あなたの剣になりたい

四季

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episode.30 無益な戦い

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 ——同時刻、ミセの家。

 リゴールは一人の男と対峙していた。

「ふはは! 今日こそは決着をつけさせてもらうぞ、王子!」
「……今日は窓を割らなかったのですね」

 一人の男というのは、グラネイト。
 現在の自室、エアリと共用の部屋で一人のんびりしていた時、グラネイトがいきなり窓から入ってきたのだった。

「そうだ。というのも、今日はいつもと違い、誘いに来たからな」
「……誘いに?」

 怪訝な顔をするリゴール。

「そう! では早速。一対一の戦いをしようではないか!」
「お断りします」
「な、なにィ!?」

 一対一の戦いを所望したものの即座に拒否されたグラネイトは、顎が外れかけるほど口を大きく開ける。

「このグラネイト様の提案を拒否するだと!?」

 グラネイトの灰色の肌が、怒りのせいか徐々に赤く染まっていく。

「……わたくしは、無益な戦いはなるべく避けたいのです」
「無益だと? 馬鹿か! 無益などではない! これは、我がブラックスターとホワイトスター、どちらの血が優秀かの戦いだ!!」

 グラネイトは、戦闘を避けようと消極的な態度を取るリゴールに腹を立てているらしく、荒々しく言葉を発する。

「ですから……そのような争いは無益なのです」
「何だと!?」
「どちらの血が優秀かなんて、傷つけあってまで決めることではないでしょう……!」

 リゴールは怯まず主張する。しかし、グラネイトはリゴールの主張を受け入れない。否、そもそも聞こうとさえしていなかった。

「あぁ!? いつもの威勢の良さはどうしたんだ!?」

 グラネイトは脅すような低い声で挑発的な言葉を発しながら、一歩、一歩と、リゴールに迫る。

「今日は妙に弱気じゃないか!」

 リゴールは挑発に乗ることはせず、眉をひそめて少しずつ後退する。

「……わたくしは本来、気の強い人間ではありません」
「なら、いつも偉そうな口利きやがるのは何なんだ!」

 グラネイトは苛立ちを爆発させるように叫ぶ。
 リゴールは落ち着いた声で返す。

「エアリを不安にしたくないからです」

 そしてリゴールは、上衣の内ポケットから本を取り出す。

「それ以外の理由などありません」

 リゴールが本を取り出したのを見て、グラネイトは口角をくいと上げた。

「ふはは! ようやくやる気になったか!」
「……いえ。無益な戦いは望まない、わたくしの思いに変わりはありません。それでも……貴方は戦いを望むのですか」

 暫し、沈黙。

 リゴールとグラネイト、二人だけしかいない空間は、痛いほど静かな空間と化している。

 ——そんな中、先に口を開いたのはグラネイトだった。

「そうだ。このグラネイト様はもちろん、ブラックスターに生きるすべてが、戦いを望んでいる」

 リゴールは戦いたいとは思っていない。もし戦わずに済む道があるなら、間違いなく、その道を行ったことだろう。

 だが、戦いを避けられる道はない。
 彼はそれに気がついていた。

 だから、望まないものの武器を取り出したのだ。

「戦うしかないと言うのですね……分かりました」

 リゴールは改めて、グラネイトを見据える。

「そうだ。だがここは狭い。場所を変えよう」
「場所を?」
「外でならお互い全力で戦える。その方が良いだろう」

 グラネイトの提案に、リゴールは戸惑いつつも頷いた。
 そして二人は場所を移す。


 ミセの家から歩いて五分もかからないところにある、高台の中でも一段高くなっているところ。
 草が生えていない、土が剥き出しになった地面。
 遮る物がないせいで乾いた風が吹き荒れている。

 普通の人なら、よほど重要な用がない限り決して行くことのないような、そんな場所だ。

 リゴールはそこで、本を片手にグラネイトと対峙している。

「ふはは! ここでなら存分にやり合える! 今日こそ、このグラネイト様が、お前を殺る!!」

 グラネイトは長い腕を伸ばし、正面に立つリゴールを指差す。

「……風が寒いので、早く帰りたいのですが」

 吹き荒れる強風に黄色い髪を揺らしつつ愚痴を言うリゴール。その少年のような顔には、不快の色が濃く滲んでいる。

「余裕をかましやがって……」
「寒いところは嫌いです!」
「文句は、このグラネイト様を倒してから言えばいい……」

 グラネイトは片手を横に伸ばす。すると、彼の体を囲むように、火球のようなものが並んだ。

「いくぞ!」

 叫ぶグラネイト。
 火球のようなものが、リゴールに向かって飛ぶ。

 リゴールは右手に軽く持っていた本を素早く開く。
 そして、左手から溢れさせた黄金の光で膜を作り、火球のようなものを防ぐ。

 黄金の光の膜にぶつかった火球のようなものは、その場で小爆発を起こして消えた。

 辺りに煙が立ち込める。
 グラネイトはその煙へと突っ込んでいく。

「せやぁっ!」

 煙の中で接近し、長い足で回し蹴りを繰り出すのはグラネイト。対するリゴールは、咄嗟に後ろへ跳び、回し蹴りを回避する。

 ——しかし、そこへ、もう一方の足での蹴り。

「……っ」

 リゴールは左腕で蹴りを受け流す。そしてそのまま片足を突き出し、グラネイトを蹴り飛ばす。

「なにっ!?」

 反撃を想定していなかったらしく、グラネイトはバランスを崩す。

「……参ります!」

 バランスを崩したタイミングを狙い、リゴールは黄金の光を放つ。

「ぐぅっ」

 脇腹に黄金の光を食らったグラネイトは、短く詰まるような声を漏らし、よろけながら数歩下がる。
 魔法による攻撃を食らい動きを止めたグラネイトに向かって、リゴールの魔法がさらに放たれる。

「ぐっ!」

 グラネイトは両手を胸の前で交差させ、黄金の光を防ぐ。
 だが、防いだからといってダメージがないわけではないようで、眉間にしわを寄せている。

「……やるな、王子」
「気が済んだなら去って下さい。無益な争いは望みません」

 リゴールは静かな声でそう告げる。

「もう止めましょう、こんなこと」

 だが、リゴールの言葉がグラネイトに火をつけた。

「馬鹿にしやがって……ふざけるなぁぁぁ!」

 草一つ生えない大地を蹴り、グラネイトはリゴールに向かって駆けてゆく。

「……まだ続けるのですね」
「当然だろう! どちらかが絶命するまで、戦いは終わらない!!」

 襲い来るグラネイトを捉えるリゴールの瞳には、悲しげな色が滲んでいた。
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