2 / 10
2話「道はすれ違い、しかしその先に」
しおりを挟む私たちの道は交わらなかった。
そして今日、すべてが終わった。
壊れたのだ。
何もかも全部。
「ええ!? アリシーナ様出ていかれるのですか!?」
「はい、そうなんです」
「そんな……寂しくなります」
「そう言っていただけるだけでも嬉しいですよ、感謝します。そして、今まで本当にありがとうございました」
一番親しかった侍女にはきちんと別れを告げて。
「アリシーナ様……こちらこそ、ありがとうございました」
「さようなら。ずっと愛しています」
私は城を出た。
ベルガルはもう好きにすればいい。婚約者を捨てたのだからあとは自由。色々な女と遊んで、そうやって生きてゆけば良いのだ。
もっとも、もっと早く私を切り捨てるべきだったのだが。
そうすれば私だって何も言わなかったのに。
そんな風にして実家へ戻った私。
手に入れるはずだったものはすべて失われて。
もう何も持っていない状態になってしまった。
でもいいのだ、これから別の道を模索するから。
そう思っていたのだが――。
「初めまして、貴女がアリシーナ様ですね」
「え」
実家へ戻った数日後、家に一人の青年がやって来て。
「僕、昔、一度貴女にお世話になったことがあるのです」
「え……あの、すみません人違いでは」
「いえ! 間違いではありません!」
「そ、そうですか……」
その赤髪の青年はパルフィと名乗った。
「少しで良いので、話を聞いてはもらえませんか」
「……話って?」
まさかの展開。
これはさすがに想定外。
最初こそ怪しいと思っていたけれど、言葉を交わすうちに「悪い人ではなさそうだな」と思えてきて。
だから、もう少しだけ、彼を知りたいと考えるようになっていった。
でもそうよね。
関係とか信頼っていうのは長さだけではないんだもの。
それに、何事も挑戦!
何が未来へ繋がるかなんて分からない。
「昔の件に関してです! 話せばもしかしたら思い出してもらえるかも、と」
「ああ、そういうことですか」
「駄目でしょうか……?」
「いえ。話くらいなら大丈夫です。あ、でも、うちで話す形で大丈夫でした?」
「ええ! それはもちろん!」
「じゃあ、そうしましょう」
これがパルフィとの始まりだった。
その後彼から聞いた話によれば。
幼きある日彼は一人で木に登って遊んでいて枝から落ちそうになって困っていたそうで、その時私が下から声をかけ、さらに助けたそうなのだ。
確かにそんなこともあったような……。
でも、あの時助けたのは、小さい男の子だった気がするのだけれど。
「本当に、あの時の方なのですか?」
「はい!」
「けど近所にお住みではないですよね」
「ああ、はい! そうです! ……実は、僕、隣国の王家の人間なので」
その言葉に吹き飛びかける。
「えええ!!」
信じられなかった。
まさかの告白。
「う、嘘……じゃ、ないんですよね……?」
「はい」
パルフィの目に偽りの影はない。
彼の瞳は澄んでいる。
そしてそこから放たれる視線はどこまでも真っ直ぐ。
嘘をついている人には見えないなぁ、というのが思うところだ。
「でも……ごめんなさい、とても信じられなくて……」
「あの時は父についてこの国へ来ていたのです。でも隙間時間に一人になってしまって、退屈だったので少し木登りをしていたら、あのようなことに」
「そ、そうだったのですか……」
「慣れないことをするのは駄目ですね、やはり」
「それは大変でしたね……」
沈黙が訪れてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす
青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。
幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。
スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。
ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族
物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。
しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。
ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。
セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる