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episode.17 その存在が呪い
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「邪魔者はくたばれぇぇぇっ!!」
グラネイトは壁を蹴り、デスタンに飛びかかった。
その手の内には、先ほど私に向けて飛ばしてきたのと同じ、火球のようなものが発生している。
しかし、デスタンは冷静だ。
一撃目の拳を片手で受け止めると、その手首を掴んで、グラネイトの体を一気に引き寄せる。そうして、腹へ膝蹴りを叩き込む。さらにそこから、グラネイトをベッドの方へと放り投げた。
投げられベッドに倒れ込んだグラネイトは、腕だけを動かし、火球のようなものをデスタンに投げつける。
——が、デスタンの前に金の膜が出現し、火球のようなものを防いだ。
「なぁっ!? ふ、防がれた!?」
顔面を引きつらせるグラネイト。
「ありがとうございます、王子」
「サポートはわたくしにお任せ下さい!」
「はい。分かりました」
デスタンの返事は色気ない。
だがリゴールは気にしていない様子。
きっと、二人の間には、二人にしか分からない絆があるのだろう。だから、他人から見ればよそよそしくとも、二人にとってはまた違う——といったところだろうか。
「貴方はなぜ、いつもいつもエアリの家に殴り込んでくるのです!」
グラネイトに向けて言い放ったのはリゴール。
それに対し、グラネイトは静かに返す。
「このグラネイト様がなぜここにくるか? それは簡単なこと。王子を捕らえ殺すよう、指示されているからだ!」
投げ飛ばされて頭が冷えたのか、グラネイトの口調は若干落ち着いてい。少し前までの荒々しく滅茶苦茶な口調ではなくなっている。
「しつこいです!」
「なに? しつこいだと? しつこいのは当然だろう、任務だからな」
「大人しく帰らないなら、今度は貴方が消し飛ぶくらいの魔法をぶちかまします!」
リゴールの勢いのある発言に、デスタンは戸惑ったような顔をしていた。
「……ふん。ふはは! そうかそうか!」
グラネイトは突然笑い出す。
切り替えが早すぎて、ついていけない。
「気だけは強い王子だな。威勢の良さは嫌いではない」
「……急に褒めるとは、一体何のつもりです?」
リゴールは眉をひそめる。
「だが王子。その娘が巻き込まれるのは、お前の存在があるからだ」
「……何を」
「お前が生きている限り、周囲には災難が降りかかり続けるぞ。お前は災難ばかりをもたらす呪われた王子だからな」
そう述べるグラネイトの声は、妙に静かな雰囲気をまとっている。これまでの彼の声とはまったく違う、真剣さの滲み出た声色。不気味だ。
「リゴール王子、お前の存在は呪いだ。お前の両親が亡き人となったのも、ホワイトスターが滅んだのも、お前がいたから。お前が存在したから」
ホワイトスターで何があったのか、私は知らない。だから、グラネイトが発する言葉の意味も、私には分からない。
「……っ」
ただ、リゴールが辛そうな顔をしているのを見たら、こちらまで胸が痛くなってくる。
「気にすることはありません。戯れ言は無視しましょう、王子」
「……しかし、デスタン」
「くだらない男です、彼は」
デスタンは気を遣ってリゴールに声をかけていた。しかし、一度曇ったリゴールの顔が明るくなることはなく。むしろ、リゴールの表情は固くなっていくばかりだ。
どうにかしてあげたい。
心からそう思った。
あの穏やかな瞳を、遠慮がちな笑みを、失わせたりしたくない。
そう思ったから、私は口を開いた。
「リゴールは悪くないわ!」
事情を知らない私には、リゴールを擁護する資格などないのだろうけど。それでも、彼をこれ以上傷つけたくなくて。
「攻撃を仕掛けてきたのはそっちじゃない! なのにリゴールに責任を擦り付けるようなことを言って。意地悪なことばかり言うなんて、最低よ!」
リゴールもデスタンも、驚いた顔をしていた。
無理もない、か。
それまで空気と化していた女がいきなり騒ぎだしたのだから、驚かれるのも、当然と言えば当然のことである。
「何だと。小娘風情が入ってくるな」
「小娘風情ですって? 馬鹿にしたようなことを言わないでちょうだい!」
「いや、馬鹿にしてはいないぞ。その剣を抜けた女だからな」
「……それはどうも」
数秒後、グラネイトの片側の口角が急に持ち上がる。
「だが、お前ももうすぐ、地獄に叩き落とされることになる」
グラネイトは、ふふ、と、不気味な笑みをこぼした。
「……この屋敷はまもなく、炎に包まれるだろうな」
言葉を聞いた瞬間、全身に冷たいものが駆け巡った。何とも言えない冷ややかな感触——恐怖が。
