわよ」
「じゃあ始めるな。まずは……栗きんとん」
「終わったじゃない」
「おっと、失敗だ」
私と彼は小さい頃からの知り合い。いわゆる幼馴染みといったような関係。なので大抵のことは気兼ねなく話し合える仲だ。
「じゃあもう一度」
「気をつけてちょうだいよ」
「うーん、うーんと、うーんしょ、うーんーんーとー……結婚!」
「終わったわ」
「おっと」
「またなの……」
何回やるんだ、この展開。
そんなことばかり思ってしまう。
「もう一回! 頑張る! 頑張って相応しい言葉を見つける! だからちょっとだけ待ってくれ」
「分かったわ」
「よーし……成金!」
「まだやるの」
「ま、まだまだ、諦めない……優勝賞金!」
「……わざと?」
「違う! 違うんだ! うっかりを重ねてしまっただけ! それだけ!」
あまりにも何回も同じことを繰り返してくるものだから、呆れて「さすがにもういいわよ、やめましょう」と言った。
するとダニエルの表情が変わる。
一気に冷たいものになった。
今や彼は直前までとは別人であるかのような表情を面に浮かべている。
「何でそんなこと言うんだよ」
「……え」
「酷すぎるだろ! こっちが頑張ってんのに!」
「ちょ、待って。待ってちょうだい。一体何をそんなに怒っているのよ。落ち着いてちょうだいよ」
困惑していると。
「落ち着けるわけがないだろ! そんなこと不可能! 心ない言葉をかけられて黙っていろなんて酷すぎるだろ! おいおいおいおいおい! おいおいおいおいおいおい! 分かってんのか? そんな酷いこと言うなよ! 言うなよ! 最低すぎるだろ! あまりにも! な? なあ? なぁ!? 酷すぎるだろ!? 何でそんな暴言を吐くんだ! 吐くんだよ! 酷すぎる!」
ダニエルは狂犬のように叫び出す。
「落ち着けるわけがない! 落ち着けるわけがないだろ! な? 分かってんのか? 落ち着けるわけがないだろが! 馬鹿なのか!? 馬鹿なんだな!? 人の心が分からない馬鹿なんだな!? おいおいおいおい! なあ! おい! 聞いてんのか? 心ないこと言われて落ち着けるわけがない、傷つけられていて落ち着けるわけがない、心を叩き壊されて落ち着けるわけがない、なあ! 酷すぎるだろお前は! 最低すぎるだろ!」
止まらないダニエルは叫び続け。
「婚約は破棄とする!!」
やがてそこまで言い放った。
「何を言っているのよ」
「ふざけているのはそっちだろ!」
「えええー……」
「ふざけすぎなのはそっちだろが! そうだろ? そうだろ!? なあ! そうだろうが! 認めろ!! 認めろよ!!」
こうしてダニエルとの関係は終わりを迎えてしまったのだった。
◆
あれから数年、二人のその後は真逆のものとなった。
私は結婚した。
どんな時でもそっと寄り添ってくれる優しい人と結ばれることができた。
おかげで今はのびのびと生活できている。
幸福の極みである。
一方ダニエルはというと。
昔憧れていた事業に手を出したものの上手くいかず借金だけが残り、その現実に絶望して自らこの世を去ったらしい。
◆終わり◆
『婚約者である二つ年上の彼がいきなり婚約破棄を告げてきました。どうやらここまでのようです。』
その日は突然やって来た。
「おぬしとの婚約だが破棄とすることにした」
婚約者である二つ年上の彼ディヴォヴォンがそんな言葉を投げつけてきたのだ。
「わしゃもっと好きな女ができたんじゃ。よって、おぬしはもう要らぬ、わしはわしとして生きてゆく、わしの意思のままに歩むと心決めたのじゃ」
「本気で……仰っているのですか?」
「当たり前じゃろうが」
「ですが、あなたの実家の借金を代わりに返済したのは我が家なのですよ? それは私たちの結婚を上手くいかせるためでした。なのにどうして、今さらそのようなことを仰るのですか」
すると彼は急に怒り出す。
「うるしゃい! うるしゃいうるしゃいうるしゃい! うるしゃいぞ! いい加減にしぇろよ! おぬし! わしゃ、口ごたえされるんが嫌いなんじゃ! 分かっておるじゃろ? うるしゃい女は嫌いなんじゃ! うるしゃい女なんぞさっさと滅んでほしい! それが本心じゃ!」
一旦怒り出すともう止まらないディヴォヴォンである。
「うるしゃいうるしゃいうるしゃいッ!! そーゆーやつは嫌いなんじゃ! 特に女な。うるしゃい女ほど不快なもんはないわ! わしに逆らう女に価値なんぞあるわけがないじゃろうが!」
ディヴォヴォンはそれからも数時間にわたって怒りを発散していた。
意味不明過ぎる……。
無駄な時間の典型例でいろんな意味でキツイ……。
とはいえ、本心を言ってしまえば彼はさらに怒って大変なことになるので、私はぐっとこらえて本心は明かさないようにしておいた。
「おぬしとは終わりじゃッ!!」
彼は最後そう吐き捨てた。
――が、その数十分後、ディヴォヴォンはこの世を去った。
馬車に乗って家へ帰ろうとしていたそうなのだが。途中で急に胸が痛くなったそうで。そのまま倒れ、意識不明になってしまって。素早く近くの病院に運び込まれ、何とか一命は取り留めるかと思われていたのだが、結局亡くなってしまったそうだ。
ディヴォヴォンの最期は呆気ないものであった。
あんなに威張って。
あんなに大声を出して。
他者を威圧していた彼は、あっさりとこの世から去ることとなってしまったのである。
……運命とは分からないものだ。
我が家が代わりに返済していた分のお金は、ディヴォヴォンが亡くなった際に発生した保険金で返してもらうことができた。
◆
「それで、その人はどうなったんだい?」
「亡くなったのよ」
「そんなことに……なっていたとは。ご存命なものと思い込んでいたよ。その……シリアスなことを質問してしまってごめん」
あれから数年。
私は良き人と巡り会い結婚。
今は夫婦で穏やかな日常を楽しんでいる。
「いえいえ、いいの、気にしないで」
「本当?」
「ええ。大丈夫。だって私、彼のこと、好きじゃなかったもの」
もう当たり前のものとなった夫婦での暮らし。
でもこの世に当たり前なんてありはしない。
だからこそこの当たり前が消えてなくなってしまわないよう護りながら生きていかなくてはならない。
「そっか……なら良かったけど。でも、失礼だったらほんとごめん。気分を害するようなことがあったら言ってね? 遠慮しないで」
「気遣いをありがとう」
「良いことでも、悪いことでも、思ったことは言ってくれると嬉しいから」
「そうね、それは同じ気持ち」
私たちは共に歩んでゆく。
手を取り合って。
頼り合って。
行く道には山や谷があるかもしれない。それが人生というものだから。でも、もしそういったものに出くわしたとしても、それすらも共に乗り越えていく自信が今はある。
私たちは最強のパートナーだ。
◆終わり◆
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