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episode.46 迫り来る土人形に
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盛り上がった土はやがて、何体もの人形へと変貌する。
ごぼごぼと不気味な音をたてながら、ただの土であったものが異形へと変わりゆく様は、恐ろしいとしか言い様がない。
ほんの数十秒のうちに、黒い土人形に取り囲まれてしまった。
「……倒す?」
背中合わせに立っているリゴールに向かって、小さな声で尋ねる。すると彼は、静かに頷きながら言葉を返してくる。
「はい。しかしエアリ、くれぐれも無理はなさらないで下さいね」
直後、私たちを囲んでいる土人形が一斉に動き出す。
彼らは確かに、こちらへ向かってきていた。
一瞬背後へ視線を向ける。すると、魔法で土人形を吹き飛ばしているリゴールの姿が見えた。先日の件があったため、戦えるのか少し不安だったが、見た感じ問題なさそうだ。
それより今は、自分の心配をせねばなるまい。
私はすぐに、向かってきている土人形へ視線を戻した。
「……やってやるわよ」
ホウキで土人形と戦う女。
それは実にシュールな構図であろう。
だが、今は、かっこよさなんてどうでもいい。そんなことより、生き残ることが重要だ。
こんなところでやられるわけにはいかない。エトーリアやバッサを残して、私だけがあっさり逝くわけにはいかないのだ。
だから私はホウキを振った。
土人形は、幸い、動きはあまり早くなくて。だから、私でもホウキの先を当てることはできた。
「来ないで!」
大きく振りかぶって殴ったり、槍で突く時のような動作で突いてみたり。取り敢えず、できることはすべてやってみる。
赤い空の下、黄金の粉が華麗に舞っていた。
その後、ものの数分で、土人形たちはすべて土へ還った。
「やりましたね、エアリ」
「えぇ! ……ま、倒したのはほとんどリゴールだけどね」
「いえ。エアリも頑張って下さったと思いますよ」
確かに、頑張ったことは頑張った。自分でもそこは認めたいと思う。素人ながら二三体片付けたのだから、まだ頑張った方だろう。
……でも。
今のような状態のままでは、リゴールの負担が大きすぎる。
もっと努力して、せめて三分の一くらいは倒せるようにならなければ、いずれリゴールはへばってしまうだろう。
そんなことを考えていると。
「いやぁ、いい戦いっぷりだったねー」
背後から声がした。
私とリゴールは、ほぼ同時に声がした方を向く。
するとやはり、そこには、トランが立っていた。いつの間に、というような登場の仕方である。
「約束通り、二人で来てくれたんだね。嬉しいよ」
トランはにっこり笑う。
悪意の欠片も感じられないような笑顔——だが、そこが不気味なのだ。
「……デスタンは返していただけるのですね?」
「もちろん。会わせてあげるよ」
リゴールの問いに対し、トランは明るい声で返す。
だが、少し引っ掛かる部分があって。
「ちょっと待ってちょうだい」
思いきって口を挟んでみることにした。
「ん? 何かな?」
「会わせるとは言ったけど返すとは言ってない、とか……後から言い出さないでしょうね?」
相手がトランだけに、確認せずにはいられなかった。彼は後からややこしいことを言い出しそうだから。
「言わないと約束して」
「うん! 約束してあげるー。そんなことは言わないよー」
こんな口約束、何の効力も持たないかもしれない。でも、それでも、約束しないよりかはましだと信じて。
「じゃ、案内するよ」
「……デスタンのところへですか?」
「うんうん、そういうことー」
軽やかに言って、トランは歩き始める。私とリゴールは、その背を追うように足を動かすのだった。
歩くことしばらく、灰色の石で作られた建造物の前にたどり着いた。
いかにも住居という感じでなく、人がいるわけでもないのに殺伐とした空気が漂っている。いや、正しく表現するなら「昔は殺伐とした空気が漂っていたのだろうな」という感じだろうか。
また、風化が進んでいるようで、石で作られた外壁はあちこち欠けていた。
「……こんな怪しいところへ連れてきて、どうする気?」
「まぁまぁ。そうピリピリしないでよ。心配しなくても、彼にはちゃんと会わせてあげるからさー」
「……返して、でしょ?」
「あ、そうだったね。ごめんごめんー」
先頭を行くトランは、建造物の中へと足を進める。
罠な気しかせず不安でいっぱいだが、今さら引き返すわけにもいかないので、黙って彼の背を追う。
さらに歩き、到着したのは、ボロボロの広間。
ワインレッドの絨毯はところどころ剥げ、灰色の石の床が剥き出しになっている。壁紙は、それらしき模様が微かに残ってはいるものの、とても綺麗と言えるような状態ではない。また、二人用ソファや高さのないテーブルが、幾つも転がっていて、泥棒に入られたかのよう。
