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前編

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 その日、空は淡い青に染まっていた。

「リリーア、お前との婚約は破棄とする」

 穏やかな昼下がり。
 彼の言葉がその平穏をぶち壊す。

「ノエルさん……」
「聞こえたか? 聞こえたのなら返事をしろよ」
「はい、聞こえました……」
「ではこれでもういいな、じゃあ俺は去る」

 ノエルはミステリアスな虹色の右目に光らせ、去っていこうとした。

「待ってください!」

 私は咄嗟に止めていた。

「まだ言うことがあるのか?」
「あの、いまいちよく分かりません。こんな急に婚約破棄なんて……すみません、でも、何がどうなっているのか教えていただけませんか」

 下手に出てみるけれど。

「は? 馬鹿だろ、そんなこと説明するわけないだろ」

 そう吐き捨てられただけで終わってしまった。

 ……ああ、終わってしまった。

 見上げた空は淡い青のまま。
 それでも少し前までとは違う色に見える。

 ……きっと、気持ちのせいだろう。

 だって、空は空のままなのだ。たとえ地上で何が起こっていようとも、あそこまで影響が波及することなどありはしない。だから、空の色が変わったように思えるのは、己の心の色が変わったから。それだけだろう、きっとそう。
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