「何ですって!?」
「そろそろ、我が仲間が屋敷に火を放つ頃だ」
動揺させるための嘘という可能性もある。
けれど、そうは聞こえなくて。
「ふはは! このグラネイト様は時間稼ぎ役だった、ということだ!」
この目で確認するのが一番早い、という結論に至った私は、扉に向かって走る。部屋の外の様子を見るために。
「ふはは! せいぜい走り回りたまえ。ではな!」
そう言って、グラネイトは消えた。
私は扉を開けて、廊下へ飛び出す。
すると、付近にいたバッサが声をかけてきた。
「お嬢様! ご無事でしたか!」
「……バッサ」
「もう数秒もすれば声をかけにいこうと思っていたところです!」
バッサは青い顔をしている。
「何か……あったの?」
「先ほど、屋敷の向こうの端から出火があったと、連絡を受けまして」
「そうなの!?」
やはり、グラネイトの言葉は嘘ではなかったということか。
だが、どうすれば。
出火なんて、もう大事件だ。
「避難しましょう! お嬢様!」
「そ、そうね。あ、でも……少し待って」
早く避難しなくてはならないということは分かっている。けれど、リゴールたちを放置したまま私だけ避難するわけにはいかない。
自室へ戻ろうとした私の手首を、バッサが掴んできた。
「待てません! 危険です!」
バッサの声は、いつになく鋭かった。
「でもリゴールたちが……」
「あの方々ですか?」
「そう! 放って逃げたりはできないの!」
その頃になると、焦げ臭い匂いが漂ってきた。
「では、このバッサにお任せ下さい! 避難誘導はきちんとさせていただきます。ですからどうか、お嬢様は先に……!」
煙の匂いが近づいてくる。
そろそろ逃げなくては、本格的にまずいかもしれない。
そう思い、悩んでいると。
「エアリ!」
私の部屋から、リゴールが出てきた。
「これは……煙の匂い」
リゴールは、部屋から出てくるなり、そう言った。不審な香りに、すぐ気がついたようだ。
「……やはり火が?」
「そうみたい」
すぐ隣にいるバッサは、早くここから出たいようで、そわそわしている。
「避難せねばなりませんか」
「えぇ。けど、普通のルートで逃げたら、リゴールのことが父さんにバレてしまうわ」
秘密で彼を泊めた私が悪い。父親に叱られるのは、当然の報いと言えよう。
けれど、もし、それを避けられる道があるなら。
そんな可能性があるなら、どんなに良いだろう。
そんなことを考えていた私に、リゴールは予想外の提案をしてくる。
「では、窓から参りましょう!」
グラネイトは壁を蹴り、デスタンに飛びかかった。
その手の内には、先ほど私に向けて飛ばしてきたのと同じ、火球のようなものが発生している。
しかし、デスタンは冷静だ。
一撃目の拳を片手で受け止めると、その手首を掴んで、グラネイトの体を一気に引き寄せる。そうして、腹へ膝蹴りを叩き込む。さらにそこから、グラネイトをベッドの方へと放り投げた。
投げられベッドに倒れ込んだグラネイトは、腕だけを動かし、火球のようなものをデスタンに投げつける。
——が、デスタンの前に金の膜が出現し、火球のようなものを防いだ。
「なぁっ!? ふ、防がれた!?」
顔面を引きつらせるグラネイト。
「ありがとうございます、王子」
「サポートはわたくしにお任せ下さい!」
「はい。分かりました」
デスタンの返事は色気ない。
だがリゴールは気にしていない様子。
きっと、二人の間には、二人にしか分からない絆があるのだろう。だから、他人から見ればよそよそしくとも、二人にとってはまた違う——といったところだろうか。
「貴方はなぜ、いつもいつもエアリの家に殴り込んでくるのです!」
グラネイトに向けて言い放ったのはリゴール。
それに対し、グラネイトは静かに返す。
「このグラネイト様がなぜここにくるか? それは簡単なこと。王子を捕らえ殺すよう、指示されているからだ!」
投げ飛ばされて頭が冷えたのか、グラネイトの口調は若干落ち着いてい。少し前までの荒々しく滅茶苦茶な口調ではなくなっている。
「しつこいです!」
「なに? しつこいだと? しつこいのは当然だろう、任務だからな」
「大人しく帰らないなら、今度は貴方が消し飛ぶくらいの魔法をぶちかまします!」
リゴールの勢いのある発言に、デスタンは戸惑ったような顔をしていた。
「……ふん。ふはは! そうかそうか!」
グラネイトは突然笑い出す。
切り替えが早すぎて、ついていけない。
「気だけは強い王子だな。威勢の良さは嫌いではない」
「……急に褒めるとは、一体何のつもりです?」
リゴールは眉をひそめる。
「だが王子。その娘が巻き込まれるのは、お前の存在があるからだ」
「……何を」
