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前編

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 青緑の髪と瞳を持つ美しい令嬢カンブリア。
 彼女は風魔法使い。
 つまり風属性の魔法を使いこなすことに長けている。

 そんな彼女にも普通の女性らと同じように婚約者がいるのだが――美人かつ有能でも愛されてはいなかった。

「カンブリア、悪いが婚約は破棄させてもらう」

 その日、彼女の婚約者であるオポポトロフスはそう宣言した。

 オポポトロフスは美男子だ。
 凛々しくもどこか柔らかな容姿の持ち主で、女性ファンも多い。

 ただ、実際に近づくと、大抵彼のことが嫌いになる。

 それほどに彼の匂いは凄まじいものがあるのだ。

 まず口が臭く、どぶのような匂いがする。それに加え、鼻や顔の皮膚からは腐敗したような納豆臭。汗の量が多く、その汗は中途半端に乾いたタオルのような香り。

「カンブリア、君みたいな魔法使い女なんて愛せないんだ。だからごめんだけど……俺の前から消えてくれ」

 カンブリアは一瞬不快そうな表情を浮かべたが。

「承知しました」

 微笑んでそう返し、去った。


 ◆


 カンブリアはもやもやしていた。

 基本的には口数が少なく物静かに見える彼女だが、人形ではないし、感情がないわけではないのだ。

 彼女も人間だ、一方的に婚約破棄をされた日には複雑な心境にもなるというものである。

「……よし」

 彼女は裏山へ行きもやもやを晴らすために魔法を使うことにした。

 彼女はそこで術を発動。
 誰もいないところなので最大威力を出しさえしなければ魔法を使うことはできる。
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