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7話「意外な展開が待っていました」
しおりを挟む「アリシーナ、アリシーナ、気がついた!?」
意識を失っていた。
その間はずっと暗闇にいて。
ぼんやりしていた。
で、次に気づいた時、私はベッドの上にいた。
「私は……」
「パルフィくんのところからの帰り、馬車に乗っていて事故に遭ったのよ!」
脇にある椅子に座っている母は泣いていた。
泣かないで……。
「そうだったの……でもどうしてかな、事故のことはあまり覚えていない……」
「きっとショックで脳が勝手に消したのよ」
「そっか、確かに、そうかも。……でも良かった、彼のことは覚えてて」
「けどアリシーナ、貴女、額に傷が」
「え」
言われて、目を大きく開いてベッド横の姿見に目をやる。
すると額には確かに傷があった。
「そんな」
「酷い、酷いわ、こんな運命って……」
いや、今は、命が助かっただけでも喜ぶべきなのだ。
でもどうしても見た目の方に意識がいってしまう。
「泣かないで母さん、私は助かっただけで十分よ」
「でも、パルフィくんとの関係は……」
「いいの。たとえこれのせいで嫌われてもそれでも。もし彼との関係が駄目になったならその時は母さんたちと一緒に暮らす、それだけ」
「けど……」
「私は母さんに泣いてほしくない。それが一番だから」
前髪をある程度伸ばして下ろせば隠せそうな傷だが、それでもまずいだろうか? 嫌われてしまう、幻滅されてしまうだろうか?
少し怖いな、パルフィと会うのは。
――そう思っていたら。
「アリシーナさん!!」
急に病室へ飛び込んできた。
「あ……」
「良かった! 目覚められていたのですね!」
彼は急に抱きついてくる。
頭痛がした。
「良かったあああああ!!」
辺りに響き渡るパルフィの大声。
「お、落ち着いてください……」
「ごめんなさい無理です!!」
「即答?」
「生きてて良かったああああ!! 良かったよおおおお!! 死んだかと思ったよおおおおお!! 涙が止まらなくてええええええ!!」
パルフィの情緒はとんでもないことになっていた。
彼は止まらない。
声も、涙も。
そんな彼が一旦落ち着くまで、十分以上かかった。
「――それで、額に傷が?」
「はい」
その部分を見せれば、彼は一瞬驚いたような目をしたけれど。
「……災難でしたね」
控えめに言うだけだった。
「ごめんなさい、僕のせいです」
「え? なぜ」
「だって、だって、あの日僕が誘ってなかったら……アリシーナさんは傷を負うことはなかったというのに……」
どうやら彼は罪悪感を抱いているようだ。
「気にしないでください、たまたまです」
「けど!」
「本当に、貴方のせいじゃないですから」
「っ……」
こぼれた涙一滴を指ですくってから、彼は改めてこちらへ目をやって来た。
「アリシーナさん! 僕、決めました!」
彼の瞳には決意の色が滲んでいる。
「今ここで思いを伝えます」
「え」
「良いですか?」
「……思い、ですか?」
「はい、駄目でしょうか」
「いえ……」
「では言います!」
彼は一度大きく息を吸って――。
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