15 / 32
15話「苦労の後のひと休みには」
しおりを挟む
結局、三時間ほどラペンターの話に付き合わされてしまった。
ラペンターが呈示するローズマリーの証言。それはどれも、誇張や偽りに満ちたもので。彼女がいかに私を嫌っているかがよく分かる内容だった。
そのような真実でない発言をすっかり信じ込んでしまっているラペンターを見ていたら、少し、哀れな気持ちになった。嘘を言ったのはローズマリーであっても、それを根拠に騒ぐことで最終的に恥をかくのはラペンターなのだから。
三時間は長かった。
だが、私はきちんとやってのけた。
嘘は嘘と。誇張は誇張と。
はっきり言ってやった。
その結果、ラペンターは逃げるように帰っていった。
「お疲れ様でした、リリエラ様」
ラペンターが逃げ帰った後、アナがすぐに迎えに来てくれたので、私はそのまま自室へ戻る。とにかく休みたい。それが私の気持ちだったから。
自室へ戻ると、私はベッドに寝転がる。
誰も寝ていなかったため冷たくなったベッドは、とても心地よい。ひんやり感と柔らかさが快適さを演出してくれる。
ベッドの上でごろごろしていると、部屋の隅で待機していたアナが近寄ってきた。
「リリエラ様。何かご用意致しましょうか?」
両手両足を大きく開きながら仰向けに寝転がっている私の顔を覗き込みながら、アナが尋ねてくる。
「何か、ですか?」
寝転がったまま話すのはさすがにまずいな、と思い、上半身を起こす。
「はい。お飲み物など、いかがでしょうか」
「飲み物……」
ラペンターと話したことによる疲れで、頭が上手く回らない。せっかくアナが提案してくれているのだから素早く何か返したいところなのだが、速やかに返せそうにはなくて。
「ええと……ではっ。冷たい物がよろしいでしょうか? 温かい物がよろしいでしょうか?」
「冷たい物だと嬉しいです」
「では! オクトパスソーダはいかがでしょうかっ?」
……オクトパスソーダ?
私は耳を疑った。
アナの口から出た単語が、聞き慣れない単語だったから。
「え、あの、オクトパスソーダとは……」
「グリーンオクトパスという植物の汁を使ったソーダです!」
つまり、オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名称だったということか。それなら少しは納得だ。というのも、私の中ではオクトパスといえばタコのイメージがあったため、タコを使ったソーダなのかと思ってしまい、何がどうなっているのか理解できなかったのである。が、この世界にグリーンオクトパスという植物があり、オクトパスソーダはそれを使った飲み物というのなら、多少は理解できる。
「オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名前だったのですね……」
「はい! タコに似た形の植物ですよっ!」
アナはにっこり笑う。
堂々と咲く向日葵のような、晴れやかかつ穢れのない笑みだ。
「それでお願いします」
「承知致しましたっ。ではリリエラ様、しばらくお待ち下さい!」
オクトパスソーダ。
一体どのような味なのだろう。
この世界では普通に飲まれている飲み物なのなら、人体に害があるなんてことはないだろうが、慣れていない私でも苦なく飲めるか、少々の不安はある。
好みに合う味なら良いのだが。
そんなことを考えながら、アナが戻ってくるのを待った。
十分ほど経って、アナが私の部屋へ帰ってくる。
彼女の手には銀色のお盆。そこには、透明なグラスが一つ乗っていて、青緑の液体が注がれている。四角い氷が入っているのもあってかグラス全体が煌めいていて、まるで、グラスに宝石を詰めたかのよう。
「リリエラ様! お待たせしました!」
「す、凄い……綺麗……」
私は半ば無意識のうちに感嘆の声を漏らしてしまった。
アナが持ってきたグラスが、あまりに美しかったからだ。
「シロップ多めで作ってみました! 飲んでみて下さい!」
私はアナから青緑に輝くグラスを受け取り、そこに刺さっているストローを使って、オクトパスソーダを飲んでみる。
「……っ!」
液体が口腔内に達した瞬間、私は思わず息を飲んだ。
純粋に美味しいと思えたからである。
海のように爽やかな色みながらも、しっかりと甘い。だが、重々しい甘さではなく、心地よいと感じられる程度の甘さ。炭酸とも相性が良い。また、飲んでいる時に刺激されるのが味覚だけでないところも、興味深い。ふとした瞬間にさりげなく香る独特の香りが嗅覚も楽しませてくれ、味わいに深さが加わる。
「お、美味しい……!」
二度ほどストローで液体を吸ってから、私は一旦飲むことを止め、隣に控えているアナの方へと視線を向ける。
「オクトパスソーダ、素晴らしいですね!」
「気に入っていただけましたか?」
「とても美味しいです!」
すると、アナは恥ずかしそうに両肩をすくめる。
