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後編
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「今日は伝えたいことがあるの」
「どうしたんだい? ご両親まで一緒に」
彼はまだ気づいていない。
あたしたちがどういうことを言いにきたのかに。
「浮気してるわよね」
早速本題を切り出す。
いきなり過ぎる気もするが、若干馬鹿なあたしには真っ直ぐなことしかできない。
「何を言っているんだい?」
彼は意外と焦った顔をしなかった。冷静さを保ち続けている。表情も落ち着いたもののまま。大きな変化は見られない。よほど隠せている自信があるのか。
「とぼけないで」
「急にどうしたんだい? そんなことを言い出すなんてどうかしているよ」
「証拠ならあるわ。これを見て」
あたしはついに写真を取り出す。
彼と彼の浮気相手が二人仲良く写り込んでいる数枚の写真である。
腕組みをしながら歩いているもの。身を擦り寄せ合いながら語らうもの。身体こそ離れているものの、愛し合うように見つめ合っているもの。指を絡めて微笑み合うもの。
見ているだけでも胸焼けがしてくるような写真たちである。
「……っ!」
今度はさすがに表情が揺れた。
「この女性は浮気相手よね?」
「ち、違う!」
焦っているのが丸出し。見ているこちらが恥ずかしいぐらい。
「その女性は浮気相手などではないんだ! ただのちょっとした知り合いで……!」
「こんなにいちゃついているのに知り合いなの?」
あたしの両親がほぼ同時に彼を睨む。
本当は親の力なんて使いたくないけれど、今は仕方ない。
それに、婚約というのはそもそも、家と家の話でもある。あたしと彼二人だけの話ではない。それゆえ、親が出ていくというのも完全におかしな話ではないのだ。
「か、勘違いしないでほしい……! 彼女とは、本当に、ただの知り合いであって……!」
「知り合いと見つめ合うもの?」
「こ、これは……たまたま、向こうが見つめてきたところで……!」
「彼女だけが見つめているようには見えないけど。あ、そうだ。あと、これ以外にもあるの」
そう言って出すのは、彼と浮気相手の文通の内容を記録したもの。
「これも証拠」
「なっ……! なぜそれを……!?」
「ただの知り合いとこんなに文通を続ける? それもこんなに愛の言葉ばかり書いて」
それまでは散々抵抗していた彼だが、ここでようやく諦めた。肩を落とし、がっくりしたように顔に影を落としながら、「……すみません」と謝罪の言葉を口にする。とてつもなく弱々しい調子だった。
「そういうことで、婚約破棄させていただくわね」
こうしてあたしと彼の婚約者としての日々は終わった。
◆終わり◆
「どうしたんだい? ご両親まで一緒に」
彼はまだ気づいていない。
あたしたちがどういうことを言いにきたのかに。
「浮気してるわよね」
早速本題を切り出す。
いきなり過ぎる気もするが、若干馬鹿なあたしには真っ直ぐなことしかできない。
「何を言っているんだい?」
彼は意外と焦った顔をしなかった。冷静さを保ち続けている。表情も落ち着いたもののまま。大きな変化は見られない。よほど隠せている自信があるのか。
「とぼけないで」
「急にどうしたんだい? そんなことを言い出すなんてどうかしているよ」
「証拠ならあるわ。これを見て」
あたしはついに写真を取り出す。
彼と彼の浮気相手が二人仲良く写り込んでいる数枚の写真である。
腕組みをしながら歩いているもの。身を擦り寄せ合いながら語らうもの。身体こそ離れているものの、愛し合うように見つめ合っているもの。指を絡めて微笑み合うもの。
見ているだけでも胸焼けがしてくるような写真たちである。
「……っ!」
今度はさすがに表情が揺れた。
「この女性は浮気相手よね?」
「ち、違う!」
焦っているのが丸出し。見ているこちらが恥ずかしいぐらい。
「その女性は浮気相手などではないんだ! ただのちょっとした知り合いで……!」
「こんなにいちゃついているのに知り合いなの?」
あたしの両親がほぼ同時に彼を睨む。
本当は親の力なんて使いたくないけれど、今は仕方ない。
それに、婚約というのはそもそも、家と家の話でもある。あたしと彼二人だけの話ではない。それゆえ、親が出ていくというのも完全におかしな話ではないのだ。
「か、勘違いしないでほしい……! 彼女とは、本当に、ただの知り合いであって……!」
「知り合いと見つめ合うもの?」
「こ、これは……たまたま、向こうが見つめてきたところで……!」
「彼女だけが見つめているようには見えないけど。あ、そうだ。あと、これ以外にもあるの」
そう言って出すのは、彼と浮気相手の文通の内容を記録したもの。
「これも証拠」
「なっ……! なぜそれを……!?」
「ただの知り合いとこんなに文通を続ける? それもこんなに愛の言葉ばかり書いて」
それまでは散々抵抗していた彼だが、ここでようやく諦めた。肩を落とし、がっくりしたように顔に影を落としながら、「……すみません」と謝罪の言葉を口にする。とてつもなく弱々しい調子だった。
「そういうことで、婚約破棄させていただくわね」
こうしてあたしと彼の婚約者としての日々は終わった。
◆終わり◆
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