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前編

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「君との関係を解消することにした」

 突然告げられた婚約破棄。
 時が止まった気がした。

「え……なぜ……?」

 声が震える。
 全身が冷えてゆくのを感じる。

「君には飽きたんだ」

 彼は迷いなくそう言った。
 真っ直ぐな目つきで。

「飽き、た……?」
「あぁ。君はちっとも忠実じゃないし言いなりになってくれない。そんな女を傍に置いておいても苛つくだけだ。不愉快でしかない。だから婚約は破棄することにしたんだ。……それに。お互いその方が良いだろう、と思ってな」

 お互い?

 私は別れたくなどなかった。
 終わりたいなんて言ったことはない。

 なのに私のためでもあるかのように言うの?

 私にも責任を与えたいだけではないのか。

「私は婚約破棄されたいなんて思っていません」
「恥をかくから、だろう?」
「違います!」
「嘘つけ。僕のことなんて見ていないくせに」

 彼は私を睨む。

「君は僕の夜の誘いを断っただろうが!!」

 ……知らんがな。

 勘違いしないでほしい。
 私たちはまだ夫婦ではないのだ。

「もういい出ていけ! 出ていかないなら警備隊に通報する!」
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