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後編

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 ◆


 あれから二年半。
 私の人生は大きな転換点を迎えた。

 婚約破棄後王都防衛隊に加入したのだが、そこで活動している時期に王子フィフィップに見初められ、やがて婚約し結婚した。

 ここ数年はとにかく色々忙しかった。

 大変だった。
 でも嬉しいことだって当然多くあった。

 生きていれば苦労もある、けれど、嫌なことばかりではない。

 楽しいことも嬉しいことも確かに存在する。

「マリアーゼ! ああ良かった、探していたんだ」
「何ですか? フィフィップさん」
「実はさ、これ、渡そうと思っていて」
「ええと……箱? ですか?」
「ああそうなんだ箱だよ! 実はこれ、貴女への贈り物なんだ。……受け取ってくれるかい?」

 私は今フィフィップ王子に愛されている。
 自分で言うのも何だがとても大事にされていると感じる。

「ありがとうございます」
「早速で悪いのだけれど……開けてみてくれないかい?」
「え。今ここで、ですか」

 ちなみにオーソバックスは、妻との日々に絶望し死を選んだらしい。

 何も死ななくても。
 他のやり方だってあっただろうに。

 そう思いはしたけれど。

 でもそれは関係者でも当人でもないから言えることなのだろう。

 自分が辛ければ他の方法なんて考えられないものなのかもしれない……。

 でも、生きていれば良いことだってあっただろうに。

「ああそうだよ」
「ではあちらの台のところで、良いでしょうか」
「もちろん!」
「はい。では開けます。ええと、ここを、こうして……って、ああっ!! これって!!」

 フィフィップからの贈り物、それは、数ヶ月前に一度私が会話の中で「好き」と話した猫のぬいぐるみであった。

 こういう人だから、フィフィップのことは好きなのだ。

 純粋に愛してくれる人。
 だからこそ傍にいたい。

 そして、この身に宿る力で、幸せにしたい。

「こ、これ……いただいて良いのですか……!?」
「もちろん。好きって言っていたよね」
「はい! はい! もちろんです、好きです! え、あの、これ……本当に嬉しいです、ありがとうございます!!」


◆終わり◆
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