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前編
しおりを挟む「お前って、取り柄ないよな」
婚約者エーデルヘルホフはある日の昼下がり私の家の庭にて突然そんなことを言ってきた。
「え?」
「顔普通、性格普通、特技なし、奉仕の心なし――ま、簡単に言って、平凡かつ無能だよな」
エーデルヘルホフはかえるとたぬきを交ぜ合わせたような顔立ちの青年だ。
稀にしか洗わない栗色の髪からは脂ぎったような匂いがいつも漂っていて、今では慣れたが、最初の頃は近くにいるだけで吐きそうになったほどであった。
そんな彼にこんなことを言われてしまうなんて、正直ショックである。
そっちだって素晴らしいわけじゃないじゃない! ――そう叫んでやりたくなるほどだ。
もちろん、顔立ちについてあれこれ言う気はない。だってそれは遺伝的なものだから。容姿、特に顔立ちは、自分一人で決められるものではない。そのくらいのことは知っている、だから、顔立ちについて批判するようなことはしない。
ただ、匂いはどうにかなるだろうに!
せめて頭を洗ってくれ。
何も煌びやかになれとは言わないが、せめて清潔さだけは保ってほしい。
「てことで、婚約は破棄するわ」
「……え!?」
「何だよ驚きやがって」
「驚きやがって、って……ちょっと、何なのよその言い方」
「言い方とかいちいちうるせぇなぁ。平凡女のくせに調子に乗りやがって。どうかしてるわ」
「急に婚約破棄なんて言い出す方がどうかしているわよ」
「はぁ!?」
感情的になったエーデルヘルホフがビンタしようとしてきたので。
「いいわよ、もう、それでも」
これはもう無理だ。
そう思って。
「それが貴方の望みなのならそれでも構わないな、そうしましょう」
私はそう言った。
これ以上話していても、きっと何も生まれない。もし生まれるものがあるとしたらそれは彼の怒りくらいのものだろう。そしてそれは、私にとって少しも益のないものだ。ただただくだらない、迷惑でしかない、そんな負のものでしかない。
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