平凡女子高生、美少女に転生する。〜夜会で出会った彼は、蜘蛛好き〜

四季

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7話「彼に会いに行く」

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 ヘリオドール家からの使いは、朝食中にやって来た。だがその時、私はまだ何の身支度もしていなかった。しかも、使いの話によれば、ヘリオドール家の屋敷までは結構な距離があるため泊まり掛けの方が良いとのこと。

 ただ、泊まるとなると、さらに準備が必要だ。
 一泊だけだとしても、それは変わらない。

 しかし、断って帰ってもらうというわけにもいかず。結局、大急ぎで泊まりの準備をすることになった。


 昼前に家を出発したが、ヘリオドール家の屋敷へ到着したのは、夕方に差し掛かった頃だった。

 ヘリオドールの屋敷は、確かに立派だ。

 現代の知識で言い表すなら、教会と屋敷を混ぜたようなデザイン。二階建てのようだが、横幅がかなりの距離で、いかにも広そうだ。また、玄関の上には金の像が設置されている。さらに、像の上側には、時計までついている。もっとも、今私は地面から見上げているため、かなりの距離があり、時計がきちんと動いているのかは分からないのだけれど。

「では、こちらへ」
「あ……はい。ありがとうございます」

 使いの案内に従い、私は歩いた。


 屋敷に入ると、ボクが私を迎えてくれた。

「お嬢さん! 来て下さってありがとう!」

 あの手紙はパトリーからのものだった。にもかかわらず、迎えてくれたのはボク。パトリーではないのか、と、少しばかり残念に思ってしまった。

 だが、考えてみれば、これは当然の流れかもしれない。
 面倒臭いことを好まないパトリーが、自ら私を出迎えてくれるわけがないではないか。

「ボクさん。迎えて下さって、ありがとうございます」

 いざ入ってみたら誰もいない、なんてことにならなかっただけ幸運だ。そう思い、私は頭を下げる。

「いやいや、気にしないで」

 ボクは穏やかに笑う。

 あぁ、なんて善良な人なのだろう。
 漠然とそんなことを思った。

「それにしてもお嬢さん。今日もやはり美しいね」
「え……」
「小花柄のワンピース、よく似合っているよ」

 身支度の時間がそれほどなかったため、今日はあまりおめかしできていない。なのにボクは、ワンピースを褒めてくれた。

 それは、とても嬉しいこと。

 ただ。
 本当はもっと……綺麗にして、ここへ来たかった。

「ありがとうございます」
「では、息子のところへ案内しよう」

 早速パトリーと顔を合わせることになるということか。
 そう考えた瞬間、私は、胸の鼓動が徐々に加速し始めるのを感じた。

 こんなこと、今まではあまりなかった。

 おかしい。妙な感覚だ。
 まるで、自分が少女漫画の主人公になってしまったかのようである。


 その後、ボクに連れられて屋敷の端の一室へ向かったのだが、彼が確認してくれたところ、パトリーはいなかった。

 ボクの話によれば、その部屋が、パトリーが暮らしている部屋らしい。つまり、そこは、パトリーの自室だったのだ。

 自室におらず、外出しているというわけでもないのなら、パトリーはどこに?

 私はそんな疑問に脳内を満たされながらも、再び歩き出すボクの後ろについて、足を動かした。

 荷物は既に、この屋敷で働いている人に預かってもらっている。きっと今頃、客室へ運ばれていることだろう。
 そのため、私の手には何もない。
 だから、歩き続けることもさほど苦にはならない。重い荷物を持ちながら、ではないからだ。

 廊下には、甘くも爽やかな香りが漂っている。

 今も、現代日本にいた頃も、私の家では、廊下で良い香りを嗅ぐことができるなんてことはなかった。それだけに、柔らかな芳香に鼻をくすぐられると、「特別なところにいる」という気分が高まる。

 胸が踊る。足取りが軽くなる。
 知らぬ土地に来た不安がないわけではない。ただ、今は、その不安よりも、ワクワクする気持ちの方が大きい。


 歩くこと、一二分。
 また扉の前へたどり着く。

「ここで少し待っていてもらえるかな? お嬢さん」
「はい」

 私が頷くと、ボクはその扉のノブに手を掛ける。そして、扉をゆっくり開け、ささっと室内へ入っていった。

 扉の前、一人残される。

 今度こそパトリーに会えると良いのだが。
 漂う甘く優しい香りに心癒やされながら、ボクが戻ってくるのを待つ。

 ——そして。

 数分が経過した時、扉の向こうから現れたのはパトリーだった。
 夜会の時とは違い、ブラウスとズボンだけというラフな格好。だが、それでも凛々しさは健在だ。キリリとした眉と硬い表情が、凛々しさを高めているのだろう。

「探させてしまったようで、すまない」

 彼は、相変わらずの淡々とした調子で、そう言ってきた。

「あ、いえ……」
「どうした。なぜ、弱気な娘を装っている」

 そうだった。
 彼の前では、控えめにしていなくてはならないということはないのだった。

 何せ私は、あの夜会の時、いきなり「上から目線は止めてほしい」などと進言した女。今さら大人しく振る舞ったところで、その時のイメージは覆らない。
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