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15話「苦労の後のひと休みには」
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結局、三時間ほどラペンターの話に付き合わされてしまった。
ラペンターが呈示するローズマリーの証言。それはどれも、誇張や偽りに満ちたもので。彼女がいかに私を嫌っているかがよく分かる内容だった。
そのような真実でない発言をすっかり信じ込んでしまっているラペンターを見ていたら、少し、哀れな気持ちになった。嘘を言ったのはローズマリーであっても、それを根拠に騒ぐことで最終的に恥をかくのはラペンターなのだから。
三時間は長かった。
だが、私はきちんとやってのけた。
嘘は嘘と。誇張は誇張と。
はっきり言ってやった。
その結果、ラペンターは逃げるように帰っていった。
「お疲れ様でした、リリエラ様」
ラペンターが逃げ帰った後、アナがすぐに迎えに来てくれたので、私はそのまま自室へ戻る。とにかく休みたい。それが私の気持ちだったから。
自室へ戻ると、私はベッドに寝転がる。
誰も寝ていなかったため冷たくなったベッドは、とても心地よい。ひんやり感と柔らかさが快適さを演出してくれる。
ベッドの上でごろごろしていると、部屋の隅で待機していたアナが近寄ってきた。
「リリエラ様。何かご用意致しましょうか?」
両手両足を大きく開きながら仰向けに寝転がっている私の顔を覗き込みながら、アナが尋ねてくる。
「何か、ですか?」
寝転がったまま話すのはさすがにまずいな、と思い、上半身を起こす。
「はい。お飲み物など、いかがでしょうか」
「飲み物……」
ラペンターと話したことによる疲れで、頭が上手く回らない。せっかくアナが提案してくれているのだから素早く何か返したいところなのだが、速やかに返せそうにはなくて。
「ええと……ではっ。冷たい物がよろしいでしょうか? 温かい物がよろしいでしょうか?」
「冷たい物だと嬉しいです」
「では! オクトパスソーダはいかがでしょうかっ?」
……オクトパスソーダ?
私は耳を疑った。
アナの口から出た単語が、聞き慣れない単語だったから。
「え、あの、オクトパスソーダとは……」
「グリーンオクトパスという植物の汁を使ったソーダです!」
つまり、オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名称だったということか。それなら少しは納得だ。というのも、私の中ではオクトパスといえばタコのイメージがあったため、タコを使ったソーダなのかと思ってしまい、何がどうなっているのか理解できなかったのである。が、この世界にグリーンオクトパスという植物があり、オクトパスソーダはそれを使った飲み物というのなら、多少は理解できる。
「オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名前だったのですね……」
「はい! タコに似た形の植物ですよっ!」
アナはにっこり笑う。
堂々と咲く向日葵のような、晴れやかかつ穢れのない笑みだ。
「それでお願いします」
「承知致しましたっ。ではリリエラ様、しばらくお待ち下さい!」
オクトパスソーダ。
一体どのような味なのだろう。
この世界では普通に飲まれている飲み物なのなら、人体に害があるなんてことはないだろうが、慣れていない私でも苦なく飲めるか、少々の不安はある。
好みに合う味なら良いのだが。
そんなことを考えながら、アナが戻ってくるのを待った。
十分ほど経って、アナが私の部屋へ帰ってくる。
彼女の手には銀色のお盆。そこには、透明なグラスが一つ乗っていて、青緑の液体が注がれている。四角い氷が入っているのもあってかグラス全体が煌めいていて、まるで、グラスに宝石を詰めたかのよう。
「リリエラ様! お待たせしました!」
「す、凄い……綺麗……」
私は半ば無意識のうちに感嘆の声を漏らしてしまった。
アナが持ってきたグラスが、あまりに美しかったからだ。
「シロップ多めで作ってみました! 飲んでみて下さい!」
私はアナから青緑に輝くグラスを受け取り、そこに刺さっているストローを使って、オクトパスソーダを飲んでみる。
「……っ!」
液体が口腔内に達した瞬間、私は思わず息を飲んだ。
純粋に美味しいと思えたからである。
海のように爽やかな色みながらも、しっかりと甘い。だが、重々しい甘さではなく、心地よいと感じられる程度の甘さ。炭酸とも相性が良い。また、飲んでいる時に刺激されるのが味覚だけでないところも、興味深い。ふとした瞬間にさりげなく香る独特の香りが嗅覚も楽しませてくれ、味わいに深さが加わる。
「お、美味しい……!」
二度ほどストローで液体を吸ってから、私は一旦飲むことを止め、隣に控えているアナの方へと視線を向ける。
「オクトパスソーダ、素晴らしいですね!」
「気に入っていただけましたか?」
「とても美味しいです!」
