貴方の浮気、バレてますよ

四季

文字の大きさ
2 / 2

後編

しおりを挟む
「今日は伝えたいことがあるの」
「どうしたんだい? ご両親まで一緒に」

 彼はまだ気づいていない。
 あたしたちがどういうことを言いにきたのかに。

「浮気してるわよね」

 早速本題を切り出す。
 いきなり過ぎる気もするが、若干馬鹿なあたしには真っ直ぐなことしかできない。

「何を言っているんだい?」

 彼は意外と焦った顔をしなかった。冷静さを保ち続けている。表情も落ち着いたもののまま。大きな変化は見られない。よほど隠せている自信があるのか。

「とぼけないで」
「急にどうしたんだい? そんなことを言い出すなんてどうかしているよ」
「証拠ならあるわ。これを見て」

 あたしはついに写真を取り出す。

 彼と彼の浮気相手が二人仲良く写り込んでいる数枚の写真である。

 腕組みをしながら歩いているもの。身を擦り寄せ合いながら語らうもの。身体こそ離れているものの、愛し合うように見つめ合っているもの。指を絡めて微笑み合うもの。
 見ているだけでも胸焼けがしてくるような写真たちである。

「……っ!」

 今度はさすがに表情が揺れた。

「この女性は浮気相手よね?」
「ち、違う!」

 焦っているのが丸出し。見ているこちらが恥ずかしいぐらい。

「その女性は浮気相手などではないんだ! ただのちょっとした知り合いで……!」
「こんなにいちゃついているのに知り合いなの?」

 あたしの両親がほぼ同時に彼を睨む。
 本当は親の力なんて使いたくないけれど、今は仕方ない。
 それに、婚約というのはそもそも、家と家の話でもある。あたしと彼二人だけの話ではない。それゆえ、親が出ていくというのも完全におかしな話ではないのだ。

「か、勘違いしないでほしい……! 彼女とは、本当に、ただの知り合いであって……!」
「知り合いと見つめ合うもの?」
「こ、これは……たまたま、向こうが見つめてきたところで……!」
「彼女だけが見つめているようには見えないけど。あ、そうだ。あと、これ以外にもあるの」

 そう言って出すのは、彼と浮気相手の文通の内容を記録したもの。

「これも証拠」
「なっ……! なぜそれを……!?」
「ただの知り合いとこんなに文通を続ける? それもこんなに愛の言葉ばかり書いて」

 それまでは散々抵抗していた彼だが、ここでようやく諦めた。肩を落とし、がっくりしたように顔に影を落としながら、「……すみません」と謝罪の言葉を口にする。とてつもなく弱々しい調子だった。

「そういうことで、婚約破棄させていただくわね」

 こうしてあたしと彼の婚約者としての日々は終わった。


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

好きな人ができたなら仕方ない、お別れしましょう

四季
恋愛
フルエリーゼとハインツは婚約者同士。 親同士は知り合いで、年が近いということもあってそこそこ親しくしていた。最初のうちは良かったのだ。 しかし、ハインツが段々、心ここに在らずのような目をするようになって……。

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

四季
恋愛
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

私は身を引きます。どうかお幸せに

四季
恋愛
私の婚約者フルベルンには幼馴染みがいて……。

処理中です...