平凡女子高生、美少女に転生する。〜夜会で出会った彼は、蜘蛛好き〜

四季

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2話「夜会へ」

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 下ろしていれば腰付近に達するほどの長さの髪は、アナが丁寧に結ってくれた。前髪はセンター分けにし、軽く巻いたサイドだけを残して、後の髪はすべて後頭部へ。長い髪のほとんど全部を後頭部へ集めているため、こんもりし過ぎた感じになるかもと少し心配していたのだが、案外そんなことはなかった。量の多い髪は、ほんの少し巻くことで、柔らかく軽そうな雰囲気をまとっている。また、手のひら二つ分くらいのサイズはある大きいリボンをつけているため、髪の多さが悪目立ちしてしまうことはない。

 そして服装は、夜会へ行くというだけあって、ドレスだ。首や肩回りが露出するオフショルダーのドレスで、個人的には、私にはセクシー過ぎるのではないかと思ってしまう。だが、そんな思いも、姿見に映った自分を目にした瞬間、どこかへ飛んでいってしまった。

 そう、似合っていたのだ。

 現代日本で暮らしていた時代の私には似合わなかっただろう。
 でも今は違う。
 リリエラの容姿でなら、セクシー系ドレスさえ着こなしてしまえる。

 かつての私と現在の私では容姿が大きく違っているということは、嫌になるくらい理解していた。だが、本当に理解しきることはできていなかったのかもしれないと、今さら思った。

 さらに、首飾りまでつける。が、これまたかなり似合っている。頭のリボンと同じ桜色のリボンがモチーフの、とても少女らしい首飾りは、リリエラの容姿にぴったり。

 あぁ、なんてこと。
 身体が違うだけで、こんなにも変わるものなのか。

 私は姿見の前で思わずそんなことを言いそうになった。

 ……アナに「おかしい」と思われたくないのでグッと飲み込んだが。


 華麗な衣装に身を包んだ私は、前もって用意されていた馬車に乗り込み、夜会が開かれる会場へと向かう。

 その時の私の心は、いつになく明るかった。

 元の私とて不細工だったわけではない。けれど、美人でもなかったから、恋愛なんてしたことがなかった。周りの女子は彼氏だの何だのと話すのが好きだったけれど、そんな華やかな世界、私にはちっとも縁がなくて。

 でも。本当は少し、憧れてもいた。
 いつか素敵な人と出会って幸せになれたら、なんて考えることもあった。

 ただ、夢をみそうになるたび、「叶わない夢をみてはならない」と自制してしまって。それもあって、余計に、華やかな世界からは遠ざかってしまっていっていた。

 けれど今の私には、この美貌がある。
 もしかしたら、夢に手が届くかもしれない。
 そういったことに慣れていないから不安しかないが、それでも——今なら夢をみても許されるのではないだろうかと思って、どことなく幸せ。


 会場に着き、馬車を降りる。

 そこは夢の国のようだった。窓の数から察するに二階建てなのだろうが、ショッピングモールのような大きさの建物が、私を迎えてくれる。無数の窓から漏れる輝きは、まるで天の川。

 高いヒールの靴は慣れなくて、歩きにくい。一瞬でも気を抜けば転んでしまいそうで、一歩一歩、慎重に歩かねばならない。しかも、地面につくほどとはいかないものの、ドレスの裾は足首より下。そのため、裾を踏まないよう常に注意していなくてはならない。

 それでも、意外と苦痛はない。
 誰もが羨む美貌を持ち、華やかな衣装をまとって行けるのだから。


 建物に近づくにつれ、他の人たちの姿も視界に入るようになってきた。

 少し年下かな、というような女の子から、二十代半ばかな、と思うような大人な雰囲気の女性まで。様々な年代——は言い過ぎかもしれないが、会場へ来ているのは同年代の少女ばかりではなかった。

 すべての人に共通しているのは、着飾っていることだけだ。

 また、それは男性にも言える。
 会場近くには、女性だけでなく、男性の姿もちらほら見られた。彼らもまた、品のある紳士的な衣服に身を包み、穏やかに談笑している。

 数人で楽しげに話している人を見かけると、心なしか羨ましく思ってしまう部分もある。
 けれど私は、極力気にしないようにして、そそくさと会場へ向かった。

 初めての参加だから知り合いがいなくても仕方がない、と、自分に言い聞かせながら。


 ドレスの裾を踏まないように気をつけながら、段差のある入り口を通過しようとした——その時。

「きゃっ」

 向かいからやって来た女性数名のうちの一人にぶつかられ、バランスをくずしてしまう。履き慣れないハイヒールのせいもあり、私はその場で転んでしまった。

 ぶつかってきたのは向こう。
 だが、上手く避けられなかったこちらも悪い。

 そう思い、謝ろうと顔を上げ——当たった女性が私へ向けていた冷たい視線に言葉を失う。

 そのうちに、彼女たちは離れていってしまう。

「嫌ですわねぇ、いきなりぶつかってくるなんて」
「本当に。レディにぶつかるなど、あり得ませんわ」
「そういえば今の子、カルセドニーの娘よね。あの娘が出てくるなんて、ある意味レアだわね」

 彼女たちはあっという間に離れていってしまった。結局謝れずじまいだ。
 でも、それで良かったのかもしれない。
 あんな大きな声で嫌みを言う人たちに謝罪するなんて、悔しさしかないから。
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