そんな凄まじい状態の広間だが、昔は綺麗な内装だったのだろう、と想像することはできる。
「……ここはなぜ、こんなにも荒れているのですか」
荒れ果てた室内に、リゴールは戸惑っているようだった。
「昔は砦として使ってたみたいだねー。でも、今はもう使ってない。だからじゃないかな」
「なるほど……」
「ふふふ。素直だねー」
私とリゴールの足が広間の中央辺りに差し掛かった時、トランは唐突にくるりと振り返る。
「さて。じゃ、歓迎といこうかー」
トランは両腕を大きく広げ、顔に向日葵のように明るい笑みを浮かべる。
ちょうどそのタイミングで、向こうから何者かがやって来た。フードを被った人陰は、淡々とした足取りでこちらに向かって進んでくる。
「……何者です?」
リゴールが怪訝な顔で発する。が、フードを被った者は何も返さない。ただ、こちらに向かって足を動かすばかりだ。
少しばかり目を凝らすと、その片手に斧が握られているのが見えた。
フードを被った人物は、まったく乱れぬ足取りで歩いてきていたが、トランの真横でぴたりと停止した。
そして、斧を握っていない方の手で、フードを外す。
刹那、衝撃が駆けた。
——その正体が、デスタンだったから。
「デスタン!?」
リゴールが叫ぶ。
フードの人物は、確かに、デスタンの姿をしている。しかし、彼らしいかと言われれば、そうではない。いつものような鋭い眼光はなく死人のような目をしているところが、彼らしくないということの良い例だ。
「デスタン……なのですか?」
動揺に顔をひきつらせながらリゴールは問う。
だが、フードの彼がその問いに答えることはなかった。
「……これは一体、どういうことですか」
デスタンらしき者の登場に衝撃を受けていたリゴールが、視線をトランへ移す。その時、彼の目には、怒りの色が滲んでいた。
「ん? どういうことーって、どういうこと?」
「とぼけないで下さい! ……デスタンに何をしたのです」
珍しく声を荒らげるリゴール。
「んー、ま、ちょっと魔法をかけたかなぁ」
「すぐに解きなさい!」
「えー。せっかくかけたのに、面倒臭いなぁ」
リゴールが真剣であるのに対して、トランは遊んでいるかのような表情だ。
「あ! そうだ。何なら、君が解いちゃいなよ」
「それは……どういう意味です」
リゴールの発言に、トランはニヤリと笑いながら「こういう意味だよ」と小さく返す。
そして。
「さ! あの二人、とっとと片付けちゃってよ!」
トランは、フードの人物——魔法をかけたデスタンに、そう命じた。
ごぼごぼと不気味な音をたてながら、ただの土であったものが異形へと変わりゆく様は、恐ろしいとしか言い様がない。
ほんの数十秒のうちに、黒い土人形に取り囲まれてしまった。
「……倒す?」
背中合わせに立っているリゴールに向かって、小さな声で尋ねる。すると彼は、静かに頷きながら言葉を返してくる。
「はい。しかしエアリ、くれぐれも無理はなさらないで下さいね」
直後、私たちを囲んでいる土人形が一斉に動き出す。
彼らは確かに、こちらへ向かってきていた。
一瞬背後へ視線を向ける。すると、魔法で土人形を吹き飛ばしているリゴールの姿が見えた。先日の件があったため、戦えるのか少し不安だったが、見た感じ問題なさそうだ。
それより今は、自分の心配をせねばなるまい。
私はすぐに、向かってきている土人形へ視線を戻した。
「……やってやるわよ」
ホウキで土人形と戦う女。
それは実にシュールな構図であろう。
だが、今は、かっこよさなんてどうでもいい。そんなことより、生き残ることが重要だ。
こんなところでやられるわけにはいかない。エトーリアやバッサを残して、私だけがあっさり逝くわけにはいかないのだ。
だから私はホウキを振った。
土人形は、幸い、動きはあまり早くなくて。だから、私でもホウキの先を当てることはできた。
「来ないで!」
大きく振りかぶって殴ったり、槍で突く時のような動作で突いてみたり。取り敢えず、できることはすべてやってみる。
赤い空の下、黄金の粉が華麗に舞っていた。
その後、ものの数分で、土人形たちはすべて土へ還った。
「やりましたね、エアリ」
「えぇ! ……ま、倒したのはほとんどリゴールだけどね」
「いえ。エアリも頑張って下さったと思いますよ」
確かに、頑張ったことは頑張った。自分でもそこは認めたいと思う。素人ながら二三体片付けたのだから、まだ頑張った方だろう。
……でも。
今のような状態のままでは、リゴールの負担が大きすぎる。
もっと努力して、せめて三分の一くらいは倒せるようにならなければ、いずれリゴールはへばってしまうだろう。
そんなことを考えていると。
「いやぁ、いい戦いっぷりだったねー」
背後から声がした。
私とリゴールは、ほぼ同時に声がした方を向く。