「お前が生きている限り、周囲には災難が降りかかり続けるぞ。お前は災難ばかりをもたらす呪われた王子だからな」
そう述べるグラネイトの声は、妙に静かな雰囲気をまとっている。これまでの彼の声とはまったく違う、真剣さの滲み出た声色。不気味だ。
「リゴール王子、お前の存在は呪いだ。お前の両親が亡き人となったのも、ホワイトスターが滅んだのも、お前がいたから。お前が存在したから」
ホワイトスターで何があったのか、私は知らない。だから、グラネイトが発する言葉の意味も、私には分からない。
「……っ」
ただ、リゴールが辛そうな顔をしているのを見たら、こちらまで胸が痛くなってくる。
「気にすることはありません。戯れ言は無視しましょう、王子」
「……しかし、デスタン」
「くだらない男です、彼は」
デスタンは気を遣ってリゴールに声をかけていた。しかし、一度曇ったリゴールの顔が明るくなることはなく。むしろ、リゴールの表情は固くなっていくばかりだ。
どうにかしてあげたい。
心からそう思った。
あの穏やかな瞳を、遠慮がちな笑みを、失わせたりしたくない。
そう思ったから、私は口を開いた。
「リゴールは悪くないわ!」
事情を知らない私には、リゴールを擁護する資格などないのだろうけど。それでも、彼をこれ以上傷つけたくなくて。
「攻撃を仕掛けてきたのはそっちじゃない! なのにリゴールに責任を擦り付けるようなことを言って。意地悪なことばかり言うなんて、最低よ!」
リゴールもデスタンも、驚いた顔をしていた。
無理もない、か。
それまで空気と化していた女がいきなり騒ぎだしたのだから、驚かれるのも、当然と言えば当然のことである。
「何だと。小娘風情が入ってくるな」
「小娘風情ですって? 馬鹿にしたようなことを言わないでちょうだい!」
「いや、馬鹿にしてはいないぞ。その剣を抜けた女だからな」
「……それはどうも」
数秒後、グラネイトの片側の口角が急に持ち上がる。
「だが、お前ももうすぐ、地獄に叩き落とされることになる」
グラネイトは、ふふ、と、不気味な笑みをこぼした。
「……この屋敷はまもなく、炎に包まれるだろうな」
言葉を聞いた瞬間、全身に冷たいものが駆け巡った。何とも言えない冷ややかな感触——恐怖が。
「何ですって!?」
「そろそろ、我が仲間が屋敷に火を放つ頃だ」
動揺させるための嘘という可能性もある。
けれど、そうは聞こえなくて。
「ふはは! このグラネイト様は時間稼ぎ役だった、ということだ!」
この目で確認するのが一番早い、という結論に至った私は、扉に向かって走る。部屋の外の様子を見るために。
「ふはは! せいぜい走り回りたまえ。ではな!」
そう言って、グラネイトは消えた。
私は扉を開けて、廊下へ飛び出す。
すると、付近にいたバッサが声をかけてきた。
「お嬢様! ご無事でしたか!」
「……バッサ」
「もう数秒もすれば声をかけにいこうと思っていたところです!」
バッサは青い顔をしている。
「何か……あったの?」
「先ほど、屋敷の向こうの端から出火があったと、連絡を受けまして」
「そうなの!?」
やはり、グラネイトの言葉は嘘ではなかったということか。
だが、どうすれば。
出火なんて、もう大事件だ。
「避難しましょう! お嬢様!」
「そ、そうね。あ、でも……少し待って」
早く避難しなくてはならないということは分かっている。けれど、リゴールたちを放置したまま私だけ避難するわけにはいかない。
自室へ戻ろうとした私の手首を、バッサが掴んできた。
「待てません! 危険です!」
バッサの声は、いつになく鋭かった。
「でもリゴールたちが……」
「あの方々ですか?」
「そう! 放って逃げたりはできないの!」
その頃になると、焦げ臭い匂いが漂ってきた。
「では、このバッサにお任せ下さい! 避難誘導はきちんとさせていただきます。ですからどうか、お嬢様は先に……!」
煙の匂いが近づいてくる。
そろそろ逃げなくては、本格的にまずいかもしれない。
そう思い、悩んでいると。
「エアリ!」
私の部屋から、リゴールが出てきた。
「これは……煙の匂い」
リゴールは、部屋から出てくるなり、そう言った。不審な香りに、すぐ気がついたようだ。
「……やはり火が?」
「そうみたい」
すぐ隣にいるバッサは、早くここから出たいようで、そわそわしている。
「避難せねばなりませんか」
「えぇ。けど、普通のルートで逃げたら、リゴールのことが父さんにバレてしまうわ」
秘密で彼を泊めた私が悪い。父親に叱られるのは、当然の報いと言えよう。
けれど、もし、それを避けられる道があるなら。
そんな可能性があるなら、どんなに良いだろう。
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