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27話「妻に、との申し出」
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「妻にって……どういう意味ですか?」
私の父親とは違う、しかし今は父親という関係の彼を、じっと見つめる。
四十代半ばだろうか。厳密な年齢は聞いてみなければ分からないが、そのくらいの年に見える。そんな父親の顔面は、意外にも、しわが少ない。どちらかというと肥え型だからだろうか。
「実はだな。数日前にカイヤナイト家から連絡があってな」
「……カイヤナイト家?」
聞き覚えのない名称だ。
「カイヤナイト家はな、父さんの遠い親戚にあたる家だ。あ、案ずることはないぞ。地位のある、きちんとした家だ」
いきなり言われても、どう返せば良いのか分からない。
私が現代日本へ戻るためには、恋を成就させなければならない。そういう意味では、結婚というのも手なのかもしれない。夫となら、長い時間を共にする。そうすれば、好きになれるかもしれないし、好きになってくれるかもしれない。
だが、そんな形の成就で良いのだろうかという不安がある。
それに、誰かと結婚してしまったら、もうパトリーと遊べない。話すこともできなくなってしまうだろう。
正直、それは嫌だ。
せっかく親しくなってきたのに、こんなところで別れなくてはならないなんて、寂しい。
「……嫌です」
「何だと?」
「その……結婚は嫌です」
そもそも、私はまだ、結婚するという意思を持ってはいない。結婚したい、という望みさえ、抱いてはいない。
それなのに、こんな一方的な話。
大人しく従うなんて無理に決まっている。
「安心していい、リリエラ。あそこの息子は、少しばかり癖が強いが、それなりの容姿だ」
それなりの容姿?
知ったことか。
容姿が悪くない男性なら誰でもいいなんていうほど、私は男に困っていない!
……落ち着け落ち着け。
まだ会ったこともない相手との結婚なんて、嫌に決まっている。心は決まっているのだから、後は簡単、断ればいい。
「それでも嫌です」
「待て待て。せめて一度の顔合わせくらい……」
「結婚する気がないのに会うだけ会うというのは、失礼ではないですか」
断る時には、はっきり断る。
その方が良いと私は思うのだが。
「いや、約束を破る方が失礼だ」
「……え」
「まずは一度会わせると、既に約束してしまっている」
「えぇぇ!?」
なんて勝手な。
言葉が出ない。
「明後日くらい、カイヤナイト家の息子がやって来る。絶対に結婚しろとは言わん。が、まずは一度会ってみてくれ」
父親は、私に選択させることなく、話を進めていたようだ。恐ろしい勝手さ。理解不能だ。
……もっとも、この世界ではよくあることなのかもしれないけれど。
「無茶言わないで下さい……」
「すまない。非常に熱心に言われたので、断ることができなかったのだ」
熱心に言われたら断りづらいという心境は、分からないでもない。そのこと自体は、理解できる範囲の外ではない。
ただ、だからといって「じゃあ仕方ないわね」とは思えなかった。
私はそこまで優しくなかったのだ。
「とにかく、お断りします」
だから、はっきりと断った。
私は何度だって言う。無理だと。
「それは困る!」
「……勝手に約束しておいてそんなことを言うのは、止めて下さい」
「なぜ頑なに拒む?」
「結婚も、一度会うのも、どちらも嫌だからです」
ばっさり言うのは少し可哀想な気もするが、曖昧なことを言い続けても何も変わらない。だから、申し訳ないけれど、ここははっきりと言わせてもらう。
すると父親は、肉のついた両手で、私の両肩を掴んできた。
「頼む! 会ってくれ!」
それまではどっかりしていたのに、急に必死。
雰囲気が変わりすぎではないだろうか。
「嫌です」
「頼む! もう約束してしまったんだ!」
会うことさえする気はなかった。だが、必死に頼み込んでくる父親を見ていたら、段々可哀想に思えてきて。
だから私は言ってしまった。
「……分かりました」
本当は、こんなことを言うべきではなかったのだろう。
結婚する気は微塵もなく、それなのに顔を合わせるなど、期待を持たせてしまうだけ。何の意味もないことだ。
「会ってくれるか!?」
「……はい。分かりました。会うだけなら、構いません」
すると、父親の瞳に光が宿る。
「そうか! それは助かる!」
父親はとても嬉しそうだ。
ホッとする。
良かった、と思う。
ただ、その安堵の後に、私は自身の発言を少し後悔した。
せっかくパトリーと良い感じになっていたのだ、どうせなら彼と話を進めたかった。父親の関係者と結ばれるのが悪いことだとは言わないけれど、パトリーがいるのにわざわざ他の男性と関わるなんていうのは、どうもおかしな感じがして気に入らない。
