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前編
しおりを挟むありふれた夜、私は大抵夫であるジュリオスと共にのんびり過ごす――が、時には問題が発生することもある。
「ジュリオス、ちょっといい?」
「うんいいよ。で、何だっけ」
「流しの掃除途中で止まってるわ。もしかして忘れてない?」
かつて私たちはほぼ同時期にそれぞれ婚約破棄される経験をした。
私は散々理不尽な命令をされたうえ「無能は要らん」などと侮辱されて。
彼は浮気されたうえ「もっとかっこいい人がいい」とはっきり言われてしまって。
共に傷心であった頃、私たちは巡り会ったのだ。
「あ!!」
そして今に至っている。
つまり私たちは婚約破棄によって縁を得たのである。
「ごめん僕だ! 多分、途中で荷物を取りに行って、それで――ああ大変大変! 待ってて、すぐ行ってやってくるよ。今から続きするから」
「お願いね」
そして今私たちは夫婦として同じ屋根の下で暮らしている。
彼は時々おっちょこちょいなところがある人で、また、たまにやることを忘れたり失敗したりもする。が、こちらがそれについて指摘しても怒りはしない。また、そういう時にはきちんと謝ってくれるし、気づいた地点からできる限りのことをしようとしてくれる。
そういうところが偉いなと思うし、その悪意のなさや純粋さには尊敬の念すら抱いているくらいである。
「うん、ごめん」
「そこまで急がなくていいから」
「分かった。落ち着いて掃除しないとだもんね」
「もし何か困ったら言ってちょうだい」
「ありがとう!」
私たちはかつてそれぞれの場所で絶望した。
しかしその嵐を越えて今に至っている。
こんな穏やかな現在があるのも、あの嵐の中を駆け抜け越えてきたからこそなのである。
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