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前編
しおりを挟む私マリアーゼは聖女であった。
この身に宿った力は近しい人を幸せにする――否、厳密には、不幸から護る。
それゆえこの力を欲する者も少なくはなく。
まだ幼い頃から争いに巻き込まれることも多々あった。
そんな私は「争いに巻き込まれても自分の足で立てるようになりたい」と言い剣の修行を開始、気づけば私は国で三本の指に入るほどの技術を持った剣士となっていた。
――それが理由で婚約破棄もされた。
ちょうど成人する頃、私には、オーソバックスという婚約者ができた。しかし彼はすぐに私から興味を失ってしまった。最初こそ少しは喋ったりどこかへ出掛けたりもしていたのだが、気づけば私たち二人は疎遠に。会う回数も減っていって。
そしてその果てに婚約破棄を告げられる。
『君のような強い女性に男は――いや、僕は、必要ない。よって、婚約は破棄とする』
それが彼からの最後の言葉で。
こうして私はオーソバックスとの関係を失った。
……ただ、それによって彼が幸せになれたのかといえばそうでもなくて。
彼は私と別れた直後別の女性と婚約し結婚もしたそう。しかしその女性というのが大変情緒不安定な人だったようで。彼は、結婚後速やかに本性を現した女性に、当たり散らされ振り回されながら生きていかなくてはならないこととなってしまったそうだ。
交友関係は妻から許可が出たもの以外許されない。
誰かと家の外で会うのもほぼ禁止。
もちろん外出も妻の希望がある時以外は禁止。
今や彼はとんでもない縛りの中で奴隷のように生活するしかない状態だとか。
その話を聞いていて、私は、穏やかに普通に暮らせることの幸せというものを再確認した。
婚約者を失っても。
悲しみの海に突き落とされても。
それでも私はまだ穏やかな生活を失ってはいない。
奴隷のように扱われているわけではないし、毎日楽しいことだってある――そういう意味では私もまだ幸せの女神に見放されてはいないのだろう。
オーソバックスの現状よりは私の現状の方がずっとましだし良いものだ。
そう思って頑張ろう。
そう考えて進もう。
思いを新たに。
私は明るい未来を信じて進むことを決意した。
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