上 下
2 / 2

後編

しおりを挟む
 婚約破棄を告げられ帰宅した私を迎えてくれたのは赤髪の妹だった。

「そんなことが……」

 彼女はこの世にいないことになっている。
 表向きには。
 我が家の娘は私は一人ということになっているのだ。

 だが彼女は存在している。

 ……ただし、普通の娘でしかない私とは異なり暗殺者なのだけれど。

「お姉さまを捨てるなんて……信じられないわ。こんなに優しい女性滅多にいないのに」
「ありがとう、その言葉に救われる」
「わたし、エルビスさんのこと、許せないわ。お姉さまを傷つけて笑っていられるなんて、許せるわけがない。それに……そんなことが許されるなら、この世自体がおかしいわ」

 婚約破棄に一番怒ってくれたのは妹だった。

 妹はとても優しい娘だ。仕事は黒いものだけれど、根は黒くない。存在を消されてもなお、いつも私を大切にしてくれる。一人娘として生きていける私を恨みもしない。

 その後、エルビスは、妹の手で葬られた。

 また、彼女の魔法によって、私たち以外のすべての人間の脳ならエルビスに関する記憶が消え去った。

 つまり。
 彼は二度死んだのだ。

 それから数年が経ち、私は商売で大成功し富を築いた家の一人息子と結婚。以降は、夫の仕事をたまに手伝いながら、家事に打ち込んでいる。

 日々忙しくはあるが、同時に充実してもいる。

 ちなみに、いないことになっている妹とも、たまには会っている。


◆終わり◆
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...