すると、アナは恥ずかしそうに両肩をすくめる。
「リリエラ様にそう言っていただけて……とても嬉しいです」
ラペンターが呈示するローズマリーの証言。それはどれも、誇張や偽りに満ちたもので。彼女がいかに私を嫌っているかがよく分かる内容だった。
そのような真実でない発言をすっかり信じ込んでしまっているラペンターを見ていたら、少し、哀れな気持ちになった。嘘を言ったのはローズマリーであっても、それを根拠に騒ぐことで最終的に恥をかくのはラペンターなのだから。
三時間は長かった。
だが、私はきちんとやってのけた。
嘘は嘘と。誇張は誇張と。
はっきり言ってやった。
その結果、ラペンターは逃げるように帰っていった。
「お疲れ様でした、リリエラ様」
ラペンターが逃げ帰った後、アナがすぐに迎えに来てくれたので、私はそのまま自室へ戻る。とにかく休みたい。それが私の気持ちだったから。
自室へ戻ると、私はベッドに寝転がる。
誰も寝ていなかったため冷たくなったベッドは、とても心地よい。ひんやり感と柔らかさが快適さを演出してくれる。
ベッドの上でごろごろしていると、部屋の隅で待機していたアナが近寄ってきた。
「リリエラ様。何かご用意致しましょうか?」
両手両足を大きく開きながら仰向けに寝転がっている私の顔を覗き込みながら、アナが尋ねてくる。
「何か、ですか?」
寝転がったまま話すのはさすがにまずいな、と思い、上半身を起こす。
「はい。お飲み物など、いかがでしょうか」
「飲み物……」
ラペンターと話したことによる疲れで、頭が上手く回らない。せっかくアナが提案してくれているのだから素早く何か返したいところなのだが、速やかに返せそうにはなくて。
「ええと……ではっ。冷たい物がよろしいでしょうか? 温かい物がよろしいでしょうか?」
「冷たい物だと嬉しいです」
「では! オクトパスソーダはいかがでしょうかっ?」
……オクトパスソーダ?
私は耳を疑った。
アナの口から出た単語が、聞き慣れない単語だったから。
「え、あの、オクトパスソーダとは……」
「グリーンオクトパスという植物の汁を使ったソーダです!」
つまり、オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名称だったということか。それなら少しは納得だ。というのも、私の中ではオクトパスといえばタコのイメージがあったため、タコを使ったソーダなのかと思ってしまい、何がどうなっているのか理解できなかったのである。が、この世界にグリーンオクトパスという植物があり、オクトパスソーダはそれを使った飲み物というのなら、多少は理解できる。
「オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名前だったのですね……」
「はい! タコに似た形の植物ですよっ!」
アナはにっこり笑う。
堂々と咲く向日葵のような、晴れやかかつ穢れのない笑みだ。
「それでお願いします」
「承知致しましたっ。ではリリエラ様、しばらくお待ち下さい!」
オクトパスソーダ。
一体どのような味なのだろう。
この世界では普通に飲まれている飲み物なのなら、人体に害があるなんてことはないだろうが、慣れていない私でも苦なく飲めるか、少々の不安はある。
好みに合う味なら良いのだが。
そんなことを考えながら、アナが戻ってくるのを待った。
十分ほど経って、アナが私の部屋へ帰ってくる。
彼女の手には銀色のお盆。そこには、透明なグラスが一つ乗っていて、青緑の液体が注がれている。四角い氷が入っているのもあってかグラス全体が煌めいていて、まるで、グラスに宝石を詰めたかのよう。
「リリエラ様! お待たせしました!」
「す、凄い……綺麗……」
私は半ば無意識のうちに感嘆の声を漏らしてしまった。
アナが持ってきたグラスが、あまりに美しかったからだ。
「シロップ多めで作ってみました! 飲んでみて下さい!」
私はアナから青緑に輝くグラスを受け取り、そこに刺さっているストローを使って、オクトパスソーダを飲んでみる。
「……っ!」
液体が口腔内に達した瞬間、私は思わず息を飲んだ。
純粋に美味しいと思えたからである。
海のように爽やかな色みながらも、しっかりと甘い。だが、重々しい甘さではなく、心地よいと感じられる程度の甘さ。炭酸とも相性が良い。また、飲んでいる時に刺激されるのが味覚だけでないところも、興味深い。ふとした瞬間にさりげなく香る独特の香りが嗅覚も楽しませてくれ、味わいに深さが加わる。
「お、美味しい……!」
二度ほどストローで液体を吸ってから、私は一旦飲むことを止め、隣に控えているアナの方へと視線を向ける。
「オクトパスソーダ、素晴らしいですね!」
「気に入っていただけましたか?」
「とても美味しいです!」
すると、アナは恥ずかしそうに両肩をすくめる。
「リリエラ様にそう言っていただけて……とても嬉しいです」
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