少しも愛してくれず散々女遊びしておいて私を悪女扱いするような彼との縁は切れて良かったです。

四季

文字の大きさ
6 / 10

6話「申し訳なさでいっぱいです」

しおりを挟む

「……すみません、急に声を荒くして」

 申し訳なさでいっぱいだ。
 彼はいつも思いやりを持って接してくれているのに、私はこんなで。

「あ、いえ、大丈夫ですよ」
「ごめんなさい」
「それで、本題は、様つけに関してでしたよね? 変といいますか嫌といいますか……そんな感じですかね?」
「はい……」

 言ってから、嫌とかではないのですけど違和感が少し、と付け加えておく。

 私は彼の気持ちをごみ箱に捨てるようなことはしたくない。
 だからこそ言い方には色々悩む。
 でも、言いたいことを言えないような関係になるのも嫌で、それはそれで彼に対しても失礼だと思うから――だから気持ちはきちんと伝えたい。

「言ってくださってありがとうございます。では、アリシーナさんとかにしますか?」
「あ、はい」

 少し考えるような顔をしてから、彼は続ける。

「それ以外でしたら、アリリンとか?」
「ええ……」

 まさかのワードが飛び出した。

 音は可愛いと思うが……私には似合わないような、そんな気がする。

「あ……駄目ですよね、ふざけているみたいで」
「普通にさんづけくらいで大丈夫です」
「分かりました! じゃ、アリシーナさんですね!」

 ぱあっと晴れやかな笑みを浮かべるパルフィは怒っていないみたいだった。

「すみません細かいことを」
「いえいえ! 気になさらないでください。それに、何でも言ってほしいです!」
「あ……でも、迷惑では」
「僕はちょっと馬鹿ですので、察せないこともあるかもしれないので、言いたいことがあれば言ってもらえる方がありがたいです!」
「ありがとう、ありがとうございます……本当に」

 言いたいこと、伝えたいこと。そういったものを伝えさせてもらえて聞いてもらえる。それがどれだけ嬉しいことか、ありがたいことか、今はよく分かる。それはとても小さなことで平凡なこと、けれどもとても大切なこと。互いの想いや心を聞くというのは、人と人が関わるうえで欠かせないことだ。

「――そろそろお開きとしましょうか」

 気づけば夕方が来ていた。

「今日はとても楽しかったです。アリシーナさん、よければまた会いに来てください」
「はい!」
「また何か、美味しいお茶を用意しておきますね」
「本日は、本当に、ありがとうございました。パルフィさんと色々喋ることができて楽しかったです」

 別れしな、私たちは握手を交わす。

 見つめ合う瞳に恋愛感情があるか否かは定かでない。
 けれども視線を重ねるだけでほっとできる、いつの間にかそんな二人になっていた。

 夕焼けも私たちをそっと祝福してくれているかのよう。

「じゃあ! さようなら!」
「また来ます!」

 挨拶を交わして別れる――。

 そしてその帰り道、私は事故に遭ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす

青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。 幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。 スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。 ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族 物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

処理中です...