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12話「厄介な訪問者」
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パトリーの屋敷から帰り、数日が経った、ある晴れた日。
一人の女性が訪ねてきた。
円柱をいくつもくっつけたような、豪快な巻き髪。つり目。まだ二十代前半だろうに、妙に濃い化粧。
見覚えのある姿だ。
忘れもしない、あの夜会の時に絡んできた女たちの一人である。
良い思い出はない。
だが、わざわざ訪問してこられては断ることができないようで。やむを得ず顔を合わせることになってしまった。
訪問者と話すために用意されている狭い一室で、私は彼女と顔を合わせる。
「いきなり失礼しましたわね」
「いえ」
少し年上の彼女は、夜会でもないというのに胸の谷間が見えるような刺激的なビジュアルの衣装をまとっていた。
美しくないことはない。
ただ、どうしても派手過ぎる感じはしてしまう。
もちろん、夜会の時に華やかなドレスをまとっているというのなら、おかしいとは思わない。そこは男女の交流の場なのだから。むしろ、みすぼらしい格好で夜会に参加する方が不自然と言えるだろう。
しかし、私の家へ訪ねる時にわざわざ露出のある衣装を着てくる必要は、欠片もないのではないだろうか。
私が男性なのならともかく。
「あたくしはローズマリー。仲良くする気はありませんけれど、一応、よろしくと言っておきますわ」
つり目の彼女——ローズマリーは、上から目線な言い方で名乗った。
だから私は、「リリエラです。よろしくお願いします」と返しておいた。彼女には前も名乗ったが、念のため、もう一度名乗っておいたのである。
「では早速、本題に入らせていただきますわ。リリエラ、貴女、パトリー様の屋敷へ泊まりに行ったそうですわね?」
なぜその情報がローズマリーに届いているのか。
「は、はい」
「まったく。押しかけるなんて、良くありませんわよ」
「押しかけてはいません」
私ははっきりと述べた。
勘違いされては困るから。
「は? 何ですって!?」
「私は、押しかけたのではありません。あちらからお誘いの手紙をいただいたので、遊びに行っただけです」
怒られそうな気がして不安しかない。けれども、真実を伝えなければ余計に悪く取られるかもしれないから、勇気を出して本当のことを伝えた。
だが、すんなり信じてもらえるはずもなく。
「嘘を言うのはお止めなさい!」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、鋭く放つローズマリー。
私が自ら押しかけたのだとすっかり信じ込んでいるローズマリーは、何を言っても、思い込みを変えようとはしない。もしかしたら、私が自ら押しかけていったのであってほしいのかもしれない。
こんなことを思うのは良くないかもしれないが、正直、ローズマリーは面倒臭い。あまり関わりたくないタイプの女性だ。
「そのような嘘をつくなど、潔くありませんわよ!」
眉尻をつり上げ、私を指差し、ローズマリーは言い放つ。
「え、いや……本当なんですけど……」
「嘘つき! パトリー様が貴女のような女に興味を持たれるはずはなくってよ!」
何だろう、この悪口を言われる会は。
こんなくだらないことをするためだけに来たのなら、とっとと帰ってほしい。
だが「帰れ」なんて言えるわけがない。そんなことを言ったら、また勝手なことを思い込まれそうだからだ。これ以上おかしなイメージを持たれては、困ってしまう。
「はい。興味を持たれてはいないと思います」
「とーうぜんですわ! 当然のことを言うんじゃありませんわよ!」
えぇ……。
なら何を言えと。
「と! に! か! く!」
唇を尖らせ、嫌みな表情を浮かべるローズマリー。
その様子は非常に醜く、まるで、人間の醜さを掻き集めて作った作品であるかのよう。整った容姿がここまで醜くなるのか、と驚かされたほどである。
「もう二度と押しかけちゃ駄目ですわよ!」
「いや、だから、押しかけていませんって」
「ほら! そうやってまた嘘を!」
「嘘ではありません……!」
何とか理解してもらおうとするも、私の言葉はまったく聞き入れてもらえない。彼女は耳が悪いのか、と思ってしまうほどに、聞いてもらえなかった。
「馬鹿なことを! そのような話、嘘に決まっているではありませんの!」
説明しようとしても、これ。
もはや救いようがない。
ローズマリーには私の発言を聞く気など欠片もないのだろう。きっと、だからこんなにも嘘つき扱いをしてくるのだろう。
だが、追い出すことができない以上、どうすれば——悩みに悩み。
やがて一つの案を思いつく。
「では、ローズマリーさん!」
「……何ですの?」
怪訝な顔をするローズマリー。
「パトリーさんに直接聞いてみられてはいかがでしょうか」
「それは……どういう意味ですの?」
「私の言葉が信じられないのなら、信じられる人に聞いてみれば良いのではないでしょうか。ローズマリーさんも、パトリーさんの言葉なら信じられますよね」
