食の好みを理由に婚約破棄されるなんて……残念です。でも貴方の心は変えられないでしょうから、ここまでとしましょう。

前編

　あたしは餅が好き！

　だって美味しいんだもの。
　もちもちしていて噛むだけでも心地よいし、それに、ほどよい弾力が顎を刺激してくれるし。
　それだけでたまらない
　何でも東の国からやって来た食べ物らしいけど、そんなことどうでもいいっていうくらいあたしは餅を愛しているの。

　でも、理解してくれない人もいるもので。

「やたらと餅を食べる女なんぞと共に生きてゆく気はない」
「美味しいですよ？　お餅」

　婚約者ボーデルハイドがそうだった。

　彼は餅を嫌っていた。
　それも味覚的な理由でではなく宗教的な理由で。

「ふざけたことを言うな！　異教徒の国から入ってきた物なのだぞ？　餅は。食べれば食べるほど身体に穢れが溜まるのだ」
「穢れ、って……そんなのないですよ、宗教的にそう思っていらっしゃのかもしれないですけど、気のせいです」

　食べてみればいいのに。
　きっと美味しさに目覚めるだろうに。

　異教徒の国から入ってきたから目の仇にするとか、穢れとか、くだらないことばかり言って馬鹿みたい。

「よって、お前との婚約は破棄とする!!」

　好きな食べ物くらい自由じゃないの？

　あたしはそう思うのだけど。
　彼はそうは思えないみたいで。