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16話「風邪」
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——風邪を引いた。
昨夜より発熱。
一晩眠っても熱は下がらず、午前いっぱいベッドの中。
ローズマリーに絡まれ、ラペンターにも喧嘩を売られで、最近の私は疲れ果てていた。風邪の原因は、恐らく、その疲れだろう。
ラペンターが逃げるように帰っていったあの日以降は、一応、誰にも絡まれてはいない。だが、いつ誰がやって来るか分からないため、常に不安が付きまとい、ほっとできる時間がまったくなくて。
そのことだけを発病の原因だと言う気はないが、それが原因の一つであることは確かだ。
「リリエラ様、体調いかがですかー?」
ベッドから起き上がることのできない私を心配してやって来てくれたのは、侍女のアナ。キノコのようなふんわりしたショートヘアが可愛らしい、少女だ。
「お水お持ちしましたよ!」
「あ、あぁ……ありがとうございます……」
アナは、ベッドのすぐ横に設置されているテーブルに、透明なグラスの乗ったお盆を置く。それから彼女は、私の背へ、腕を回す。彼女の腕が力を貸してくれたおかげで、私は苦なく上半身を起こすことができた。
「リリエラ様、またそのような一般市民的なお言葉遣いを……」
「ごめんなさい」
「体調がお優れでないことは承知しておりますが……『あ、あぁ』なんて仰るのはリリエラ様らしくありません」
すみません。けど私、本当に一般市民なんです。
「お水です。こちらをお飲み下さい」
アナはテーブルに置かれたお盆からグラスを持ち上げ、親切に、胸元辺りまで運んでくれる。私はそれをありがたく受け取り、グラスの端に唇をつけた。するとひんやりとした水が口腔内へ流れ込んできて。熱があるせいか、ただの水が妙に美味しく感じられた。
「美味しかったです……」
「ふふっ。そう言っていただけて光栄です」
あぁ、なんて眩しい笑顔だろう。
アナが可愛らしい人であることは知っていた。けれど、こうして至近距離から見つめると、離れている時よりさらに可愛らしく見えてしまって。もはや感動ものだ。
リリエラは美しい容姿の持ち主。
でも、アナも悪くはない。
彼女の場合は特に、人への接し方がとても上手だ。だから、それと可愛らしさが合わされば、もう無敵である。
「飲み終わりました」
「あっ、はい! もう一度横になられますか?」
「いえ……少し座っていたいです」
質の悪いベッドではないから、長時間横になっていても身体への影響はほとんどない。ただ、気持ち的には少々不快な部分もあるのだ。発熱している以上、起き上がり歩き回ることができないことは承知している。だが、それでも、少しくらいは身体を動かしていたい。
「はい! 承知しました! ではでは、何かお食べになりますか?」
「それは結構です……」
「そうですか! 分かりました」
少し空けて、アナは口を開く。
「そういえばリリエラ様。昨夜、パトリー様よりお手紙が届きましたよ」
「えっ!」
まさかこのタイミングで手紙が来るなんて。
想定外のことを言われ、思わず大きい声を発してしまった。
その時、アナはというと、何やら楽しげにニヤニヤしながら、私の顔を見ていた。
「もし良ければ、お持ちしましょうか?」
「お願いします」
「はいっ。ではでは、しばらくお待ち下さい!」
パトリーからの手紙。
そう聞いて、少し元気が戻ってきた気がする。
私たちはあくまで友人。先のことは分からないが、現時点では、恋愛関係などではない。まったくない。
それでも、彼の存在は嬉しい。
こちらの世界へ来てまだ日が浅く、信頼できる相手のいない私にとっては、友人というだけの存在であっても、いるのといないのとでは大きな違いがあるのだ。
待つことしばらく、アナが部屋に戻ってきた。
「お待たせしました!」
彼女の手には、クリーム色をした横長の封筒。
前に送られてきた物と、見た感じはそっくりだ。
「開けていただいても構いませんか」
「は、はいっ!」
アナは慣れた手つきで素早く開封する。
そして、中身は見ずに差し出してくれた。
私は既に開封されたクリーム色の封筒を受け取ると、破いてしまわないよう気をつけつつ便箋を取り出す。
思ったよりたくさんの枚数の便箋が出てきて、少しばかり驚いた。
『暇なら、会いたい。前回会った時は、蜘蛛について話すことができて楽しかった。機会があればまた来てほしいと思うが、どうだろうか。返信を楽しみにしている』
一枚目にはそのようなことだけが書かれていた。
せっかく上質な便箋を使っているのにこれだけしか使わないなんて勿体ないな。そんなことを思いながら二枚目へ視線を向けた——その時。
「ええ!?」
思わず叫んでしまった。
というのも、一枚目は数行しか書かれていなかったというのに、二枚目には文章がびっしり書き込まれていたのである。
三枚目、四枚目、五枚目。
それらの便箋も文字で埋め尽くされていた。
そして内容はというと、主に蜘蛛に関することだった。
お亡くなりになっただとか、脱皮を頑張っている最中だとか、珍しく見つけたレアな娥を食べさせてみたら一生懸命食べて可愛いだとか。
これは女性に出す手紙じゃない!
