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13話「寛容な」
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ローズマリーが押しかけてきた日から、十日ほどが経っただろうか。私は風の噂で、ローズマリーがすっかり落ち込んでしまっているらしいという話を聞いた。落ち込んだ理由は、パトリーから受け取った手紙の内容にショックを受けたからだとか。多分、パトリーが本当のことを告げたから、ローズマリーはショックを受けたのだろう。
パトリーに聞いてみたら、なんて、言うべきではなかったかもしれない。噂を聞いて、私は少しそう思った。ローズマリーに可哀想なことをしてしまったかもしれない、と思う心がなかったわけではない。
けれど、あの時は仕方がなかった。
私がいくら説明したところで、彼女は私の言葉を信じてはくれなかっただろう。私が聞いてもらおうと努力したところで、「嘘だ」と言われ続けたに違いない。
だから、あの時はああ言うしかなかったのだ。
その数日後。
ある朝。
起き抜けに、アナがやって来た。
「リリエラ様! 少しよろしいでしょうか!」
「……ん、何でしょう」
寝惚け眼を擦りつつ尋ねる。
「ローズマリー様のお兄様がいらっしゃってます!」
アナは目をぱちぱちさせながら私の問いに答えた。
その可愛らしい顔には、動揺が滲み出ている。焦りやら不安やらを一ヶ所でぐるぐる混ぜたような顔色。
……それにしても。
ローズマリーの兄が訪ねてくるなんて、嫌な予感しかしない。彼女が落ち込んでいるという噂を聞いたばかりだから、なおさら。もはや不安しかない。
「ローズマリーさんのお兄さんが……私に一体何を?」
「す、すみませんっ。存じ上げておりません。ただ、リリエラ様に会いたいと仰っているようで」
もしや、ローズマリーが私を悪く言ったのか? リリエラに傷つけられた、というようなことを兄に話し、それで兄が話しにきたとか?
疑うのは良くない。
ただ、ローズマリーならやりそうだ。
彼女は気に食わない相手には徹底的に嫌がらせをするタイプ。そして、実際、彼女は私を好んでいない。
つまり、今の私は、一番ターゲットにされそうな女なのだ。
「……分かりました。着替えるので、少し待って下さい」
「はい! では、少し待っていただくよう伝えて参りますね!」
アナは入ってきた時と同じくらいの凄まじい勢いで部屋から出ていった。
一人になるや否や、私は大きな溜め息をついてしまう。
溜め息はつかない方がいい。そう思ってはいるのだけれど、今のこの状況では、溜め息を漏らさずにはいられなかった。
今日もなかなか厄介な日になりそうだ。
まったく、いつになれば平和な暮らしを手に入れられるのやら。
顔を洗い、髪を整え、服を着替えて。大急ぎで準備を済ませ、指定の部屋へ向かうと、齢三十くらいの青年がソファに座って待っていた。
やや赤みを帯びた茶色い髪は男性にしては長く、肩甲骨を数センチ越した辺りまで伸びている。また、髪型は非常に独創的。前髪は完全にアップ、頭部の左右の髪はそれぞれ一本ずつ縦ロール。そして、後ろ髪はうなじ付近で一つにまとめている。
目は、ローズマリーと同じく、つり目。しかし彼は、ローズマリーほど整った目鼻立ちではない。両目の距離が近く、鼻は作り物のように尖っていて、まるで魔女のよう。
そんな彼は、入室した私に気づくや否や、ソファから立ち上がる。
「やぁ、僕の名はラペンター! リリエラさん、君は僕の妹をいじめたそうだね。寛容な僕も、それはさすがに見逃せないよ!」
口角を下げつつ、いきなりそんなことを言ってきた。
初対面ゆえ、自己紹介をしてくれるというのはありがたいことだ。だが、いきなり「いじめたそうだね」などという言葉を投げてくるというのは、少々失礼ではないだろうか。できるなら、もう少し考えて発言していただきたい。
「申し訳ありませんが、ラペンターさん。それは誤解です」
「なぬぅ?」
唇をタコのように突き出し、眉間に大量のしわを寄せ、ラペンターは訝しむような顔をする。
「ちっちっちっ。僕はローズマリーから直接相談された。よって、君の言葉より、ローズマリーの証言に味方する!」
はぁぁぁ!?
思わず叫びたくなるのを、私は堪えた。
パトリーに聞いてみたら、なんて、言うべきではなかったかもしれない。噂を聞いて、私は少しそう思った。ローズマリーに可哀想なことをしてしまったかもしれない、と思う心がなかったわけではない。
けれど、あの時は仕方がなかった。
私がいくら説明したところで、彼女は私の言葉を信じてはくれなかっただろう。私が聞いてもらおうと努力したところで、「嘘だ」と言われ続けたに違いない。
だから、あの時はああ言うしかなかったのだ。
その数日後。
ある朝。
起き抜けに、アナがやって来た。
「リリエラ様! 少しよろしいでしょうか!」
「……ん、何でしょう」
寝惚け眼を擦りつつ尋ねる。
「ローズマリー様のお兄様がいらっしゃってます!」
アナは目をぱちぱちさせながら私の問いに答えた。
その可愛らしい顔には、動揺が滲み出ている。焦りやら不安やらを一ヶ所でぐるぐる混ぜたような顔色。
……それにしても。
ローズマリーの兄が訪ねてくるなんて、嫌な予感しかしない。彼女が落ち込んでいるという噂を聞いたばかりだから、なおさら。もはや不安しかない。
「ローズマリーさんのお兄さんが……私に一体何を?」
「す、すみませんっ。存じ上げておりません。ただ、リリエラ様に会いたいと仰っているようで」
もしや、ローズマリーが私を悪く言ったのか? リリエラに傷つけられた、というようなことを兄に話し、それで兄が話しにきたとか?
疑うのは良くない。
ただ、ローズマリーならやりそうだ。
彼女は気に食わない相手には徹底的に嫌がらせをするタイプ。そして、実際、彼女は私を好んでいない。
つまり、今の私は、一番ターゲットにされそうな女なのだ。
「……分かりました。着替えるので、少し待って下さい」
「はい! では、少し待っていただくよう伝えて参りますね!」
アナは入ってきた時と同じくらいの凄まじい勢いで部屋から出ていった。
一人になるや否や、私は大きな溜め息をついてしまう。
溜め息はつかない方がいい。そう思ってはいるのだけれど、今のこの状況では、溜め息を漏らさずにはいられなかった。
今日もなかなか厄介な日になりそうだ。
まったく、いつになれば平和な暮らしを手に入れられるのやら。
顔を洗い、髪を整え、服を着替えて。大急ぎで準備を済ませ、指定の部屋へ向かうと、齢三十くらいの青年がソファに座って待っていた。
やや赤みを帯びた茶色い髪は男性にしては長く、肩甲骨を数センチ越した辺りまで伸びている。また、髪型は非常に独創的。前髪は完全にアップ、頭部の左右の髪はそれぞれ一本ずつ縦ロール。そして、後ろ髪はうなじ付近で一つにまとめている。
目は、ローズマリーと同じく、つり目。しかし彼は、ローズマリーほど整った目鼻立ちではない。両目の距離が近く、鼻は作り物のように尖っていて、まるで魔女のよう。
そんな彼は、入室した私に気づくや否や、ソファから立ち上がる。
「やぁ、僕の名はラペンター! リリエラさん、君は僕の妹をいじめたそうだね。寛容な僕も、それはさすがに見逃せないよ!」
口角を下げつつ、いきなりそんなことを言ってきた。
初対面ゆえ、自己紹介をしてくれるというのはありがたいことだ。だが、いきなり「いじめたそうだね」などという言葉を投げてくるというのは、少々失礼ではないだろうか。できるなら、もう少し考えて発言していただきたい。
「申し訳ありませんが、ラペンターさん。それは誤解です」
「なぬぅ?」
唇をタコのように突き出し、眉間に大量のしわを寄せ、ラペンターは訝しむような顔をする。
「ちっちっちっ。僕はローズマリーから直接相談された。よって、君の言葉より、ローズマリーの証言に味方する!」
はぁぁぁ!?
思わず叫びたくなるのを、私は堪えた。
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