女騎士がいいですか？ 構いませんよ、お好きように

前編

「あのさ、婚約破棄したいんだけど」

　私は上流階級の家の娘。彼は王の息子。あちらの方が身分が上であることは事実だ。ただ、だからといって何を言われても嫌だと感じないわけではない。驚くようなことを言われれば驚くし、不快感を抱くことだってないわけではない。

「どうしてですか？」

　いきなり「婚約破棄したい」は、さすがに驚かずにはいられない案件。

「最近知り合った女騎士がいてさ、好みなんだよね」
「それだけが理由ですか？」
「あーうん、そんな感じ。彼女、とっても美人なんだ。それに、強いから。魔物に襲われても彼女といれば安心なんだよね」

　確かに、忠誠心が高いうえに強くて守ってくれる女騎士なら、私よりずっと良いのかもしれない。が、だからといってこんなにさらりと言われたら、正直あまり良い気はしない。それはさすがに彼も分かっているだろうけど。

　それに、身分という意味でなら、私も負けてはいないはず。

　女騎士という存在に憧れを抱く男性がいるということも知ってはいるけれど……。

「その女騎士の方を婚約者として迎えられるのですか」
「あーうん、そうそう。その予定にしてる」

　なぜそんな悪気なさそうに心無い言葉を発することができるのか。

　私には理解できない。

　だが、私には剣がある。それは、本物の剣ではない。彼の身体を貫き命を消し飛ばせるようなものではない。が、社会的に彼を突き刺すことのできる剣である。