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前編
しおりを挟む「お前ってさ、俺、要らねえんじゃね?」
「え」
その日は突然やって来た。
「何を言って……」
「だってさ、お前、俺より稼いでるだろ? 冒険者の仕事で」
そう、私たちはもともとお互い冒険者だった。
でも私の方がランクが上で稼ぎも多い。
けれど私はそんなことは気にしていなかったし彼を無能だと見下したりしたことだってないはずだ。
それに、今に始まったことではない。
……なのにどうして、今さらそんなことを言い出すの?
そんなことが問題になるのであれば、婚約する前に既に問題となっていたことだろう。何も、昨日今日に世界の常識が変わったわけではないのだし。でもこれまでそういう問題が浮上することはなかった。ということはつまり、それほど大きな問題ではないということだ。
「それはそうだけど……どうしてそんなことを」
「いや、婚約破棄しようと思ってさ」
「え!?」
「だって面白くねえんだよ、女の方が稼いでるとか」
「そんなこと……言われても……」
「男としてもプライドがズタズタだ!」
「えええ!」
いや、本当に、何で今?
「これまでそんなこと一度も言っていなかったじゃない」
「我慢してた」
「本当なの!? ……そんな雰囲気はなかったけれど」
「耐えてたんだよ! ずっと! 今日まで!」
「そ、そう……」
「てことで、婚約は破棄するから! いいな!」
こうして私は、婚約してから一年以上経っている婚約者ルクセンとの関係は解消となった。
だがその直後ルクセンはマガレットという女性と婚約して。
それによって急に婚約破棄した理由が分かった。
彼はただマガレットと結ばれたかっただけなのだ、私を捨てたのはきっとそれだけの理由。
……馬鹿みたいな話だ、私は乗り換えられただけだった。
でも、そういうことなら、それでもいい。
そんな冷めきった関係をだらだら続けていても意味はないだろう、そう思うから。
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