するとやはり、そこには、トランが立っていた。いつの間に、というような登場の仕方である。
「約束通り、二人で来てくれたんだね。嬉しいよ」
トランはにっこり笑う。
悪意の欠片も感じられないような笑顔——だが、そこが不気味なのだ。
「……デスタンは返していただけるのですね?」
「もちろん。会わせてあげるよ」
リゴールの問いに対し、トランは明るい声で返す。
だが、少し引っ掛かる部分があって。
「ちょっと待ってちょうだい」
思いきって口を挟んでみることにした。
「ん? 何かな?」
「会わせるとは言ったけど返すとは言ってない、とか……後から言い出さないでしょうね?」
相手がトランだけに、確認せずにはいられなかった。彼は後からややこしいことを言い出しそうだから。
「言わないと約束して」
「うん! 約束してあげるー。そんなことは言わないよー」
こんな口約束、何の効力も持たないかもしれない。でも、それでも、約束しないよりかはましだと信じて。
「じゃ、案内するよ」
「……デスタンのところへですか?」
「うんうん、そういうことー」
軽やかに言って、トランは歩き始める。私とリゴールは、その背を追うように足を動かすのだった。
歩くことしばらく、灰色の石で作られた建造物の前にたどり着いた。
いかにも住居という感じでなく、人がいるわけでもないのに殺伐とした空気が漂っている。いや、正しく表現するなら「昔は殺伐とした空気が漂っていたのだろうな」という感じだろうか。
また、風化が進んでいるようで、石で作られた外壁はあちこち欠けていた。
「……こんな怪しいところへ連れてきて、どうする気?」
「まぁまぁ。そうピリピリしないでよ。心配しなくても、彼にはちゃんと会わせてあげるからさー」
「……返して、でしょ?」
「あ、そうだったね。ごめんごめんー」
先頭を行くトランは、建造物の中へと足を進める。
罠な気しかせず不安でいっぱいだが、今さら引き返すわけにもいかないので、黙って彼の背を追う。
さらに歩き、到着したのは、ボロボロの広間。
ワインレッドの絨毯はところどころ剥げ、灰色の石の床が剥き出しになっている。壁紙は、それらしき模様が微かに残ってはいるものの、とても綺麗と言えるような状態ではない。また、二人用ソファや高さのないテーブルが、幾つも転がっていて、泥棒に入られたかのよう。
そんな凄まじい状態の広間だが、昔は綺麗な内装だったのだろう、と想像することはできる。
「……ここはなぜ、こんなにも荒れているのですか」
荒れ果てた室内に、リゴールは戸惑っているようだった。
「昔は砦として使ってたみたいだねー。でも、今はもう使ってない。だからじゃないかな」
「なるほど……」
「ふふふ。素直だねー」
私とリゴールの足が広間の中央辺りに差し掛かった時、トランは唐突にくるりと振り返る。
「さて。じゃ、歓迎といこうかー」
トランは両腕を大きく広げ、顔に向日葵のように明るい笑みを浮かべる。
ちょうどそのタイミングで、向こうから何者かがやって来た。フードを被った人陰は、淡々とした足取りでこちらに向かって進んでくる。
「……何者です?」
リゴールが怪訝な顔で発する。が、フードを被った者は何も返さない。ただ、こちらに向かって足を動かすばかりだ。
少しばかり目を凝らすと、その片手に斧が握られているのが見えた。
フードを被った人物は、まったく乱れぬ足取りで歩いてきていたが、トランの真横でぴたりと停止した。
そして、斧を握っていない方の手で、フードを外す。
刹那、衝撃が駆けた。
——その正体が、デスタンだったから。
「デスタン!?」
リゴールが叫ぶ。
フードの人物は、確かに、デスタンの姿をしている。しかし、彼らしいかと言われれば、そうではない。いつものような鋭い眼光はなく死人のような目をしているところが、彼らしくないということの良い例だ。
「デスタン……なのですか?」
動揺に顔をひきつらせながらリゴールは問う。
だが、フードの彼がその問いに答えることはなかった。
「……これは一体、どういうことですか」
デスタンらしき者の登場に衝撃を受けていたリゴールが、視線をトランへ移す。その時、彼の目には、怒りの色が滲んでいた。
「ん? どういうことーって、どういうこと?」
「とぼけないで下さい! ……デスタンに何をしたのです」
珍しく声を荒らげるリゴール。
「んー、ま、ちょっと魔法をかけたかなぁ」
「すぐに解きなさい!」
「えー。せっかくかけたのに、面倒臭いなぁ」
リゴールが真剣であるのに対して、トランは遊んでいるかのような表情だ。
「あ! そうだ。何なら、君が解いちゃいなよ」
「それは……どういう意味です」
リゴールの発言に、トランはニヤリと笑いながら「こういう意味だよ」と小さく返す。
そして。
「さ! あの二人、とっとと片付けちゃってよ!」
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