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前編
しおりを挟む一国の王女である私――フィオネは、中級貴族の青年アイデンと婚約。
階級には少々差があったけれど、私はそんなものは気にするものではないと考えていたので、それによって嫌だとか結ばれたくないだとかは思っていなかった。
だが、婚約以降、アイデンの行動が急激に派手になった。
慎ましかった彼は、優しげだった彼は、どこかへ行ってしまった。
この世から消えてしまった。
今や彼は城内でうろうろしては侍女などに声をかけるような人だ――しかも、拒否した女性に対しては、自分が王女の婚約者であることを強調して言い脅しているらしい。
階級うんぬんは気にしない。
でも素行が悪いというのは大問題だ。
皆に迷惑がかかってしまう。
そんなことを知っていながら知らないふりをするなんてできるわけがない。
「アイデン、ちょっといいかしら」
だから私は動くことにした。
もう黙ってはいられない。
「何ですかぁ? フィオネさん?」
アイデンはまだ気づいていないようで――これから私が何を言おうとしているか。
「貴方、最近、侍女に声をかけて回っているそうね」
「えぇ? はい、でも、ちょっと遊ぼうと思ってるだけですよ?」
「迷惑行為よ、気づいてる?」
「迷惑、ですかぁ? んなわけないでしょ? みーんな喜んでるに決まってますって!」
呆れてしまう。
アイデンは自分を何者だと思っているのか。
何か大きな勘違いしているのではないか。
でなければ、迷惑をかけておいて喜んでいると思うことなんて、できるわけがない。
「皆、迷惑がっているのよ!」
「ええ~、それは照れてるんですよぉ~」
アイデンはまともに聞こうとしていないようだ……。
どう頑張っても話にならない……。
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