私の父親とは違う、しかし今は父親という関係の彼を、じっと見つめる。
四十代半ばだろうか。厳密な年齢は聞いてみなければ分からないが、そのくらいの年に見える。そんな父親の顔面は、意外にも、しわが少ない。どちらかというと肥え型だからだろうか。
「実はだな。数日前にカイヤナイト家から連絡があってな」
「……カイヤナイト家?」
聞き覚えのない名称だ。
「カイヤナイト家はな、父さんの遠い親戚にあたる家だ。あ、案ずることはないぞ。地位のある、きちんとした家だ」
いきなり言われても、どう返せば良いのか分からない。
私が現代日本へ戻るためには、恋を成就させなければならない。そういう意味では、結婚というのも手なのかもしれない。夫となら、長い時間を共にする。そうすれば、好きになれるかもしれないし、好きになってくれるかもしれない。
だが、そんな形の成就で良いのだろうかという不安がある。
それに、誰かと結婚してしまったら、もうパトリーと遊べない。話すこともできなくなってしまうだろう。
正直、それは嫌だ。
せっかく親しくなってきたのに、こんなところで別れなくてはならないなんて、寂しい。
「……嫌です」
「何だと?」
「その……結婚は嫌です」
そもそも、私はまだ、結婚するという意思を持ってはいない。結婚したい、という望みさえ、抱いてはいない。
それなのに、こんな一方的な話。
大人しく従うなんて無理に決まっている。
「安心していい、リリエラ。あそこの息子は、少しばかり癖が強いが、それなりの容姿だ」
それなりの容姿?
知ったことか。
容姿が悪くない男性なら誰でもいいなんていうほど、私は男に困っていない!
……落ち着け落ち着け。
まだ会ったこともない相手との結婚なんて、嫌に決まっている。心は決まっているのだから、後は簡単、断ればいい。
「それでも嫌です」
「待て待て。せめて一度の顔合わせくらい……」
「結婚する気がないのに会うだけ会うというのは、失礼ではないですか」
断る時には、はっきり断る。
その方が良いと私は思うのだが。
「いや、約束を破る方が失礼だ」
「……え」
「まずは一度会わせると、既に約束してしまっている」
「えぇぇ!?」
なんて勝手な。
言葉が出ない。
「明後日くらい、カイヤナイト家の息子がやって来る。絶対に結婚しろとは言わん。が、まずは一度会ってみてくれ」
父親は、私に選択させることなく、話を進めていたようだ。恐ろしい勝手さ。理解不能だ。
……もっとも、この世界ではよくあることなのかもしれないけれど。
「無茶言わないで下さい……」
「すまない。非常に熱心に言われたので、断ることができなかったのだ」
熱心に言われたら断りづらいという心境は、分からないでもない。そのこと自体は、理解できる範囲の外ではない。
ただ、だからといって「じゃあ仕方ないわね」とは思えなかった。
私はそこまで優しくなかったのだ。
「とにかく、お断りします」
だから、はっきりと断った。
私は何度だって言う。無理だと。
「それは困る!」
「……勝手に約束しておいてそんなことを言うのは、止めて下さい」
「なぜ頑なに拒む?」
「結婚も、一度会うのも、どちらも嫌だからです」
ばっさり言うのは少し可哀想な気もするが、曖昧なことを言い続けても何も変わらない。だから、申し訳ないけれど、ここははっきりと言わせてもらう。
すると父親は、肉のついた両手で、私の両肩を掴んできた。
「頼む! 会ってくれ!」
それまではどっかりしていたのに、急に必死。
雰囲気が変わりすぎではないだろうか。
「嫌です」
「頼む! もう約束してしまったんだ!」
会うことさえする気はなかった。だが、必死に頼み込んでくる父親を見ていたら、段々可哀想に思えてきて。
だから私は言ってしまった。
「……分かりました」
本当は、こんなことを言うべきではなかったのだろう。
結婚する気は微塵もなく、それなのに顔を合わせるなど、期待を持たせてしまうだけ。何の意味もないことだ。
「会ってくれるか!?」
「……はい。分かりました。会うだけなら、構いません」
すると、父親の瞳に光が宿る。
「そうか! それは助かる!」
父親はとても嬉しそうだ。
ホッとする。
良かった、と思う。
ただ、その安堵の後に、私は自身の発言を少し後悔した。
せっかくパトリーと良い感じになっていたのだ、どうせなら彼と話を進めたかった。父親の関係者と結ばれるのが悪いことだとは言わないけれど、パトリーがいるのにわざわざ他の男性と関わるなんていうのは、どうもおかしな感じがして気に入らない。
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