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1話
しおりを挟むある雨の日のことだ。
私より三つ年下で自由奔放わがまま放題な妹ネルネンが「アロス様に会ってくるから!」と言って無理矢理家から出ていった。
ちなみにそのアロスというのは、最近できた彼女の婚約者である。
そこそこ良い家の子息であるアロスとの婚約が決まった時、ネルネンは非常に喜んでいた。そしてまた私を見下し「お姉さまには無理でしょうけどねぇ」などと煽るようなことをやたらと言われたものだ。もう二週間ほど前だろうか、それも。ただ、今でも、あの時のことは鮮明に思い出せる。もっとも、十年ニ十年前のことではないから記憶が鮮明なのも当然と言えば当然なのかもしれないが。
「ネルネン行っちゃったわねぇ……大丈夫かしら……」
彼女を見送ってから、母は心配そうに呟いていた。
この大雨だ、外出は危険である。けれどもそんなことを言ったところで「鬱陶しい」と一蹴されるのみだろう。私が止めようとした日には、嫉妬で言っている、と勘違いされる可能性だってある。もはやネルネンのわがままを制止できる者なんてこの家には存在しないのだ。
「何もないと良いのだけれど……」
「母さん、凄く心配してるのね」
「ええ、心配よ。だってあの子、可愛いし、その身に何かあったらと思うと……」
母が娘を大切に思う、それは普通のことだろう。でも、それでも、強くそれを感じた時には何とも言えない気分になってしまう部分はあるのだ。私に対してはそんな風に思わず言いもしない親だと知っているからなおさら。
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