この提案が上手くいき、結果、二時間にならないくらいで別れることができた。
面倒臭いローズマリーから解放された私は、その後、アナが淹れてくれたハーブティーを飲んで心を癒やした。
一人の女性が訪ねてきた。
円柱をいくつもくっつけたような、豪快な巻き髪。つり目。まだ二十代前半だろうに、妙に濃い化粧。
見覚えのある姿だ。
忘れもしない、あの夜会の時に絡んできた女たちの一人である。
良い思い出はない。
だが、わざわざ訪問してこられては断ることができないようで。やむを得ず顔を合わせることになってしまった。
訪問者と話すために用意されている狭い一室で、私は彼女と顔を合わせる。
「いきなり失礼しましたわね」
「いえ」
少し年上の彼女は、夜会でもないというのに胸の谷間が見えるような刺激的なビジュアルの衣装をまとっていた。
美しくないことはない。
ただ、どうしても派手過ぎる感じはしてしまう。
もちろん、夜会の時に華やかなドレスをまとっているというのなら、おかしいとは思わない。そこは男女の交流の場なのだから。むしろ、みすぼらしい格好で夜会に参加する方が不自然と言えるだろう。
しかし、私の家へ訪ねる時にわざわざ露出のある衣装を着てくる必要は、欠片もないのではないだろうか。
私が男性なのならともかく。
「あたくしはローズマリー。仲良くする気はありませんけれど、一応、よろしくと言っておきますわ」
つり目の彼女——ローズマリーは、上から目線な言い方で名乗った。
だから私は、「リリエラです。よろしくお願いします」と返しておいた。彼女には前も名乗ったが、念のため、もう一度名乗っておいたのである。
「では早速、本題に入らせていただきますわ。リリエラ、貴女、パトリー様の屋敷へ泊まりに行ったそうですわね?」
なぜその情報がローズマリーに届いているのか。
「は、はい」
「まったく。押しかけるなんて、良くありませんわよ」
「押しかけてはいません」
私ははっきりと述べた。
勘違いされては困るから。
「は? 何ですって!?」
「私は、押しかけたのではありません。あちらからお誘いの手紙をいただいたので、遊びに行っただけです」
怒られそうな気がして不安しかない。けれども、真実を伝えなければ余計に悪く取られるかもしれないから、勇気を出して本当のことを伝えた。
だが、すんなり信じてもらえるはずもなく。
「嘘を言うのはお止めなさい!」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、鋭く放つローズマリー。
私が自ら押しかけたのだとすっかり信じ込んでいるローズマリーは、何を言っても、思い込みを変えようとはしない。もしかしたら、私が自ら押しかけていったのであってほしいのかもしれない。
こんなことを思うのは良くないかもしれないが、正直、ローズマリーは面倒臭い。あまり関わりたくないタイプの女性だ。
「そのような嘘をつくなど、潔くありませんわよ!」
眉尻をつり上げ、私を指差し、ローズマリーは言い放つ。
「え、いや……本当なんですけど……」
「嘘つき! パトリー様が貴女のような女に興味を持たれるはずはなくってよ!」
何だろう、この悪口を言われる会は。
こんなくだらないことをするためだけに来たのなら、とっとと帰ってほしい。
だが「帰れ」なんて言えるわけがない。そんなことを言ったら、また勝手なことを思い込まれそうだからだ。これ以上おかしなイメージを持たれては、困ってしまう。
「はい。興味を持たれてはいないと思います」
「とーうぜんですわ! 当然のことを言うんじゃありませんわよ!」
えぇ……。
なら何を言えと。
「と! に! か! く!」
唇を尖らせ、嫌みな表情を浮かべるローズマリー。
その様子は非常に醜く、まるで、人間の醜さを掻き集めて作った作品であるかのよう。整った容姿がここまで醜くなるのか、と驚かされたほどである。
「もう二度と押しかけちゃ駄目ですわよ!」
「いや、だから、押しかけていませんって」
「ほら! そうやってまた嘘を!」
「嘘ではありません……!」
何とか理解してもらおうとするも、私の言葉はまったく聞き入れてもらえない。彼女は耳が悪いのか、と思ってしまうほどに、聞いてもらえなかった。
「馬鹿なことを! そのような話、嘘に決まっているではありませんの!」
説明しようとしても、これ。
もはや救いようがない。
ローズマリーには私の発言を聞く気など欠片もないのだろう。きっと、だからこんなにも嘘つき扱いをしてくるのだろう。
だが、追い出すことができない以上、どうすれば——悩みに悩み。
やがて一つの案を思いつく。
「では、ローズマリーさん!」
「……何ですの?」
怪訝な顔をするローズマリー。
「パトリーさんに直接聞いてみられてはいかがでしょうか」
「それは……どういう意味ですの?」
「私の言葉が信じられないのなら、信じられる人に聞いてみれば良いのではないでしょうか。ローズマリーさんも、パトリーさんの言葉なら信じられますよね」
この提案が上手くいき、結果、二時間にならないくらいで別れることができた。
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