思わずそう叫びたくなったくらい、蜘蛛の話が多かった。
昨夜より発熱。
一晩眠っても熱は下がらず、午前いっぱいベッドの中。
ローズマリーに絡まれ、ラペンターにも喧嘩を売られで、最近の私は疲れ果てていた。風邪の原因は、恐らく、その疲れだろう。
ラペンターが逃げるように帰っていったあの日以降は、一応、誰にも絡まれてはいない。だが、いつ誰がやって来るか分からないため、常に不安が付きまとい、ほっとできる時間がまったくなくて。
そのことだけを発病の原因だと言う気はないが、それが原因の一つであることは確かだ。
「リリエラ様、体調いかがですかー?」
ベッドから起き上がることのできない私を心配してやって来てくれたのは、侍女のアナ。キノコのようなふんわりしたショートヘアが可愛らしい、少女だ。
「お水お持ちしましたよ!」
「あ、あぁ……ありがとうございます……」
アナは、ベッドのすぐ横に設置されているテーブルに、透明なグラスの乗ったお盆を置く。それから彼女は、私の背へ、腕を回す。彼女の腕が力を貸してくれたおかげで、私は苦なく上半身を起こすことができた。
「リリエラ様、またそのような一般市民的なお言葉遣いを……」
「ごめんなさい」
「体調がお優れでないことは承知しておりますが……『あ、あぁ』なんて仰るのはリリエラ様らしくありません」
すみません。けど私、本当に一般市民なんです。
「お水です。こちらをお飲み下さい」
アナはテーブルに置かれたお盆からグラスを持ち上げ、親切に、胸元辺りまで運んでくれる。私はそれをありがたく受け取り、グラスの端に唇をつけた。するとひんやりとした水が口腔内へ流れ込んできて。熱があるせいか、ただの水が妙に美味しく感じられた。
「美味しかったです……」
「ふふっ。そう言っていただけて光栄です」
あぁ、なんて眩しい笑顔だろう。
アナが可愛らしい人であることは知っていた。けれど、こうして至近距離から見つめると、離れている時よりさらに可愛らしく見えてしまって。もはや感動ものだ。
リリエラは美しい容姿の持ち主。
でも、アナも悪くはない。
彼女の場合は特に、人への接し方がとても上手だ。だから、それと可愛らしさが合わされば、もう無敵である。
「飲み終わりました」
「あっ、はい! もう一度横になられますか?」
「いえ……少し座っていたいです」
質の悪いベッドではないから、長時間横になっていても身体への影響はほとんどない。ただ、気持ち的には少々不快な部分もあるのだ。発熱している以上、起き上がり歩き回ることができないことは承知している。だが、それでも、少しくらいは身体を動かしていたい。
「はい! 承知しました! ではでは、何かお食べになりますか?」
「それは結構です……」
「そうですか! 分かりました」
少し空けて、アナは口を開く。
「そういえばリリエラ様。昨夜、パトリー様よりお手紙が届きましたよ」
「えっ!」
まさかこのタイミングで手紙が来るなんて。
想定外のことを言われ、思わず大きい声を発してしまった。
その時、アナはというと、何やら楽しげにニヤニヤしながら、私の顔を見ていた。
「もし良ければ、お持ちしましょうか?」
「お願いします」
「はいっ。ではでは、しばらくお待ち下さい!」
パトリーからの手紙。
そう聞いて、少し元気が戻ってきた気がする。
私たちはあくまで友人。先のことは分からないが、現時点では、恋愛関係などではない。まったくない。
それでも、彼の存在は嬉しい。
こちらの世界へ来てまだ日が浅く、信頼できる相手のいない私にとっては、友人というだけの存在であっても、いるのといないのとでは大きな違いがあるのだ。
待つことしばらく、アナが部屋に戻ってきた。
「お待たせしました!」
彼女の手には、クリーム色をした横長の封筒。
前に送られてきた物と、見た感じはそっくりだ。
「開けていただいても構いませんか」
「は、はいっ!」
アナは慣れた手つきで素早く開封する。
そして、中身は見ずに差し出してくれた。
私は既に開封されたクリーム色の封筒を受け取ると、破いてしまわないよう気をつけつつ便箋を取り出す。
思ったよりたくさんの枚数の便箋が出てきて、少しばかり驚いた。
『暇なら、会いたい。前回会った時は、蜘蛛について話すことができて楽しかった。機会があればまた来てほしいと思うが、どうだろうか。返信を楽しみにしている』
一枚目にはそのようなことだけが書かれていた。
せっかく上質な便箋を使っているのにこれだけしか使わないなんて勿体ないな。そんなことを思いながら二枚目へ視線を向けた——その時。
「ええ!?」
思わず叫んでしまった。
というのも、一枚目は数行しか書かれていなかったというのに、二枚目には文章がびっしり書き込まれていたのである。
三枚目、四枚目、五枚目。
それらの便箋も文字で埋め尽くされていた。
そして内容はというと、主に蜘蛛に関することだった。
お亡くなりになっただとか、脱皮を頑張っている最中だとか、珍しく見つけたレアな娥を食べさせてみたら一生懸命食べて可愛いだとか。
これは女性に出す手紙じゃない!
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