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前編
しおりを挟む新月の夜に。
「来たなシェリア」
赤毛の婚約者オードに呼び出された。
こんなことは滅多にないことだ。
というのも私は婚約者ながら日頃はずっと放置されているのだ。
だからこそ、嫌な予感がする。
嬉しい理由で呼ばれるなんてことはない――そう思うから、既に胃がじりじり痛い。
「はい、用とは何でしょうか」
夜風が吹き抜けてゆく。
向かい合った二人の髪をそっと揺らした。
どこからか漂ってくるのは爽やかで甘い匂い。
「簡潔に言おう」
「はい」
「婚約は破棄する!」
――やはりそうだったか。
嬉しい話ではないだろうと思っていた。
でもまさかここまで重大な話であったとは。
「ええと……その、それは本気で?」
「ふざけるな当たり前だろう」
「急だったので驚きまして」
「急? それはそうだろう、告げる時というのはいつだって突然なものだ」
「そうですか、分かりました」
「分かったのだな?」
「はい」
「よし! じゃあこれにて終わり!」
「……はい、分かりました」
こうしてオードとの関係は終わってしまった。
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