平凡女子高生、美少女に転生する。〜夜会で出会った彼は、蜘蛛好き〜

四季

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23話「無理」

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 パトリーは、奇妙な生き物を見るかのような視線を、私へ向けてくる。眉間にしわを寄せながら見つめられたら、圧倒されてしまう。どのような接し方をすれば良いのか分からず、不安になることしかできない。

 やはり、打ち明けるべきではなかったのだろうか。
 そんなことを思ってしまう。

「どういう話だ、それは」

 低い声で尋ねてくるパトリー。

「私、元々は、私ではなかったんです」
「いや、だから……それは一体、どういう話なんだ」
「元の私はただの女子高生でした。けど、ある時事故に巻き込まれて、気づけばリリエラに」

 こんな非現実的なこと、説明しても分かってもらえるはずがない。けれど私は話した。分かってもらえないと覚悟しながらも、勇気を出して打ち明けた。

 だがやはり、パトリーは不思議そうな顔をするばかり。
 おかしな娘とか変わった娘とか思われていないだろうか。どうしても、少し気にしてしまう。

「女子高生とは?」
「学校に通っている女子のことです」
「……学校……そうか。で、リリエラが元々それだった、と」
「はい」

 今はひとまず、一つずつパトリーの問いに答えていくしかない。

「それで、事故で亡くなったのか?」
「亡くなったかどうかは分かりません……ただ、気づけばリリエラになっていました」

 自分でもわけが分からないことだ、恐らくパトリーも理解できないだろう。

 ——そう思っていたのだが。

「そうか。それはなかなか、珍妙な現象だ」
「え?」
「リリエラが他の馬鹿げた女たちと違う雰囲気を持っているのは、そのせいかもしれないな」

 り、理解してもらえた……?

 いや。あり得ない。

 事故に巻き込まれ、気づけば別人になっていた話なんて、現実では聞いたことがない。現代日本にいた頃読んだ小説か何かには、そんな話もあったような気もするが、それはあくまで創作だ。

 私の例は、そんな創作みたいなことが実際に起きたという奇妙な例。
 そんな話をあっさり理解してもらえるわけがない。信じてもらえるわけがない、絶対に。

「え……あの……」
「リリエラ、やはり、なかなか面白い女だ。珍しく、少しばかり興味が湧く」

 面白い、というのは、どういった意味だろうか。
 馬鹿みたいな妄想を語るから笑える、というような面白さなのか。あるいは、言葉のままの純粋な面白さなのか。
 どうでもいい些細な違いのようにも思えるが、そこは、ある意味重要なところである。

「面白いとは、どういう意味ですか? 挑発ですか?」

 一度気になり出すと気になって仕方がないから、勇気を出して尋ねてみる。
 するとパトリーは、面に少し呆れたような色を滲ませつつ、ふっと笑みをこぼす。やや上から目線のような、笑みのこぼし方。

「そういうところだ」

 非常に曖昧な言い方をされ、私は、戸惑わずにはいられなかった。暫し、ただ言葉を返すことさえできなかったくらいである。

「では、蜘蛛の餌やりに行こう」
「えっ」

 やはり蜘蛛。
 またしても蜘蛛。

 彼らしいといえば彼らしいが、何とも言えない心境だ。

 この状況で話題を蜘蛛へ戻せるマイペースさは、ある意味、尊敬に値すると言えるかもしれない。少なくとも、常人にはできないことである。


 パトリーに連れていかれたのは、様々なサイズの瓶や入れ物がある部屋。蜘蛛を飼育している部屋である。

 結局私は、蜘蛛の餌やりに付き合わされることになってしまった。

 ……いや、「付き合わされ」なんて表現は少々失礼かもしれない。

 本当は、趣味の部分に参加させてくれてありがとう、くらいに思わねばならないところだ。

 パトリーは、小さな羽虫が数匹入った小瓶とピンセットを、慣れた手つきで速やかに取り出す。私は、羽虫の入っている小瓶が怖く、直視できなかった。
 蜘蛛はまだ耐えられるが、昆虫は苦手。正直好きでない。

「よし。ではこれで」

 ピンセットを渡される。

「え、無理ですっ……」
「餌やりはサクッと」
「いや、えっと……まずパトリーが……ヒィ! 虫!」

 羽虫が元気にピンセットに登ってきて、取り乱してしまう。慌てれば慌てるほど状況は悪くなると分かってはいるのだが、冷静さを保てない。

「落ち着け、リリエラ」
「む、無理……これはさすがに無理ですっ……!」

 駄目だ、私にはできない。
 蜘蛛の餌やりは無理だと悟った私は、本能的に、部屋から脱走してしまった。

 ごめんなさい、パトリー。楽しいことを共有しようと善意で企画してくれたのだということは、よく分かっているんです。

 でも、でも……。

 ピンセットに羽虫が登ってくるのは無理!
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