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前編

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「貴女って本当に無能よね、あたしの息子をあげるに相応しくない女性だわ。……ってことで、婚約は破棄ね!」

 ある日のこと、婚約者アドマリンの母親から呼び出されたと思ったら、唐突にそんなことを告げられてしまった。

「え……」
「何を驚いているのかしら? 今までの貴女の行動を見ていて決めたことよ、驚かれるようなことは言っていないはずだわ」

 いやいや、婚約者本人ではなくその親から急に婚約破棄なんて言われたらそれは普通驚くだろう。

 自分が何かやらかしたのならともかく。

「貴女って、気がきかないでしょ? あたしといる時だってろくに働かないし、あたしのことを尊敬する言葉を発したりもしないじゃない。そういうところよ、貴女の悪いところは」

 いやいや、結構こき使われていたのだが!?

 私が家のことはほとんどやらされて、アドマリンの母親や姉はずっとだらだらお菓子を食べていた――それなのに『ろくに働かない』とは、一体!?

 正直もう目の前にいる彼女のことは理解できなくなってきた。

「だ、か、ら、婚約破棄なの」
「そうですか……」
「分かったかしら?」
「でもお義母さま、私、いつも色々していたのですが……」
「はぁ? 色々するのは当たり前のことじゃないの! うちに嫁に来るのだから! 娘になるようなものなのよ?」
「ですが、お義姉さまはだらだらなさっていますよね?」
「いいの! あの娘は可愛いから! それにあたしの実子だもの、自由にさせてあげたいのよ」

 結局嫁をこき使いたいだけではないか。

「承知しました。では、婚約破棄、受け入れます」
「なーによその言い方。なんだか生意気ね。不愉快極まりないわ。……ま、もう他人になるからいいけれどね」

 こうして私とアドマリンの婚約は破棄となった。

 こんな理不尽な義母のいるところで幸せな未来を掴めるわけがないのだから――今のうちに離れておく方が吉かもしれない。
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