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後編
しおりを挟む「ここまで言って婚約破棄したのですよ。私、最悪な女なのでしょう? なのにやり直そうだなんて、おかしな話ですよね」
彼に付き合ってあげる気など一切ない。
「さようなら」
「ま、待ってくれ! 頼む! 話を聞いて――」
こうして私はその場から去った。
これ以上彼と関わっていたくなかったからだ。
◆
あの後アベタスは婚約者を失ったショックで衝動的に死を選んだそうだ。
だがそのやり方が最低なものだった。
細工した馬車で街中の建物に突っ込むというもので。
そのやり方のせいで、ただ彼が死ぬだけではなくなってしまったのだ。巻き込まれた負傷者も数名発生してしまったそう。で、それによって、償いの金を払わなくてはならないこととなったらしく。そのお金はすべて彼の親が出すこととなったのだそうだ。
彼も、彼の周囲も、どうやら幸せにはなれなかったようである。
その一方で、私はというと、今とても幸せに暮らせている。
私はあの後若き領主に見初められ結婚。
今では経済的には少しも困らず、また、それ以外の苦労もほとんどないような生活ができているのだ。
そして、何よりも、深く愛されている。
これは他のどんなことよりも嬉しいこと。
夫に大事にしてもらえているというのは何よりも大きな幸福である。
もちろん、女の幸せがそれだけだとは言わない。幸せなんて人によって異なるもの、理想的な幸せは人の数だけあるものだ。が、今の私にとっては彼に大切にしてもらえることが何よりも嬉しいことで最大の幸福なのである。
私はもう振り向かない。
暗い過去には目を向けない。
それが消えることはない。
ただ視界から外しておくことはできる。
すべては幸せに生きるため――目の前にある幸せだけを見つめておくことだって許されないことではないだろう。
◆終わり◆
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