「リリエラ様にそう言っていただけて……とても嬉しいです」
ラペンターが呈示するローズマリーの証言。それはどれも、誇張や偽りに満ちたもので。彼女がいかに私を嫌っているかがよく分かる内容だった。
そのような真実でない発言をすっかり信じ込んでしまっているラペンターを見ていたら、少し、哀れな気持ちになった。嘘を言ったのはローズマリーであっても、それを根拠に騒ぐことで最終的に恥をかくのはラペンターなのだから。
三時間は長かった。
だが、私はきちんとやってのけた。
嘘は嘘と。誇張は誇張と。
はっきり言ってやった。
その結果、ラペンターは逃げるように帰っていった。
「お疲れ様でした、リリエラ様」
ラペンターが逃げ帰った後、アナがすぐに迎えに来てくれたので、私はそのまま自室へ戻る。とにかく休みたい。それが私の気持ちだったから。
自室へ戻ると、私はベッドに寝転がる。
誰も寝ていなかったため冷たくなったベッドは、とても心地よい。ひんやり感と柔らかさが快適さを演出してくれる。
ベッドの上でごろごろしていると、部屋の隅で待機していたアナが近寄ってきた。
「リリエラ様。何かご用意致しましょうか?」
両手両足を大きく開きながら仰向けに寝転がっている私の顔を覗き込みながら、アナが尋ねてくる。
「何か、ですか?」
寝転がったまま話すのはさすがにまずいな、と思い、上半身を起こす。
「はい。お飲み物など、いかがでしょうか」
「飲み物……」
ラペンターと話したことによる疲れで、頭が上手く回らない。せっかくアナが提案してくれているのだから素早く何か返したいところなのだが、速やかに返せそうにはなくて。
「ええと……ではっ。冷たい物がよろしいでしょうか? 温かい物がよろしいでしょうか?」
「冷たい物だと嬉しいです」
「では! オクトパスソーダはいかがでしょうかっ?」
……オクトパスソーダ?
私は耳を疑った。
アナの口から出た単語が、聞き慣れない単語だったから。
「え、あの、オクトパスソーダとは……」
「グリーンオクトパスという植物の汁を使ったソーダです!」
つまり、オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名称だったということか。それなら少しは納得だ。というのも、私の中ではオクトパスといえばタコのイメージがあったため、タコを使ったソーダなのかと思ってしまい、何がどうなっているのか理解できなかったのである。が、この世界にグリーンオクトパスという植物があり、オクトパスソーダはそれを使った飲み物というのなら、多少は理解できる。
「オクトパスソーダのオクトパスは、植物の名前だったのですね……」
「はい! タコに似た形の植物ですよっ!」
アナはにっこり笑う。
堂々と咲く向日葵のような、晴れやかかつ穢れのない笑みだ。
「それでお願いします」
「承知致しましたっ。ではリリエラ様、しばらくお待ち下さい!」
オクトパスソーダ。
一体どのような味なのだろう。
この世界では普通に飲まれている飲み物なのなら、人体に害があるなんてことはないだろうが、慣れていない私でも苦なく飲めるか、少々の不安はある。
好みに合う味なら良いのだが。
そんなことを考えながら、アナが戻ってくるのを待った。
十分ほど経って、アナが私の部屋へ帰ってくる。
彼女の手には銀色のお盆。そこには、透明なグラスが一つ乗っていて、青緑の液体が注がれている。四角い氷が入っているのもあってかグラス全体が煌めいていて、まるで、グラスに宝石を詰めたかのよう。
「リリエラ様! お待たせしました!」
「す、凄い……綺麗……」
私は半ば無意識のうちに感嘆の声を漏らしてしまった。
アナが持ってきたグラスが、あまりに美しかったからだ。
「シロップ多めで作ってみました! 飲んでみて下さい!」
私はアナから青緑に輝くグラスを受け取り、そこに刺さっているストローを使って、オクトパスソーダを飲んでみる。
「……っ!」
液体が口腔内に達した瞬間、私は思わず息を飲んだ。
純粋に美味しいと思えたからである。
海のように爽やかな色みながらも、しっかりと甘い。だが、重々しい甘さではなく、心地よいと感じられる程度の甘さ。炭酸とも相性が良い。また、飲んでいる時に刺激されるのが味覚だけでないところも、興味深い。ふとした瞬間にさりげなく香る独特の香りが嗅覚も楽しませてくれ、味わいに深さが加わる。
「お、美味しい……!」
二度ほどストローで液体を吸ってから、私は一旦飲むことを止め、隣に控えているアナの方へと視線を向ける。
「オクトパスソーダ、素晴らしいですね!」
「気に入っていただけましたか?」
「とても美味しいです!」
すると、アナは恥ずかしそうに両肩をすくめる。
「リリエラ様にそう言っていただけて……とても嬉しいです」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる