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前編
しおりを挟む最近婚約者アッドの周りをちょろちょろしている女がいることは知っていた。
しかしこれまでアッドは真面目だった、だからこそ彼を信じていた。
まさかそんなうろついている女には行かないだろう。
そう思っていたのだ。
――しかし。
「俺、お前との婚約は破棄してメーリアと結婚するわ」
ある日突然そんなことを告げられて、衝撃を受ける。
だって、そんなことになるとは欠片ほども思っていなかったのだ。
まさか彼が私を捨てて他の女性を選ぶだなんて。
悪夢としてですら、そんなことは考えてみたことがなかった。
「な、何で……」
「メーリアはおっちょこちょいでさ、俺が見ていないと駄目なんだ。公私共に俺みたいなしっかりした人間が傍にいてサポートしてやらないと」
「ええっ……」
「ま、そういうことだから、お前とはおしまいにする。いいな? はっきり言ったからな、後から聞いていないとか言うなよ」
えええー……、というのが本心だった。
「いきなりそんなことを言い出すなんて酷いわ」
「知るか! 俺が決めたことが絶対なんだ!」
「そんな人だとは思わなかった。今までの貴方は偽者だったのね」
「何とでも言え! 俺は愛に忠実な人間なんだよ!」
彼はそう吐き捨てた。
……そうか、私が知っていた前の彼はもういなくなってしまったのか。
恋とか愛とか、そういうものって恐ろしい。だって人をここまで変えてしまうのだもの。そこそこ誠実で他人の嫌がることはせず真面目かつ無害な男性だった彼でさえ、こうして邪悪に変わってしまった。
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